第百十三話 ウィンストンを鍛える
「昨日よりも起きたくないな・・・」
朝目覚めるが昨日と同じく布団が気持ちよすぎて出たくない。
そして今日からアルフレッドの息子に特訓をしなければならないと言うのがあり、更にその気持ちを加速させる。
「ニコ?起こしに来たよ?」
布団の中でもぞもぞとしていると、部屋にノックの音が響く。
サミュエルが起こしに来てくれたようだ。
おそらく調理室に行っても俺がいなかったので起こしに来たのだろう。
「開いてるぞ。」
仕方なく返事をするとサミュエルが入ってくる。
「なんともシンプルだね?シンプル所かニコの私物は例の布団だけかい?」
「あぁ。全部マジックバッグの中だ。収納家具を買いたいのだが時間がな・・・」
「ふむ・・・」
「それにしても・・・今日からの予定を考えると憂鬱だ。」
着替えながらサミュエルと世間話をしていると、思わず愚痴を溢してしまう。
「へぇ?ニコでもそんな顔をするんだね?」
「なぜ八歳の俺が十四歳を鍛えにゃならんのだ・・・おかしいだろう。」
少し考え込んだサミュエルは俺を見て面白そうに言って来るので思わず更に愚痴ってしまう。
「まぁニコが教えるのが上手いのは本当だし。戦闘能力は大人顔負けどころじゃないからねぇ?」
「これならドラゴン退治を依頼される方がましだ・・・さぁ部屋を出たらこの話は無しだ!」
俺は言うだけ言って部屋から出る。
サミュエルは俺の言葉を聞いて何か言いたそうだったが、俺は構わず部屋から出て調理室へと向かう。
「ニコ?鍵は閉めなくていいのかい?」
「部屋は結界を張ってあるから問題無い。」
俺が許可した人間以外は入れない様になっている。
先程も結界内である部屋の中だから愚痴を言えたが、今はどこに誰の耳があるかわからないので下手な事はいえない。
今の発言が限界ギリギリだ。
「ニコ?表情で大体考えがわかるけど、結界発言は普通に非常識だからね?離れても発動し続ける結界なんて、我が国の筆頭魔法師でも無理だからね?」
「む?わかった、ありがとう。」
離れても発動するのは昨夜の話でも出たが、スパイの密会小屋の認識妨害魔法を参考にさせてもらった。
今は魔の森から持って来ていたレッドドラゴンの魔石を使って結界を維持している。
そんな事よりも今の話は限界ギリギリ所か余裕で非常識だったようだ。
人間社会の常識は大体把握したと自負していたのだが、まだまだなようだ。
しっかりと反省しながら調理室へと向かう。
「朝食は野菜スープとオムレツだが・・・昼食と夕食の要望はあるか?」
「ふむ。昼食は蟹を使ったパスタで、夕食はあれ!絶品だったミノタウロスの舌を使った料理を食べたいな?」
「わかった。なら夕食はタンシチューにしよう。」
サミュエルのおかげで今日の献立は決まった。
サミュエルも前に作ったタンステーキの味を思い出しているのだろう、舌なめずりしながらガッツポーズしている。
どこかの部族の文献で牛の舌を食べると書いてあったのでそれに倣ってミノタウロスの舌でステーキを作って出した時はアランだけじゃなくサミュエルとフォルナにアイリーンまでも一緒になって嫌そうな顔をしていたが、一口食べるとみんな夢中になって無言で食べていたのを思い出す。
「にしてもニコ上手いねぇ?うちのシェフよりも上手いんじゃないか?」
「それは言いすぎだ。」
俺がオムレツを作っているとサミュエルが感心したように言って来る。
確かに週に一回は八人前のオムレツを作っているので上達したという自負はあるのだがシェフとまで言われると、それは言いすぎと言うものだ。
サミュエルと和気藹々と料理をしながら今日も平和な一日が始まる。
昨日と同じようにバルテ先生の忙しない座学を終え、アイリーンの立てた予定で試合をこなす。
アイリーンの予定表は大変助かった。
次の俺の試合が何戦後かわかる事によって、待ち時間の予測が出来るのでその時間までしっかりと読書に集中できたからだ。
その後タンシチューを食べ終わったターニャ達が明日の休みに狩りに行く森の話で盛り上がる中、俺は立ち上がって口を開く。
「すまんが明日の行き先はみんなで決めてくれ。俺は疲れたから寮に戻って読書をしてから早めに就寝させて頂く。」
「わかったよ!ニコはゆっくり休んでね!」
「御飯作って貰ってるし、これくらいは任せなさい!」
「そうじゃそうじゃ!たまにはわしらがニコを助けるんじゃ!」
「僕は参加はしないけど、一緒に考えるかな?」
俺が言うとみんなが一斉に俺の体を気遣って言ってきてくれる。
大変ありがたい話だ。
そんなみんなをフィルとアランとサミュエルは微笑ましく見てから俺を見て真剣な表情で頷くので、俺も黙って頷き返して寮に帰る。
「さて・・・行くか。」
自分の部屋に戻り、マスクと武器を装着してローブを羽織りルドルフになる。
しっかりと忘れずに認識阻害魔法を自分にかけて演習場へと向かう。
「フォルナ・ロヴネル!俺の教官と言うのはいつ来るんだ!?」
「もう少々です。お待ち下さい。」
「ちっ!俺を待たせるとはなんてやつだ・・・父上に言いつけてやる!」
演習場に入ると一人の男がフォルナに怒鳴りつけていた。
恐らくあの男がアルフォンスの息子ウィンストン・テリエだろう。
第一印象は最悪の一言だ。
魔法を解いて二人に近づく。
「待たせたようだな?」
「ふん!貴様が俺の教官か?俺に何を教えるんだっっっっぐえ!」
とりあえず上から物を言って来てイラッとしたのでとりあえず殴っておく。
「何一つ反撃出来ないのか・・・フォルナ?アルフォンスの名前を使って偉そうにするこいつがウィンストンでいいんだな?」
「はい!その通りであります!」
「グッ!父上に言いつけてやる!」
俺に殴られそのまま地面に崩れ落ちるウィンストンを見て呆れながらとても嬉しそうに表情を緩ませるフォルナに尋ねる。
フォルナが敬礼をしながら言い、ウィンストンは地面に四つん這いで俺を睨みつけながら吐き捨てる。
性懲りも無くアルフォンスの名を出しているので、しっかりと俺の立場を理解させる必要がありそうだ。
「アルフォンスに言ってどうなるんだ?」
「え?貴様騎士なのだろう?」
「確かに肩書きは騎士団第九番隊々長ルドルフだ。」
「九番隊・・・だと?騎士団は七番隊までしかない・・・」
「本当の事です!」
俺の言葉にウィンストンが目を白黒させながら言い、フォルナがしっかりと援護射撃をしてくれる。
「いいか?俺はアルフォンスの部下では無い。そして俺に命令が出来る人間の中に申し訳ないがアルフォンスは入ってない。」
「マジですか・・・」
ウィンストンをびびらせようと思って言ったのに、フォルナが目を見開いて思わずと言った様子で言う。
ウィンストンは何を言われたのか理解出来ないのか四つん這いのままキョトンとしている。
「単刀直入に言おう。俺はアルフォンスより貴様を武闘会で優勝するように鍛えろと依頼を受けた。間違えるな?命令でなく依頼だ。」
「ふ、ふん!俺は騎士にはならん!冒険者になって一旗上げるんだほっといてくれ!」
俺の言葉に我に返ったウィンストンが苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨て、フォルナが額を押さえてやれやれと声が聞こえてきそうな様子で首を横に振っている。
「ほう?アルフォンスは騎士になって欲しそうな感じだったぞ?」
「父上のように毎日母上に小遣いをねだって夕食に安酒を大事そうにちびちび飲むなんてごめんだ!俺は冒険者になって自由に暮らすんだ!」
アルフォンスのプライベート情報を聞いて、思わず可哀想になるが今は関係無い。
今はウィンストンをやる気にさせる事が先決だ。
「ほう?それならそれでいい。なら優勝してから冒険者になると言えばアルフォンスも了承するんじゃないのか?」
「父上の了承なんていらない!俺は学校を出たら自立するんだ!」
先程までアルフォンスの威光を笠に威張っていた人間とは思えない言葉に呆れ返ってしまう。
思わずフォルナを見るが先程からずっと額を押さえたままのようで援護射撃は期待できそうもない。
「でも、冒険者って常に命のやりとりばかりで危険な職業よ?」
「むしろ命のやり取りをしない試合なんてやる気が起きないね!・・・国崩し!?」
俺がウィンストンを殴った辺りでアランとサミュエルは演習場に入って来ていたのだが、邪魔をしないと言った手前何も言わずに聞いていたが、たまらず入ってきたようだ。
「そうか・・・ならお前の腕前を見せて頂こう。フォルナ、騎士の日給を稼ごうと思ったら何をどれだけ狩れば稼げる?」
「えー・・・ゴブリンやコボルトなら二十体。魔猪を狩れれば半月近くにはなるかと!」
「わかった。みんな離れろ。」
俺の言葉にみんなが即座に壁際に行くので即座にウィンストンに幻覚魔法をかける。
「なんだと!?ゴブリン!?来るなっ!来るなぁぁぁ!!」
ウィンストンが必死の形相で剣を降り始める。
「ルドルフ殿何をされたのですか?」
「幻覚魔法をかけた。今ウィンストンは二十体のゴブリンと戦っている。」
「さすがはルドルフ殿です。」
「補助がフォルナとアイリーンで本当に助かる。」
心の底からフォルナに言う。
これが誰ともわからない騎士であれば、俺の先程までの発言や幻覚魔法について根掘り葉掘りと聞かれていただろう。
「ルドルフ?もう終わるわよ?」
「そうだな。」
地面に仰向けに倒れてバタバタと暴れるウィンストンを見てアランが声を掛けてくる。
俺はウィンストンに近づいて幻覚魔法を解除する。
「あれ?ゴブリン達は?」
「お前が本物の冒険者だったら死んでたな?」
「それは!・・・いきなりだったからだ!本来ならば一蹴してやっている!」
俺の言葉に突然消えたゴブリンに驚いたウィンストンが食って掛かってくる。
それを見かねたアランがやってくる。
「お前馬鹿じゃねぇの?冒険してて万全の体制で魔物が襲ってくる方が稀なんだよ!強い魔物になればそれだけ賢くなるから一瞬の油断した瞬間を狙って襲ってくるのが普通なんだよ!さっきの状況なんて優しい部類なんだよ!?」
そう言ってアランがウィンストンにビンタをして、ウィンストンは地面を何度も跳ねながら吹っ飛んでいく。
援護してくれるのはありがたいのだが、今の一撃で死んでも不思議でないビンタはとてもありがた迷惑である。
「アラン?援護射撃はありがたいが邪魔だ。」
「ちっ!ならもう何も言わない!」
アランは頬を膨らませながら後ろに下がっていくのでウィンストンへと歩み寄って治癒魔法をかけてやる。
「これでもまだ冒険者になると言うのか?」
「当たり前だ!俺は騎士になんてならない!」
俺が出来る限り優しく聞くがウィンストンの意見は変わらないようだ。
「ならば、とりあえず優勝して見せろ。マルス如きに勝てないのなら冒険者になっても死ぬだけだ。」
「なっ!?マルスに勝てと?馬鹿な事を言う・・・次期剣聖に勝てなど無茶だ!」
俺が現実を伝えると、ウィンストンは驚愕の表情で答える。
ジャック達と手合わしたことが無いので、あくまでも予想だがマルスは銀級冒険者のジャック達よりもかなり弱かった。
リザードマン達に勝てないジャック達、よりも更に劣る雑魚に勝てないのであれば冒険者になってもお察しというレベルだろう。
「ならば勝てるようになりたいか?」
「なれるのか・・・いやなれますか!?」
「それはわからん。お前次第だ。」
「・・・ではよろしくお願いします!」
俺の言葉にウィンストンが素直になるので早速鍛えたい所だが、何から教えればいいのか悩んでしまう。
「ルドルフ?まずは鍛錬を教えて身体能力強化魔法の精度を上げるべきじゃない?」
「む、先輩そんな事が出来るんですか?私も是非教えて頂きたい!」
アランの言葉に確かにそうだと感心していると目の色を変えたフォルナがアランに掴みかかり続いて俺に掴みかかってくる。
俺は仕方なくウィンストンとフォルナを並べて座禅を組ませてから魔力の鍛錬方法を教える。
「いいか?魔力とは血だ!血の流れを感じろ。今は無理だが武闘会までには操作してもらう。」
「血を操作!?何を言ってるんだ!?」
「ウィンストン!ルドルフ殿は嘘は言いいません!やれば出来ます!」
俺の言葉にウィンストンが憤慨するがフォルナに言われて大人しく鍛錬を始める。
「今日はずっと鍛錬をしろ。明日からは少なくとも寝る前は絶対に鍛錬をしろ。」
「少なくとも?寝る前以外もこんな事をするのか?」
「しっかりとしろよ?休み明けは俺か・・・アイリーンと手合わせだ。」
「こんな事をして何になると言うのか・・・」
「ルドルフ殿が言っているのです!今はただ信じてやるべきです!」
ウィンストンが俺に明らかに嫌そうな顔で言い。フォルナが険しい顔をしてウィンストンを嗜めている。
フォルナが俺の味方をしてくれるのは大変ありがたいのだが、フォルナの盲信
ぶりに若干の畏怖の念が湧き始める。
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