第百九話 後期開始
「もう朝か・・・」
いつもの時間に目覚める。
目覚めたのだが、ペガサスの羽毛布団が気持ち良すぎて出たくなくてもぞもぞとまどろむ。
「(ずっとこのまま寝ていたいな・・・)」
余りの気持ち良さに初めて料理をサボろうかと本気で考えるが、アラン達に烈火の如く怒られるのは火を見るよりも明らかなのでベッドから出て着替える。
「おはよう!ほう?朝食はベーコンエッグじゃないんだね?」
「あぁ、サーペントのベーコンが無くなったからな。」
「蟹入りの卵スープに魚の切り身か。」
「朝食はスープとベーコンエッグで決まってて楽だったのだがな・・・」
サーペントのベーコンとサーペントと鵺の合挽きソーセージが無くなった事によって定番にしていたメニューが出来なくなってしまった。
ミノタウロス肉でベーコンを作るのは違和感しか無い、だからと言って普通の豚で作ったベーコンを食べるのは嫌なのだが、ベーコンを手に入れないと朝食のメニューを考えなくてはならないので悩ましい所だ。
「サミュエル様ニコ君久しぶり!」
「二人共休みはゆっくり出来たんか?」
サミュエルと料理を作っているとエミールとロジェが仲良く二人でやって来る。
「おはよう。俺はバタバタしっぱなしだった。」
「二人共おはよう!僕もバタバタだったね?」
「サミュエル様は御公務と伺いましたが、ニコ君は何をしてたのかな?」
「いつも通り謎じゃ謎!気にするだけ無駄じゃ!」
俺とサミュエルの言葉にエミールが首を傾げて、ロジェが投げやりに言いながらスープの入った寸胴を持ち上げる。
エミールも「そうだね。」と魚の切り身を乗せた大皿を持って二人で笑いながら調理室から出て行く。
「そういえば俺は一ヶ月何をしていたんだ?」
「校長が言ってたけど急行便で北の故郷に帰省していたんだろ?」
「そういえばそうだった。」
「ニコの故郷ってどんな所なんだろうね?」
「いつか招待する日が来るかもな?」
「その日が来る事を楽しみにしておこう!」
サミュエルと話しながら調理台の片付けをして食堂へと向かう。
「ニコなんでベーコンエッグじゃないの?楽しみにしてたのに・・・」
食堂に入るといつもの机で配膳を終えて俺とサミュエルを待っていたので、二人で座って朝食を始めるとターニャが少し不満そうに俺に言って来る。
「そうか。アラン?だそうだ。」
「オッケー!明後日から休みだし、サーペント仕入れとく!」
「え!?アラン先生!?そんなつもりじゃ・・・」
そんなに楽しみにしてくれているのなら作ろうと思いアランに食材調達を依頼しておく。
アランもサーペントのベーコンが気に入っていたのだろう。
腕まくりをしながら二つ返事で了承してくれた。
そしてターニャはアランがサーペントを狩りに行くと聞いて慌てた様子でアランに頭を下げているが時すでに遅しとはこの事でアランはやる気満々の様子だ。
「そういえばみんな何クラスになったんだ?」
「僕は変わらず金クラスを維持出来たみたいだよ?」
「あたしはギリ銀クラス・・・」
「わしは銅じゃ。」
「俺!俺!俺ニコの一つ上の順位で銀クラスだよ!」
「僕はまさかの金クラスに上がれたよ?」
俺の問いにみんなが答えてくれる。
ギリで銀という表現がよくわからないのだが、銅クラスだったロジェと共にターニャがとても悔しそうにしている。
そしてマットは銀クラス、しかも俺の一つ上の順位と言う事は後期の授業もずっと隣という事だ。
最後にエミールがドヤ顔で答えている。
「今年の一年生は稀に見る順位変動だったぞ?」
「この机に鉄クラスがいないってのがすごい事よね?」
「ほう?そんなに変動したのか?」
フィルとアランが面白そうに言うので思わず尋ねる。
「そうだな。鉄クラスから何人もが怒涛の勢いで順位を上げたぞ?そして銅クラスだった生徒は大半が鉄クラス落ちじゃ!ふぇっふぇっふぇっ!」
「し、か、もっ!順位を上げた生徒はニコのノートを見てニコに実技指導をお願いしてた子達ばっかりって言う話しよ?」
「ほう?俺が教えたから上がったっと聞こえるが偶然だろ。」
フィルとアランが楽しそうに言うが絶対に偶然だ。
俺に、串団子さんに頭を下げてまでノートを借りて、実技も教わるくらいに向上心が高い生徒だったから順位が上がったに決まっている。
俺は本心でそういったのだがフィルとアランを初めとした机に座った全員が妙に優しい表情で俺を見つめ始めて途端に居心地が悪くなる。
「じゃあ洗い物してこよっかな?」
「はい!行きましょう!」
朝食が終わりアランとターニャが食べ終わった食器を持って食堂から出て行く。
「オホン!ニコ?今日の夕食の後に実家の話を聞かせて貰えるか?」
「・・・はぁ。わかった。」
わざわざフィルが咳払いをして言って来る。
普通に考えれば今回の旅の報告をしろ。という意味のはずだが昨夜アランとサミュエルから聞いてるから問題無いと言っていたので、おそらく何か新しい依頼だろう。
しばらくルドルフは休業と思っていたので、返事をしとうとしたのだが思わず溜息を吐きながら返事をしてしまう。
「ニコ?ニコの故郷ってどこ?俺達が出会ったネルグの街より北なの?」
「もっと北だな。」
「ネルグより北?そうなるとリオルゲンくらいしかないよね?」
「そうだな。リオルゲンの近くだ。」
「おいおい!山奥で暮らしとったって魔の森じゃねかろうな?」
「さぁ?少なくとも俺が住んでた時は魔の森とは思ってなかったな?」
「まぁそうじゃな・・・魔の森で人間が暮らせるわけないのぅ。」
マット、エミール、ロジェが聞いて来るので順番に答えて行く。
ロジェへの返答に関しては今は魔の森と認識しているが、当時はそんな事思いもしてなかったので嘘は言ってない。
そんな話をしているとターニャとアランが洗い終わった食器を持って帰ってくるので、マジックバッグに入れようと受けとるがふと一つ思いつく。
「なぁ?この食器アランが持っておけば食事前に俺が食器を渡す手間が省けるんじゃないのか?」
「・・・確かにそうね!じゃああたしが持っとく!」
そう言ってアランが俺が持った食器を取ってマジックバッグに入れる。
これで誰かに食器を渡してから調理場に行かなくてよくなるのなら大分手間が減るのでありがたい。
「じゃあ教室に行きましょ!」
俺とアランとのやり取りを見ていたターニャが椅子に掛けていた鞄を取りながら行って、みんなで教室へと行く。
「えーと・・・三十八位はここだ!ニコ早く来いよ!すごい教壇が近いよ!」
「なら俺は三十九位だったのか。本当にギリギリ銀クラスだったんだな。」
教室に入ると同時に興奮したマットが自分の席に向かって行き、俺に向かって手を振る。
「全く・・・田舎者丸出しだな・・・」
俺が席に座るとリュカがマットを見て溜息を吐きながら四十位の席に座る。
「これから隣はお前か・・・」
「リュカ君改めて宜しくね!?」
「やはりニコは銀クラスになると思ってた。しかも隣なんて僥倖だ!ニコの全てを学ばせてもらうぞ!そしてお前は煩い!」
俺が思わず机に肘を付いて頭を抱えると、マットが俺の背中から手を回してリュカに握手を求め、リュカは何やら無駄に意気込んだ後にマットの手を払いのけたようだ。
払いのけられたマットの手が俺の背中にぶつけられたのでそうだと思う。
そしてリュカも十分煩いと思うのだが無駄に絡まれそうなので何も言わないでおく。
「ほう?この話は書かないのか?」
「この話はバルテ先生お得意の脱線した無駄話だ。」
「なるほど・・・」
授業中も俺のノートを覗きながらリュカがあれこれと質問してきてとても煩い。
ちなみに隣のマットは自分でバルテ先生の書いた文字をノートに書き写せることに感動しているのか、満面の笑みでバルテ先生の無駄話までしっかりとノートに書き込んでいる。
「それでは今日はここまで!昼からは新しいクラスでまずは運動場での訓練ですので!ではごきげんよう!」
バルテ先生が初日から平常運転で忙しなく教室から出て行く。
「ニコ見て!?もうニコのノートを書き写さなくて大丈夫だよ!」
「・・・倍以上の量を覚えることになるぞ?」
マットが俺にノートを見せ付けてくるが、ノートはよく書いたな?っと感心するほどにびっしりと書き込みがしてある。
バルテ先生が始めて魔法を使ったのは三歳で・・・という魔法学の試験に絶対に関係無いとわかる話まで書かれている。
「あれ?本当だ・・・なんで?」
「普段俺が省いてるバルテ先生の無駄話も余す事無く書いてるからだ。」
「・・・確かにいつも見てたのに比べてごちゃごちゃだな、とは思ってたけど・・・明日からはニコのノートを逐一書き写すよ・・・」
マットが自分のノートと俺のノートを見比べて、落胆しながら言う。
「マット?別に覚える時に厳選すればいいだけだ。とりあえずこのノートをいつも通りにアロメに頼んだ。もういらないと言われたら教えてくれ。」
「それもそうだね!じゃあ料理お願いね!」
マットはすぐにいつも通りに元気な様子に戻り俺のノートを持って教室を出て行く。
「本当に忙しいやつだな。」
「感情表現豊かだし、あんなにすぐに立ち直れるのは強みだと思うぞ?」
「ふんっ!マットが羨ましい限りだ!」
なぜか俺の言葉に不機嫌になったリュカがノートを鞄に入れて教室から出て行く。
「どうしたの?喧嘩かい?隣の席なんだから仲良くしないと。」
「喧嘩はしてないのだがな・・・」
一緒に調理室に行くためにやって来たサミュエルが心配そうに言って来るが喧嘩では無いはずだ。
「そうかい?なら調理室に行こうか?」
「そうだな。」
筆記用具をマジックバッグに入れて一緒に教室を出て調理室へと向かう。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




