第百十一話 剣の授業と週末の予定
「はい!これで一巡だね?ニコ君とリュカ君舞台へ!」
読書をしているとアイリーンに呼ばれたので舞台へと向かって行く。
「やっとだ!やっとニコと打ち合える!」
「何がそんなに嬉しいんだ・・・」
一緒に舞台に上がるリュカが嬉しくて堪らないと言った様子でアイリーンから剣を受け取っている。
それを見て思わず呆れてしまうがリュカは気にした様子も無く、なぜかアイリーンも満面の笑みで俺とリュカの試合を楽しみにしているようだ。
「後期からは身体能力強化魔法を使って対戦していいからねぇ!」
「わかりました!」
「了解しました。」
アイリーンの言葉にリュカが不敵な笑みを浮かべて答える。
フィルほどの速度を出す事はできないと思うが油断無く剣を正眼に構えてリュカを見据える。
「では、始めぇ!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
アイリーンの開始の合図と共にリュカが気合を入れて身体能力強化魔法を発動させ始める。
「(鍛錬不足にも程があるな・・・)」
無防備な姿で腕輪に魔力を集めるリュカを観察しつつ魔法の発動が終わるのを待つ。
「行くぞっ!」
「さっさと来い。」
気合十分のリュカが斬りかかって来る。
魔法を使っているので先程のターニャに比べれば数倍早い。
だがフィルに比べれば雲泥の差だ。
適当にリュカの速度にあわせて身体能力強化魔法を発動して剣を交える。
「うおぉぉぉぉぉ!」
「身体能力が強化されて気が大きくなってるのか知らんが、力任せがすぎるぞ?」
リュカはロジェに負けず劣らずといった様子で力任せに剣を振るってくる。
前期に鉄クラスのコーチまがいの事をやらされていたので、癖で思わず打ち合っている最中にアドバイスをしてしまう。
「ちくしょぉぉぉぉぉっ!」
俺のアドバイスを聞いたリュカが真顔になり、剣を手放して地面に崩れ落ちて叫び始める。
「すまん・・・つい癖でな・・・」
「やっとニコ君の試合を見れましたがさすがは剣聖と打ち合った子ですねぇ・・・レベルが違いすぎますねぇ?」
「しかもアドバイスも的確だ。始めて魔法を使って戦うと万能感が出るからな・・・」
俺がリュカに謝っていると、舞台袖で観戦していたアイリーンとフォルナがうんうんと頷きながら話している。
「ニコ・・・俺は何が駄目だった?」
「そうだな?魔法頼りになりすぎだ。普段の作戦を組んで戦うリュカらしくなかったぞ。」
「そうか・・・最初に打ち合ったのがニコでよかった。」
「そう言ってもらえるなら何よりだ。」
リュカと話しながら一緒に舞台から降りる。
リュカは先程叫んで気が済んだのか、今はとても清清しい表情をしているので大丈夫そうだ。
「アイリーン教官!次は私がニコとしたいです!」
「ターニャはもう一回したじゃない!次はあたしと!」
「いや僕だね!」
「サミュエル様は金クラスに戻ってください!次は僕がっ!!」
「静まれ!とりあえず金クラスの生徒は混ざるんじゃない!私と戻るぞ!」
「静かにぃっ!ニコ君は試合をしたばかりなので皆さんそのまま順番にしてくださぁい!明日からはみんなが同じように対戦出来るように予定を作りますからぁ!」
ターニャを皮切りに金クラスと銀クラスの生徒達が一斉にフォルナとアイリーンに俺と対戦したいと言う奇特な要望を言うために詰め掛け、フォルナとアイリーンが必死に収めている。
「なぜ俺なんかと対戦したがるんだ?」
「ニコの強さがわからないのと、アドバイスを貰いたいからに決まってるだろ?」
「そうそう!ニコのアドバイスはその時に言ってくれるから分かりやすくて有難いんだよねぇ?」
俺の疑問にリュカとマットは当たり前の事のように答える。
俺なんかのアドバイスよりもフォルナとアイリーンのアドバイスの方が的確で分かりやすいと思うのだが、二人の意見は違うようだ。
「それに・・・ターニャとサミュエル様はおいといて、教官達に詰め寄ってたの元鉄クラスの生徒ばかりだぜ?」
「そうだな、魔法を使った状態でのアドバイスが欲しいのだろう。俺みたいにな?」
マットとリュカに言われて気付くが確かに詰め寄っていた生徒はみんな俺がアドバイスをした事がある生徒ばかりだった。
「まぁアイリーン教官が予定を決めてくれるようだし、あの二人なら無茶苦茶はしないだろう。」
これがアランなら面白がってとりあえず全員と勝負して上げなさい!とか言い出しそうだがあの二人なら大丈夫だろう。
その後マットとリュカは先程の戦いを再現しはじめるので俺は読書を再開する。
「今日はここまでですよぅ!」
アイリーンの号令が聞えたので本を閉じてさっさと演習場から出て調理室へと向かう。
結局あの後三度闘った。
一人目はターニャの親友のソフィア、二人目がマットで、最後の三人目はなぜか金クラスのサミュエルがドヤ顔で舞台で待っていたので、少し強めに叩きのめしておいた。
鉄クラスの時は一試合も出来ない日もあったのに銀クラスになった途端に四試合も出来るようだ、わかりきっていた事だが鉄クラスとは大違いである。
「ニコ手伝うよ・・・イテテテテ」
「大げさだぞ。」
料理をしていると痛そうに背中を伸ばしながらサミュエルがやってくる。
「いやいや・・・他のみんなは首に剣を突き立てて終わらせてたのに、僕だけ背中を思いっきり殴打して地面に叩きつけられたからね?わざとだよね?」
「金クラスの、しかも首席様が相手となるとつい力が入ってな?」
勿論嘘である。
金クラスのか王子のかはわからないが、無理矢理銀クラスの試合に割り込んできたサミュエルにちょっとしたお仕置きと共に俺と試合したいという人間がこれ以上出てこないためにもしっかりと叩きのめしておいた。
王子を床に叩きつけたとあって、周りからの驚きによるどよめきが走り少し目立ちすぎたかもしれないが、俺に人が殺到するよりはマシだ。
「で?俺と対戦してどうだった?」
「ニコの強さを改めて実感した。っと同時に更にわからなくなった。」
ローストビーフを作りながらサミュエルに尋ねると、スープの入った寸胴鍋を混ぜながら全く意味不明な事を呟く。
「どういう意味だ?」
「ニコの強さの次元が違いすぎるって事だよ?」
サミュエルの言っている意味がわかった。
俺がガルやマーメイドに対して魔力量の上限がわからないのと同じ事のようだ。
「理解した。」
「それは何よりだ。ソースは作らないのかい?」
「お願いできるか?」
「勿論だ!任せておくれよ?」
「ありがたい。」
サミュエルがそう言って俺が取り出したステーキソースの素を手際よくフライパンに乗せて味を整え始める。
今までいい物を食べてきたからかどうかはわからないがサミュエルの舌は確かだ。
安心して任せられるので俺は次の塊肉を取り出して、二本目のローストビーフを作り始める。
「サミュエル様?料理をしていてお体は大丈夫なのですか?」
「なんなら?何かあったんか?」
「みんなが待ってるだろうから食堂で話すよ。」
「わかった!今日は焼肉じゃ、はよぅ食べたいのぅ!」
俺とサミュエルが調理場の片付けをしているとエミールとロジェが騒がしく料理を持って行く。
銅クラスなので隣の舞台で試合をしていたはずなのにロジェは何も知らないようだ。
あとロジェは焼肉と言っているがローストビーフである。
「なぜロジェ君は知らないんだ?」
「あいつは良くも悪くも周りが見えなくなるからな。」
「結構騒ぎになってたんだけどねぇ?」
「それがロジェという男だ。」
サミュエルが不思議そうな顔をして呟くので説明しておく。
サミュエルはへぇ?っと面白そうに頷いているので何を考えているのか気になるが丁度片付けが終わったので、そのままいつも通りの流れで食堂へと向かい聞きそびれてしまう。
「じゃあニコ?号令を。」
食堂に入りいつも通りにローストビーフへとフォークを向けた面々が待つ机に向かい、面白がったサミュエルが椅子に座りながら促して来る。
「じゃあ今日はローストビーフ、開始だ。」
俺も面白がって座りながら言うと一斉にローストビーフ争奪戦が開戦する。
「焼き加減が絶品だね!」
「サミュエルの作ったソースも美味いな。」
二人争奪戦を繰り広げるみんなを眺めながらでいつも通り自分達用に作っていたローストビーフを食べて褒め合う。
「で?今日ニコはサミュエル様に何をしたんじゃ?」
「ニコ君がサミュエル様を試合でボコボコにしたんだよ?」
争奪戦が一段落してロジェが思い出した様に言うと、エミールが説明をしている。
「なんじゃと!?」
ロジェが思わずと言った様子で立ち上がってみんなを見回し、みんなは頷いてロジェに無言で答えている。
「サミュエル・・・お前もそっち側か。」
「事実ボコボコにされたしね?」
サミュエルが笑いながら答える。
納得が行かないので皆を見ると真剣な表情でサミュエルの言葉に頷いている。
なぜかその場にいなかったはずのフィルとアランも頷いているのが非常に腹立たしい。
「で、でさぁ?次の休みにソフィアと森に魔物狩り行こうって話してるんだけどみんな一緒に行かない?」
フィルとアランを見てイラッとしたのが顔に出たのだろう、みんなが凍ったように止まる。
その雰囲気を取り繕うように必死な表情のターニャが言う。
「ええのぅ!わしゃ乗った!」
「僕!僕も行く!バイトよりも稼げるよね?」
「僕は金クラスになってお小遣いを一杯貰ったからしっかり勉強して金クラスにかじりつけるように勉強させて貰うよ。」
「僕は・・・駄目だね。」
ロジェとマットは即答で了承し、エミールは金クラスに残れるように頑張りたいようだ。
サミュエルはアランが首を横に振るのを見て残念そうに辞退している。
「ニコ?大丈夫だと思うが・・・付いて行ってやれ。」
「そうね・・・ニコ付いて行ってやりな?」
「・・・俺も付いて行こう。」
フィルとアランに言われて渋々ターニャ達に付いて行くことにする。
「ニコがいるなら!「いるなら何でしょうか殿下!?ニコがいたら私よりも安心という事なのでしょうか!?」
「・・・すみません。ニコと遊びたいと思ってたものでつい・・・すみません。」
サミュエルが思わずといった様子でアランに言うがアランがすごい剣幕で遮って言うのでサミュエルは自分が何を言いかけたか気付いて項垂れて答える。
サミュエルは今、俺とアランの護衛があればと言おうとしていたのだろう。
サミュエルは普段とても気の利く完璧な人間なのだが、たまに考えよりも行動が先行することがあるので冷や冷やする。
その後みんなはサミュエルとアランのやりとりを気にかける事無く、週末はどの森に行くかなどと和気藹々と話しながら夕食が進んでいく。
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