第百八話 旅の終わり
昼食を食べ終わり鍛錬を再開し、みんなも思い思いに過ごす。
翌日も俺は同じ場所で入念な鍛錬を行い、みんなは町の観光をしたりして思い思いに過ごして一日が終わり、すぐに王都へ帰る日が来た。
「では表で馬車の準備をしてきますねぇ!」
「待て!アイリーン私も行く!」
朝食を食べているとアイリーンとフォルナがウキウキとした様子で食堂から出て行く。
「早く王都に帰って買物したいんだってさ?あと結構時間的にかつかつっぽいよ?」
「成程二千万か・・・今まで我慢してた物も買えるんだろうねぇ?」
「合点がいった。かつかつとはどれくらいだ?」
俺とサミュエルが不思議に思って浮き足立つフォルナとアイリーンを眺めていると、アランが説明をしてくれる。
今回の旅はかなり助けて貰ったし是非とも有意義に使ってほしいものである。
アランは俺の問いに肩を竦めて首を振っているのでわからないようだ、どれほどかつかつなるのか出発したらフォルナに聞かなければならない。
「さて!もう準備出来てるでしょ、行きましょ!」
「そうですね!」
「よし行こう。」
ゆっくりと朝食を食べてから三人で宿を出る。
「皆さん落ち着いてくださぁいっ!」
「御婦人!そこは客席です一夜干しを詰め込むのは止めてください!」
宿を出ると人だかりが出来ていて、アイリーンとフォルナの声が聞こえ、かろうじて馬車の屋根が見えるので中心に俺達の馬車があることがなんとかわかる。
「なんだこれは・・・」
「英雄様だ!」
「今日町を発たれると伺ったので!」
「ゲーテの特産品ですどうぞ!」
俺に気付いた町人達が一斉に俺に土産を渡そうと寄って来る。
思わず後ずさりをしてしまうほどの迫力だ。
アランとサミュエルはいつの間にか俺から離れて俺を見て微笑んでいる。
「待て。ポケットに何を詰め込んでいる?物を背負わすんじゃない。」
みんな我先にと土産を渡してくるのですぐに捌けなくなり、文字通りもみくちゃにされる。
大変ありがた迷惑である。
「みんなルドルフ殿が困っているだろう!その辺でやめるんだ!」
「ガハハハハ!英雄様がどこかわかんねぇじゃねぇか!」
ロイとガッスの声に町人達が落ち着きを取り戻して離れるのでホッと一息つく。
一息つくのだがみんなに御土産の入った袋を首や肩にかけられ身動きが取れない。
しかもポケットにも何か詰め込まれているようだ。しかも濡れているようで大変不快だ。
「アラン助けてくれ。」
「へいへい。」
馬車の方を見るとサミュエルとフォルナはロイとガッスと話をしていてアイリーンは町人達から貰った土産の整理をしているので暇そうにしているアランに助けを求める。
アランがすぐに歩み寄ってきてとりあえず体にかけられた袋を入るだけマジックバッグの中に放り込んでくれる。
「ルドルフ?お酒はさぁ?加速するやつに入れたら熟成するんじゃない?」
「ふむ、酒に興味は無いのだがそうするか。」
アランに言われるままに地面に置かれた酒樽を十倍のマジックバッグに放り込んでおく。
「ルドルフ殿申し訳ありませんでしたね?是非とも町人達がお礼をしたいと聞きませんで。」
「それはありがたいが、これはなんだ?」
やっと身動きがとれるようになるとロイが頭を下げてくるので、ポケットに詰め込まれた粒粒のついた海草のような物を取り出して尋ねる。
「海ブドウです。」
「そんな物をポケットに詰め込んだやつはどいつだ?」
お礼でズボンをビショビショにして不快な思いをさせるとはありがた迷惑どころの話しではない。
周りにいる町人達を見回しながら真顔で答えるロイに尋ねる。
「ルドルフ殿?そう怒らないで、服に洗浄魔法をかければいい話でしょう?さぁ行きますよ!」
「それもそうだが・・・」
「あとは僕が収めますから馬車で読書でもしていてください!」
「そういう事なら頼んだ。」
俺の怒りを察したのかサミュエルが馬車へと俺を押しながら言うので素直に従って海水でビショビショになったズボンに洗浄魔法をかけながら馬車に乗り込み読書を始める。
「ではルドルフ殿本当にありがとうございました!」
「英雄様!次こそは是非遊びでいらしてください!」
しばらくして馬車が進み始め、ロイとガッスを初めとした町人達に盛大に見送られながらゲーテの町を後にする。
「中々に騒がしい町だったわね。」
「まぁルドルフ殿が来なければ漁にも出られず困窮していたでしょうしね?」
「フォルナとアイリーンは大手柄だな?」
「な、なんの事でしょうか?」
アランとサミュエルが馬車が町を出たのに手を振り続ける町人を眺めながら言う。
フォルナとアイリーンが依頼を見つけて俺を連れてこなければどうなっていたのかと想像しながらフォルナに言うとわかりやすく動揺しているので、俺の考えはあっているようだ。
「フォルナ?だからルドルフは気付いてるんだから隠すなっての!」
「そうだ。ただ釣りをするだけならもっと近くに行きやすくて大きな港町があるのだから考えなくてもわかる。」
「そうですよね。何も言わずに申し訳ありませんでした。」
見覚えのあるやりとりをしてフィルナが頭を下げて謝ってくるので気にするなと手を振って返事をして読書を再会する。
「フォルナ?一応聞いておくけどもう王都に直行よね?」
「はい!私事で申し訳ありませんが寄り道をしたら学校に間に合わず教官業務が滞るので。」
アランが念のためにとフォルナに聞き、フォルナがしっかりと言い切るので大丈夫そうだ。
それよりも聞き捨てのならない言葉があったので思わず読書をやめてフォルナに尋ねる。
「もう休みは終わりなのか?」
「はい!学校が始まる前日に到着予定です。」
「なんだと・・・」
フォルナの言葉に思わず本を閉じて頭を抱えてしまう。
「(王都に買物に行く時間がないじゃないか・・・せめてシーツだけでも買いたかったのに・・・)」
もうこうなっては読書をする気力も起こらない。
ただただフォルナのように窓に肘をついて流れる風景を眺めてただ時間と馬車が進むのを待つ。
何事も無く平和に王都へと旅を進める。
-五日後-
「ルドルフいつまですねてんのよ!王都が見えたわよ!?」
「もう日が暮れるから買物が出来ないな。」
夕暮れ時になり王都が見え始めてアランが興奮して言う。
王都に着く頃には日が暮れて商店は閉まっているだろう。
やはり買物は出来そうにないので思わず更に不機嫌になってしまう。
「明日買物が出来ない程に依頼が殺到しているのですね・・・」
「まぁそんな所だな。周りが煩くてな。」
俺の様子を見てフォルナが思わずといった様子で言って来るが、俺も学校だからとは口が裂けても言えないので、適当に答えておく。
勿論周りというのはアランとフィルの事だ。
「ルドルフ殿ほどの腕前ですと引く手数多でしょうし仕方ありませんね。」
「そうだねぇ?神銀級のあたしよりも忙しそうで悔しいよね。」
「アラン?からかうのはやめろ。」
フォルナの言葉に反応したアランが悪戯っぽく笑いながら言うので注意しておく。
「(しばらくルドルフは休業だ。)」
今回は長旅でルドルフの時間が多かったので心の底から思う。
しばらくは、出来れば九歳になるまではニコとして普通に暮らしたいものだ。
「着きましたよぅ!」
「わかった!ルドルフ殿どうぞ。」
しばらくしてアイリーンの声と共に馬車が止まり、いつも通りにフォルナが扉を開けてくれる。
もう幾度と無く繰り返した一連の流れに俺も淀みなくフォルナに手を挙げて馬車から降りる。
「ではルドルフ殿長旅お疲れ様でした!」
「また一緒に任務に就ける日を楽しみにしていますっ!」
「色々と助かった。またな。」
敬礼をするフォルナとアイリーンに見送られ王都の門へと向かう。
検問を待つ列に並ぶと、先に並んでいた人々が一様に俺の後方を見ているので振り返るとアイリーンが御者する馬車が別の門から王都に入るべく動き始めた所だった。
「(なるほど、こうやって外から見ると目立つな。)」
乗っている時はなんとも思わなかったが、白銀の鎧と兜に身を包んだアイリーンが御者をする馬車はとても物々しい様子で目立っている。
離れて行く馬車を眺めていると自分の番になったのでカードを提示して何事も無く門を通されて学校へと魔力灯に照らされた王都を進む。
学校に着き校長室へと直行する。
出来ればこのまま寮に直行してゆっくりしたい所だが、クラス替えの結果もわかってないのでフィルに報告ついでに教えて貰わないと新しい自分の部屋もわからないのだ。
一つ溜息を吐いて校長室をノックする。
「ニコだ。」
「入ってくれ。」
フィルの言葉に扉を開けると、アランとサミュエルがソファに座って手を振っている。
「お前ら良い御身分だな?」
「そんな事言われても、あんたの正体を隠すためにも仕方ないじゃん?」
「そうだよ。僕だって一番の功労者を歩かせるなんて申し訳ないんだよ?」
俺は門からここまで自分の足で歩いてきたというのに、二人は恐らくすぐ近くの騎士団本部まで馬車で来たのだろう。
もしかしたらアイリーンの事なので学校の目の前まで送られた可能性さえある。
さすがの俺も皮肉の一つも言いたくなるのは当然だ。
「そうだ。フォルナにはお前らがライネンにとんぼ返りしてから一切兵士の業務をしてないと報告させてあるから覚悟しておけ?」
「え・・・サミュエルそれってやばくない?」
「次の許可が下りないかもしれないね?」
やはりサミュエル達は次も遠征があったら付いて来るつもりだったようだ。
二人の表情がわかりやすく曇るので少し申し訳なくなるが、気軽に付いてこられても困るし、何よりも同行の条件を守らなかった二人が悪い。
「・・・まぁなんだ。二人から大体の報告は聞いたし、今日は部屋に戻って休みなさい。」
「そうか。それは楽でありがたい。」
二人が頭を突き合わせてヒソヒソと話し始めるので、フィルは一拍手を叩いて言う。
俺としては何を報告して何を報告しなくてもいいのかの取捨選択がよくわからないので大変ありがたい。
「心配しても仕方ない!部屋に戻るとしよう!」
「そうね!案内するからニコおいで?」
「すまんが頼む。」
サミュエルが立ち上がって言い、それに同調してアランが俺に手招きをしながら言うので立ち上がって三人で校長室を出る。
「ほう?予定通りに俺は銀クラスか。」
「そうよ?一人部屋だからって女を連れ込んじゃ駄目よ?」
「何を言っているんだ・・・」
「連れ込むんなら1人目はあたしだからね?」
「本当に何を言っているんだ?」
アランの案内で一人部屋である銀クラスの寮に入って行くので念のために尋ねるとアランが馬鹿みたいなことを言い始める。
心底呆れて今回の旅の疲れがドッと出た気さえする。
「この部屋よ?」
「わかった。じゃあまた明日。」
「あ、これ上げる!」
「ほう?これはありがたい!」
「じゃあまた明日!」
アランが布団のシーツを手渡してくるので思わず声を張ってお礼を言う。
満面の笑みで去って行くアランを見送って部屋に入る。
「ふむ。宿屋と変わらんな。」
部屋の中はベッドに勉強机があるだけのシンプルな部屋だった。
ただ一つ違う点と言えば部屋の中にもう一つ扉があり、中にはトイレが設置されていた。
とりあえずベッドにある布団を畳んで部屋の隅に置いてペガサスの羽毛布団一式に先程アランから貰ったシーツを取り付ける。
「(早くこの布団を試したい所だが我慢だ。)」
自分に言い聞かせながら作り置きの料理を取り出して適当に夕食を済ませて自分自身に洗浄魔法を施して布団に入る。
「(あ。魔力の鍛錬をしてない・・・今日はいいか。)」
布団はふかふかで何もかけてないのかと思うほどに軽いのにとても心地よい暖かさであまりの気持ちよさについつい鍛錬をサボってそのまま寝入る。
読んで下さって誠にありがとうございます。
この話にて一区切りして明日は外伝を二話投稿する予定です。
拙い文章ばかりですがこれからも読んでいただければと思っています。




