第百十四話 初冒険、初臨死体験
「では休みの間もしっかりと鍛錬をするように。」
「了解しました!アイリーンにも鍛錬を教えておきます!」
俺の言葉を聞いたフォルナとウィンストンは真剣な表情で頷く。
俺は今日の役目は終わったので、二人から離れて演習場の出口に向かっていると我慢しきれなくなったサミュエルが声をかけてくる。
「ルドルフ!それでも見てなくちゃ駄目だろ?ついででいいから将棋で勝負だ!」
「お前は・・・どれだけ勝負がしたいんだ?」
サミュエルが満面の笑みで地面に将棋盤を広げて駒を並べ始めるので、思わず心の声が漏れる。
「ここまで付いて来るくらいには負け続けて悔しい!」
「なら勝負するか。」
サミュエルの熱意に負けて鍛錬をする二人を見ながら将棋を打つ。
「勝てない・・・」
「さて、そろそろいい頃だろう。」
俺が勝ち絶望の表情で将棋盤を眺めるサミュエルを無視して真面目に座禅を組んで鍛錬を続けるウィンストンとフォルナの下へと歩く。
「どうだ?魔力の流れは掴めたか?」
「・・・よくわかりませんね。」
「・・・私も同じくですね。」
ウィンストンとフォルナは不満そうに答える。
しっかりと魔力の流れが感じられるように鍛錬を積んで欲しいものである。
むしろそうしないとウィンストンがマルスに勝つなんて事は夢物語だ。
「今日の訓練はこれで終了だ。休みの間もしっかりと鍛錬をしてくれ、量よりも質を意識しろ?フォルナは・・・自由にしてくれ。」
「それで本当にマルスに勝てますか?」
「さぁな?だが勝つためにやれる事はやっておいて損は無いと思うが?」
「そうですね・・・信じましょう!」
ウィンストンは俺の言葉に真剣な表情で答えるので俺もウィンストンの事を信じるしかない。
「私への言葉が適当すぎますよ・・・」
「すまんが俺も少々焦っている。」
フォルナは俺の言葉に何やら落ち込んだ様子だが俺にはそれをフォローする余裕は無い。
「(フォルナには申し訳ないが、さすがにマルスでもゴブリン二十体は余裕だろう。今のウィンストンの腕前では勝つ見込みは零だ。)」
思った以上にウィンストンがヘタレだったので焦っているのだ。
「じゃあサミュエル、アラン寝るぞ。」
「かしこまりました!」
「あいあいさー!」
俺は振り向いてサミュエルとアランに向かって言う。
サミュエルはしっかりと頷いて答え、アランは本当に嬉しそうに飛び上がって返事をする。
「(護衛任務と言うのは大変なんだな。)」
サミュエルを守るために常に守れる場所にいなければいけないアランを見て、護衛任務は絶対に受けないようにしようと心に誓う。
サミュエル達と演習場を後にして寝静まった廊下でマスクと武器をマジックバッグに入れて自分に認識阻害魔法をかけてから口を開く。
「俺は部屋で静かに読書して寝ている事になっているから、ここで失礼する。」
「へい!・・・明日はターニャ達の護衛よろしくね?」
「わかった!また休み明けにね?」
「(そうか・・・明日俺は無給で護衛任務だったか・・・)」
アランの言葉に先程の護衛はしないという決意は無駄だったと気付いてしまう。
二人と別れて自分の部屋へと戻り、ベッドの上で座禅を組んでしっかりと鍛錬を行ってから眠りに着く。
「よし行くか。」
備え付けの勉強机で朝食を食べ、ターニャ達との集合場所である校門へと向かう。
校門ではしっかりと武装して準備万端といった様子のターニャとロジェとマット、それに前期でターニャが同じ二人部屋で仲良しになったらしいソフィアが待っていた。
ソフィアはターニャと同じように淡いブロンドのショーヘアーでとても気の強そうな女の子だ。
俺を見つけたターニャがすごい剣幕で駈け寄ってくる。
「おそぉーいっ!」
「お前みたいにやる気満々じゃないからな。」
ターニャは金属製の胸当てなどの防具と付けて、左右の腰に剣と杖をそれぞれ差して完全武装だ。
それに対して俺は調理道具を詰め込んだリュックサックを背負って武器は全部マジックバッグに入れている。
防具の類は動きにくくなるので一切着けていない。
「まぁいいわ!行くわよ!」
そう言ってターニャが踵を返して街へと向かって歩いて行く。
「ニコ?その背負いカバンには何を入れてんの?」
「調理道具だ。にしてもマット?ロジェもか。その鎧はどこで手に入れた?」
マットが話しかけてくるので答えるのだが、マットとロジェはどこから手に入れたのかかなり使い込まれた皮の胸当てや皮のガントレットをしている。
「バイト先の店主が元冒険者でね?譲ってもらったんだ!やっぱり古すぎるかな?」
「ターニャ達の値段ばかりの防具に比べれば絶対にそっちの方がいいと思うぞ。」
俺の言葉にマットとロジェが嬉しそうにお互いの防具を触り始める。
二人を喜ばそうと思って言った訳ではない。
金属製の防具は重たい上に蒸れる。
だが皮製だと軽いし、使い込まれていると言う事は滑りもいいので攻撃を正面から受け止めるのではなく、力の方向を逸らせればるように使えば下手な金属製の防具よりも役に立つだろう。
三人でわいわいと話しながら、ターニャとソフィアの後ろを付いて行きギルドに着く。
「すまんが俺はこの時間のギルドには入らんぞ。」
今は朝一に張り出された割のいい依頼を取るための冒険者達でギルド内がごった返している時間だ。
俺はあんな人込みの中に飛び込んで依頼を取るつもりは無い。
「よぉしっ!俺が行って来る!」
「わしもじゃ!任せぇ!」
そう言ってマットとロジェが鼻息も荒く建物の中に入って行く。
「ここまでとは・・・あの二人を誘って本当に良かったわ。」
「そうね・・・あたしもあの中には入っていけない。」
「二人と同意見だ。」
ターニャとソフィアが我先にと依頼ボードに詰め寄る冒険者で芋洗いの如くなっているギルドの中を見て話している、俺も心の奥底から同調する。
しばらく待っていると依頼票を握り締めたマットとロジェが大人の冒険者に紛れてギルドから出て来る。
「しっかりと取ったよ!」
「昨日話してた通り東の湿地関連の依頼とって来たぞ!」
二人が満面の笑みで駈け寄ってくる。
どうやら今日は東の湿地帯に向かうようだ。
「ターニャ?東の湿地は野盗が出没するって聞くぞ?」
「大丈夫よ!日帰りだから問題ないわ!」
俺の質問にターニャが自身満々に答えるが俺は不安で一杯だ。
始めての冒険なのにそんな予定通りに行くわけがない。
「そう上手く行くか?」
俺が問いかけた時にはターニャはみんなを引き連れて東の門へと向かって歩いていた。
俺は深い溜息を吐いて始めての冒険へと希望に満ち溢れた表情で話しながら歩く四人に付いて行く。
東の門を抜けて森の中に入るので俺は弓をマジックバッグから取り出して意気揚々と森を進む四人の後ろを付いて行く。
「(というか・・・魔物の生息域に入ったのにのん気過ぎないか?)」
楽しそうに話しながら森を進む四人を見て警戒をする自分が馬鹿みたいに思えてくる。
「おい!ホーンラビットだぜ!」
「おぉ・・・もし捕まえれりゃあそれだけで五人分の日当になるのぅ!」
約三百メートル前方に白いモフモフした物が見え、マットとロジェが息を殺してその白いモフモフへと忍び寄って行く。
「いいわよ二人共その調子!」
「ねぇ?ホーンラビットって高いの?」
そんな二人を応援するようにターニャが二人を小声で応援し、ソフィアがターニャに尋ねている。
魔兎ホーンラビットとは額からニ十センチ程の角が一本生えていて、体長五十センチの兎の魔物だ。
角が薬の元になるとかでとても高く売れる魔物である。
ただとてつもなく臆病で不用意に近づくと百メートルも近づけずに察知されて逃げる魔物なんだそうだ。
俺は前に薬草取りをしている時に見つけて余りにモフモフなので撫でたくなり気配を消して近づいて持ち上げたらそのままショック死してしまった悲しい思い出がある。
ちなみにその時は仕方なくギルドに薬草と一緒に受付に出すと、依頼達成金を含めて五万ゴールドになった。
「なぁ?あれホーンラビットじゃないんじゃないか?」
「は?なんで?」
「マットとロジェが近づいて逃げないのはおかしい。」
「は?マットとロジェが上手く近づいてるって事でしょ?」
ターニャが俺の言葉に呆れ半分に言うが、今のマットとロジェは身を屈め足音を消して近づいてるのだが、残念かなホーンラビットは音などにも敏感だがそれよりも魔力に反応すると図鑑に書いてあったと記憶している。
魔力駄々漏れの二人がもう五十メートル近くまで近づいているが、遠くの白いモフモフは変わらず地面で草を食んでいる。
あれがホーンラビットだとすれば絶対におかしいのだがターニャとソフィアはホーンラビットの稼ぎに目が眩んで全く相手にしてくれない。
「嫌な予感がする。」
「ちょっと!そんなリュックサックをガチャガチャ言わせたあんたが行ったら逃げちゃうじゃない!」
「そ、そうですよ!ニコ君二人を見守りましょう!」
俺が二人の下に行こうとすると、必死の形相のターニャとソフィアに引き止められる。
「・・・間に合わなくなっても俺のせいじゃないからな。」
「何が間に合わなくなるって?」
「そうですよ!今マット君が飛びつく所ですよ?」
俺が言うと二人が今にも飛びつけそうな距離にまで近づいたマットとロジェを見ながら言う。
「俺の予想通りなら・・・ほらな?助けに行くから離せ。」
「えぇ・・・何あれ?」
「マット君が!マット君がっ!!」
俺が言うと、マットが白いモフモフに飛び掛った瞬間に地面から突然緑色の何かが出てきてホーンラビットとそれに飛びついたマットの姿が消える。
一緒に飛びかかろうとしていたロジェが腰が抜けたのか地面にへたり込んでいる。
それを見たターニャは唖然としてソフィアは髪を掻き毟って半狂乱になっている。
「通称馬鹿食い蛙、ダムフロッグだ。」
「え?ダムフロッグ?」
「マット君がっっ!」
俺は一応言うだけ言ってマットへと駆け出す。
ターニャはダムフロッグを知っているのだろうとても驚いた表情だ。
ソフィアは相変わらず半狂乱で髪を掻き毟り、綺麗にセットされていた髪が今は見るも無残にボサボサになっている。
「ロジェ、下がってろ。」
「ニコどうにか出来るんか?」
「どうにかしないとマットが死ぬだろう?」
「その通りじゃ!」
地面に尻餅を付いたままズリズリと後ずさるロジェと話しながら土魔法で地面に潜ろうとしているダムフロッグに向けて矢を放つ。
しっかりと目に命中し、ダムフロッグは地面に潜るのをやめてその場でのた打ち回り始める。
「よし、とりあえず地面に潜るのは阻止した。」
次に学校用のロングソードをマジックバッグから取り出してのた打ち回るダムフロッグの脳天へと突き立てる。
間抜けな顔をしたダムフロッグは何度か痙攣して動きを止めるので、すぐにダムフロッグの口を開いて中に体を突っ込む。
「弱い魔物じゃったんか・・・」
俺がマットを引き摺りだそうと悪臭を放つダムフロッグの口の中で悪戦苦闘していると、ロジェがしみじみと言っている。
ロジェの目からは簡単に仕留めたように見えたのだろうが安易な気持ちでダムフロッグに挑まないようにしっかりと言っておかなければならないだろう。
「ロジェ?こいつは目などの粘膜部分以外はとてつもなく弾力のある皮で守られている上に土魔法を使ってくる危ない魔物だから見つけたら逃げろ?」
「あん?ニコは簡単に仕留めたがな!」
「そう言うなら好きにすればいい。」
ロジェの言葉に半ば呆れながら手探りで喉から胃へと手を突っ込んでマットを掴んで一気に口の中へと引っぱり出し、そのまま地上にマットを引きずり出して治癒魔法を行い、マットの蘇生を試みる。
「ぶへっ!ぶほっほっ!」
マットがダムフロッグの胃液だろう、大量の粘液を吐き出し始めるので一安心だ。
「ニコ!?何をしたんな?マットが謎の液体を吐き出しとるぞ!?」
「煩い。ダムフロッグの胃液だろう。水を飲ませてやれ。」
俺の言葉にロジェが腰に付けた皮袋製の水筒で水を飲ませ始める。
マットは少し息が荒いがしっかりと水を飲んでいるので大丈夫そうだ。
一安心して恐る恐る近づいてくるターニャとソフィアを待つ。
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