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第百十二話 新たな依頼

「で?話しとはなんだ?」

食事が終わりフィルと一緒に校長室に行き、いつも通りにソファに座りながら尋ねる。

「あれだな?ニコの教え方は上手いな?フォルナとアイリーンが絶賛してたぞ?ふぇっふぇっふぇっ!」

「世間話をするために俺を呼んだんじゃないんだろ?話しとはなんだ?」

俺の問いにフィルは楽しそうに笑いながら世間話をしてくる。

思わずイラッとしてもう一度聞き直す。



「まぁ待て!依頼人がもう来る頃だ。」

「依頼人?」

「依頼人だ!適当に待て、さてわしはイージスを磨こうかな?」

フィルはそう言って前に俺がプレゼントした魔法を跳ね返すと言う盾を取り出して磨き始める。

イージスとは神話に出て来る最強の盾の名前であり、フィルはその名前を盾に付けたようだ。


「なんとも仰々しい名前を付けたんだな?」

「ふぇっふぇっふぇっ!そうすると武具もワシの期待に応えてくれるのだ。」

「そんな訳が・・・」

「あるんだな?これが!」

フィルと話していると突然声が聞こえ入口へと目を向けるとアランが胸を張って立っていた。

なぜか後ろには当然の様にサミュエルがいる。


「ふぇっふぇっふぇっ!そうだぞ?ニコも自分の武具には名前を付けて可愛がってやるんだぞ?」

「そそ!あたしのグラムちゃんも名前を付けたら強くなったし!」

「また仰々しい名前を・・・」

サミュエルを連れたアランが言いながら椅子に座る。

確か氷のような素材で作られた神話に出て来る剣だったはずだ。

おそらく今まで見た事ないのでアランの奥の手なのだろう。



「で?なぜサミュエルが当たり前のようにいるんだ?」

「ん?ニコが将棋で相手してくれなくて暇だから。」

「サミュエル。これからしばらく相手出来んかもな?」

「なんですって!?」

「来たな。入ってくれ!」

フィルの言葉を聞いてサミュエルが椅子から身を乗り出して隣のフィルに身を乗り出して質問するが、同時に部屋にノックの音が響きサミュエルの質問は中断される。

フィルの言葉に扉が開き、全員の注目を受けながら部屋に入ってきたのは騎士団長アルフォンスだった。



「失礼致します!この度は私のためにお集まりいただきありがとうございます!」

「んむ!こっちに来て依頼内容の説明を頼む!」

入室したアルフォンスが敬礼をして大声でお礼の言葉を言うのでフィルもつられて大声で言う。


「爺?声でかすぎない?」

「ふぇっふぇっふぇっ!防音の魔法をかけた!今なら扉に耳を当てても聞こえんわい!」

アランは大声すぎて外に聞こえないか心配になったようで、尋ねるのだがフィルが自身満々の様子で答えるので心配はなさそうだ。

「ふーん?ならいいわ。」

アランが訝しそうに部屋の中を見渡しながら椅子に座り直す。

フィルは「これでもう怒られなくて済む」と額を拭いながらポツリと呟いているが、触れるとアルフォンスの話しが聞けなくなりそうなので聞き流しておく。



「では宜しいですかっ!?」

「漏れないにしても煩い!耳が痛くなるからボリューム落とせっ!」

「アランも煩いぞ。」

ソファの脇に立つアルフォンスが声を張り、アランが怒っている。

俺としてもアランの甲高い声も十分に耳が痛いので俺も注意をしておく。


「申し訳ない・・・まずは色々と報告から、ルドルフ殿が発見した密会小屋にて見つけたスパイの報奨金です。あとライネンにてムイワール家の次男、レイモンド・ムイワール暴行事件ですが、しっかりと証言などを精査してルドルフ殿を無罪とし、逆に騒ぎ立てていたムイワール家には王より厳重注意となりました。」

「まぁムイワール家は予想通りね。」

「スパイの密会小屋って知らなかった。ニコは裏で色んな事をしてるんだね?」

アルフォンスから報奨金の入った皮袋を受け取っていると、アランとサミュエルが言っているが無視してアルフォンスに次を促すべく口を開く。



「わかった。で?依頼とは?」

「では依頼なのですが六年生の我が息子を鍛えて欲しいのです。」

「・・・意味がわからん。」

「そうね?なんでニコが鍛えるのよ?」

「自分の息子を?職権乱用かい?」

アルフォンスの言葉に俺とアランとサミュエルは意味がわからずにキョトンとしてしまい、一瞬の沈黙の後に俺が尋ねると二人も続く。


「まぁ聞け!アルフォンスも色々と端折(はしょ)りすぎだ!」

「申し訳ありません・・・」

「二ヵ月後に武闘会があるのは知っているか?」

「知らん。」

フィルが聞いてくるがそんなイベントがあるとは聞いた事もない。


「ならまずは武闘会の説明だな。武闘会の中に学生部門というのがあってな?学生なら誰でも参加できる行事なのだが優勝者は望めば騎士団の好きな支部へと入団出来るのだ。」

「ほう?アルフォンスの息子を優勝させたいのか?」

「ふむ。そこでまたムイワール家が出て来るのだ。マルスは覚えてるか?」

「あぁ俺にいちゃもんを付けて来た騎士だな?」

よく覚えている。

剣の実技授業の折に絡んできたウザイお漏らし騎士であり、確かムイワール家の三男のはずだ。



「あいつは素行不良がたたって内定を取り消されて今は学生として学校にいるのだが、武闘会に出るつもりらしくてな。」

「ふむ。息子を鍛えるのはマルスを優勝させないためか?というか、マルス程度で優勝できるのか?」

「そうだ!優勝者の権利を奪うのは学校としても非常に拙いしな?あとマルスは素行に問題があったが次期剣聖とも言われる腕前だぞ?」

隣に立つアルフォンスが力強く頷いているので、よほどマルスは強かったようだ。

俺と試合した時は弱かったので、次期剣聖と言われても全くピンと来ない。



「確かに碌な人間では無かったが、素行に問題とは?」

「剣の腕前でしか人を見ないから先輩も上司も関係無く大柄な態度で、休みになれば子分達を引き連れて街で冒険者などを相手に喧嘩をするわ・・・上げたらキリがない。」

「騎士団内ではニコ君に倒されて騎士団の内定が取り消された時に歓声が上がった程です。」

俺の言葉にアルフォンスが紙の束を机の上に取り出しフィルがそれを見ながら言う。

恐らくマルスの始末書だろうがクビになって歓声が上がるなど、どれほど嫌われていたのだろうか。




「概要は大体わかったわ!じゃあ依頼料と成功報酬の話をしましょうか?」

隣のアランがとても悪い顔で前のめりに二人に言い始める。

普段であればこうなるとフィルはとても嫌そうな顔になるのだが今回はそんな素振りを見せる事も無く自身満々な様子なのでしっかりと考えてきているようだ。

「まず依頼内容だが、これからニヶ月間平日の夕食後にアルの息子に三時間の特訓。そしてマルスの優勝阻止だ。依頼料はなんとか五十万ゴールド用意した。そして息子が優勝すれば成功報酬として追加で二百万ゴールドを準備している!」

「ふむ、金級冒険者の指名依頼料としては妥当・・・いやかなり良いわね。」

フィルが淀みなく言い、アランは納得している様子だ。


「待て。」

「なんだ?アランじゃなくてニコからの横槍は予想してなかったぞ?」

アランの様子を見てフィルが満足そうな笑みを浮かべて契約書を取り出すので止めると、フィルとアルフォンスはとても訝しそうに俺を見る。

「まず金はいらん。だから成功報酬は俺が興味を示しそうなマジックアイテムにしてくれ。」

「・・・わかった。色々と探しておこう。」

俺の言葉にフィルが一瞬考えて答える。

もう金はしっかりとある。

金よりも世界には俺が見た事もない色々な物があると言うのを知ってしまったので是非ともそれを見たい。

だが忙しすぎてそういう物を探す時間が無いのでこうすれば一石二鳥だ。


「次に俺の特訓方法には一切口を挟むな。」

「・・・わかった。」

フィルが隣に立つアルフォンスと顔を見合わせ、アルフォンスが神妙な面持ちで大きく頷きフィルがこちらに向き直って了承する。


「では俺からは以上だ。」

「わかった!では明日からは晩飯が終わったら演習場に言ってくれ。」

「わかった。」

「補助にフォルナとアイリーンを付ける事も出来るが?」

「それはありがたい。なら二人を交互に呼んでくれ。」

「承知した。」

補助が付くというのはとてもありがたい。

それも俺の事を知っているフォルナとアイリーンならば言う事は無い。

俺は、だが意思の疎通が出来るようなっていると思っているので、知らない騎士を寄越されるよりも断然楽なはずだ。



「で?話は以上か?」

「以上だ!」

「息子を・・・ウィンストンをよろしくお願いします!」

フィルとアルフォンスが深深とお辞儀をして言うので、アランとサミュエルに目配せをして校長室から出る。


「ねぇニコ?あたし達も特訓を見学してもいいかしら?」

「さすがアラン先生!」

寮に向かって歩いているとアランが小声で聞いてきて、それを聞いたサミュエルが目を輝かせてガッツポーズをしている。

「どうせ断わっても来るんだろ?勝手にしろ。ただし絶対に邪魔をするな口を挟むな。」

「わかってるって!」

「アラン先生最高です!」

断わればこいつらはあの手この手を使って付いて来るに決まっている。

俺が言うとアランとサミュエルはハイタッチをしている。


「しばらくは読書も出来そうにないな・・・」

「まぁまぁ!フィルにはマジックアイテムをしっかりと催促しとくから!」

「そうだね?僕も父上に面白い物がないか聞いておくよ。」

「それはありがたい。」

「じゃあサミュエルの寮はこっちだから!」

「じゃあまた明日!おやすみ?」

「あぁおやすみ。」

アランとサミュエルが金クラスの寮へと入って行き、俺は隣の銀クラスの寮に帰って鍛錬をしてからベッドに入る。


「(にしてもなんで俺が年上を特訓せにゃならんのだ・・・)」

まどろんでいると思わず愚痴が浮かび、エンドレスに頭の中を回り始める。

最高に気持ちのいいペガサスの羽毛布団なのに、最悪な寝入りだ。

思わず顔を顰めながらゆっくりと意識を夢の中へと手放す。

面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。

もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。

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