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第百十話 変わらないみんなと変わる立場

「昼は・・・なんだい?この料理は?」

「ん?サミュエルは食べなかったのか?かに玉だ。ゲーテのご婦人方に教えてもらった。」

サミュエルはかに玉をゲーテの宴で食べてないようで不思議そうに尋ねて来る。

ちなみに昼食は周りに使用人達はいないので、普通に会話が出来る。


「へぇ?こんな卵料理は見てないね?楽しみだ!」

「ちょっとそのスープをもらうぞ。」

サミュエルが混ぜている寸胴鍋からスープをフライパンにとって水溶き片栗粉を入れて手早くあんを作りかに玉にかける。


「ほう!?更に楽しみだ!」

「ただパンに合うのか不安だな。」

「きっと合うさ!というか何にでも合うだろう!」

「ならいいが・・・」

ゲーテの町ではクラーケン肉が大量に有り余っていて、パンを食べるという考えは思いつかない程に大量のカニとイカ料理を振舞われていたのでパンと合わせるのは初めてなのだ。




「へぇ?初めて見る料理だね?」

「なんでもええ!美味そうじゃ!」

エミールとロジェが料理を持って行くので、俺とサミュエルはいつも通りに調理台を片付けて食堂へと向かう。

食堂では大皿に盛った巨大カニ玉を誰よりも先に取ろうとスプーンを構えて俺とサミュエルの着席をみんなが待っていた。

「ニコ?僕達の分は作ってるのかい?」

「あぁ問題無い。」

サミュエルがみんなの真剣な表情を見て心配そうに話しかけてくる。

俺はちゃんと二人分のかに玉をマジックバッグから出して机に置きながら言うとサミュエルはすぐに安心した顔になって、席に座る。



「さぁ開始だ。」

「「「「「「うおぉぉぉっ!」」」」」」

俺が冗談めかして言いながら椅子に座ると全員が俺の言葉に反応してかに玉にスプーンを突き刺し始める。

俺はサミュエルとそれを眺めながら二人分のかに玉を入れた皿を二人で仲良く分けながら昼食を食べる。



「ほら!パンにもとても合うじゃないか!」

「そうだな?よかった。」

「夜は何を作るんだい?」

「朝、昼と魚介だったからな・・・夜はローストビーフでも作るか?」

「今から楽しみだ!」

「ねぇ?二人休みの前よりも仲良くなってない?」

俺とサミュエルが楽しく昼食を食べながら話しているとターニャがジト目になって言って来る。


「別に?休みの前と変わらんが?」

「そうよね?休みの間ニコは帰省してサミュエル様は御公務だったから仲を深める時間なんかないわよね・・・」

「その通りだよターニャ!僕は休みの間遊んでた訳じゃないからね?」

俺の言葉にターニャが納得してサミュエルが念を押す。

だがサミュエルの言葉に思わず頭の上に疑問符が浮かび上がる。

ライネンを出てからは普段着だったし観光などもしていて完全に遊んでいたようにしか見えなかったからだ。



「そうだニコ?アロメはノートを持って行ったらとても嬉しそうだったよ?銀クラスになっちゃったしもう貸してくれなくなるって心配してたっぽいよ!」

「それはよかった。俺のノートでよければいくらでも貸すと伝えてくれ。」

「そうじゃ!やっぱりわしらも貸してくれ!」

「うんうん!見えるようになったのはいいけどニコ君のノートみたいに取捨選択が出来なくてごちゃごちゃしちゃうよね?」

マットが思い出した様に言うので、俺はありがた迷惑とならなくてよかったと胸を撫で下ろしていると、ロジェとエミールがかに玉を口いっぱいに頬張りながら言って来る。

それに便乗してロジェとマットが言い、ターニャもうんうんと口を動かしながら真剣な表情で頷いているので、みんなマットと同じようにバルテ先生が書く文字が見えるようになったのはいいが無駄話と試験に出る部分との区別が付かないで困っていたようだ。


「なら明日からは今まで通りにみんなが書き写してからアロメに渡してくれ。」

「わかった!」

「これで次こそは銀クラスじゃ!」

「僕は金クラスを死守だね!」

「楽が出来るわ!」

マット達が俺の言葉にガッツポーズをして反応する。

フィルとアランも微笑ましくその光景を見ている。


「僕は食後の将棋が出来ればそれでいいよ?」

「待て。まだ食べている。」

「じゃあ並べておこう!」

そう言ってサミュエルが鼻歌交じりに駒を並べ始める。

「(どれだけ楽しみなんだ・・・)」

「あれ?サミュエル様?なんで二枚落ちなんですか?休み前はまだ四枚落ちだったはず・・・」

俺が呆れ半分にサミュエルを眺めながら昼食を食べていると。並べられた将棋盤を見てターニャが言って来る。

サミュエルはしまった!と声が聞こえてきそうな表情で将棋盤を見ている。


「・・・休みの間にかなり勉強したからもう四枚落ちのニコには勝てると思っちゃってね?」

「・・・サミュエルがそう判断したならそれでいいだろう。すぐに四枚落ちに戻してくださいと言わせてやる。」

「サミュエル様はチャレンジャーですね。」

「ハハハ!男には越えなきゃ行けない壁があるんだよ?」

「男って・・・」

サミュエルの言葉にしっかりと合わせておく。

ターニャはサミュエルの言葉にあきれ返った様子なので問題なさそうだ。

まさかこんなしょうもない所でばれそうになるとは思いもしてなかったので焦ってしまった。

フィルとアランがニヤニヤと俺達のやりとりを見てるのがとても腹立たしい。




「さぁあんた達さっさと授業に行く!」

「そうか。サミュエル?やはり昼食後は決着が着かないからやめないか?」

「いや!この盤面を覚えて午後はどう打つべきだったか考えて過ごすんだ!」

アランに言われて俺が席を立つとサミュエルが盤面を睨みつけて必死に記憶している。

「(授業に専念しろよ・・・)」

いつも演習場や運動場の端で読書をしている俺が思うのは間違ってるかもしれないが、思わずそんな考えが頭をよぎる。




運動場に出ると真剣な表情をしたフォルナとアイリーンが運動場の真ん中に立って待っていた。

「それでは各自魔法を使ってグラウンドを十周だ!終わった者から演習場に入るように!」

それだけ言って二人は演習場の中へと入って行く。


「ではクラスごとに分かれて!右端が金クラス!左端が鉄クラスだ!」

走り終えて演習場に入るとフォルナの声が聞こえる。

俺はマットとターニャと一緒に右から二列目の舞台へと向かう。


「フッフッフッ!やっと正式に手合わせをお願いできるな?」

「俺は出来る限り端っこでゆっくりさせて頂く。」

順位順に並んでいると隣に立つリュカが不敵に笑って何か言ってるが俺は出来る限り読書の時間に充てたいと思っているので残念だがリュカの思っているようにはならないだろう。


「はいはーい!ほとんど入れ替わったから自己紹介するね?主に銀クラスを教えるアイリーンだよぉ!」

リュカと話していると、アイリーンが白銀の鎧を輝かせながらいつも通りに飄々(ひょうひょう)と言った様子で手を振りながらやってくる。


「じゃあ・・・銀クラスで一番の、十一位誰かな?」

「はい!私です!」

アイリーンの声にターニャが手を挙げて答える。

ターニャのギリ銀クラスという意味がようやく理解出来た。

もう少しで金クラスだったので銀クラスなのに喜んでいなかったようだ。



「じゃあこのクラスの初対戦だよ!十二位って言いたい所だけど・・・剣の実技試験で百点以上の生徒は手を挙げてぇ!」

俺は確か百五十点とフィルが言っていたはずなので手を挙げる。

どうやら銀クラスで手を挙げているのは俺だけのようだ。


「はい!丁度いいね!銀クラスのトップとほぼ最下位の剣トップの対戦行きましょぉ!」

アイリーンが楽しそうに手を挙げて言うので、仕方なく舞台に上がって刃引きをした剣を構えてターニャと相対する。




「ニコと勝負するのは始めてね・・・」

「そうだな。」

「手加減はなしよ?」

「・・・わかった。」

ターニャが神妙な顔付きで言って来るので思わず嘘をつく。

俺が手加減をしなければターニャは一瞬で地面に伏せるどころか殺しかねない。


「みんなよく見るように!では・・・始めぇ!」

「やぁぁぁぁぁぁ!」

アイリーンの声でターニャが気合の声と共に剣を降って来る。

実戦では乱戦時ならまだしも一対一で声を出して自分の位置を報せながら切りかかるのは愚の骨頂だ。

俺は軽くターニャの剣を受け止めて地面に向かって剣を受け流す。

ターニャの剣は勢いよく地面に当たり、ターニャが涙目になって剣から手を離してパタパタと振り出す。

おそらく手に振動が伝わって痺れたのだろう。

無防備すぎて逆に攻撃しては駄目な気がして待つ事にする。


「くぅぅぅぅぅっ!!」

「痺れは取れたか?」

「煩い!待たずにさっさと来ればいいじゃん!」

俺の言葉に顔を真っ赤にして怒るターニャが再び斬りかかって来るので軽くいなして、首筋に剣を突き立てる。

「終わり・・・でいいな?」

「そうですねぇ?そこまで!」

「はぁぁぁぁ・・・」

俺が聞くとアイリーンは面白く無さそうに手を挙げて終了の合図をする。

突き立てた剣を引くとターニャが安心して腰が抜けたのかへなへなと地面に座り込む。

全員が何も言わずに俺を見つめ続けているが気にせず剣をアイリーンに渡して定位置に戻る。



「さすがニコ!俺練習でターニャに勝てた事無いんだぜ?」

「どれ程の実力差があればあんな勝負になるんだ?」

「ギリギリの勝負だった。」

マットとリュカが駆け寄ってくるので、本を開きながら適当に答える。


「それはさすがの俺でも嘘ってわかる。」

「ターニャが聞いたら激高するだろうな?」

「ならギリギリ殺さないで済んだ。」

俺の言葉に二人は溜息を吐いて仲良く稽古を始め出す。


「次は・・・ターニャがこう斬りかかって・・・」

「ニコはこういなしたんだな?」

「えー?右にいなさなかった?」

「む。こうか?」

座学の時の険悪なムードは全く無く二人共真剣な表情で先程の俺とターニャとの試合を再現しようと四苦八苦している。

面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。

もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。


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