第百七話 魔法の鍛錬
「おはよっ!」
朝起きてサミュエルと二人で普段着に着替えていると、アランがノックも無しに部屋に入ってくる。
一応鍵をかけていたはずなのだが魔法で解除したのだろう。
「(ノックをして俺達を起こした方が楽だと思うのだがな・・・)」
「やっぱり治ってるよね・・・予想してたよ。」
俺が呆れながらアランを眺めていると。
アランも同じくらいに呆れた様子俺を見て言う。
「さっさとサミュエルに幻影魔法をかけて食堂に行くぞ。そのためにアランが起こしに来たんだろ?」
「へいへい。」
俺の言葉にアランが着替えを済ませたサミュエルに幻影魔法をかけて三人で食堂へと向かうべく部屋を出る。
「二人共おはよう。昨日は助かった。」
「おはようございます。注文ありがとうございます!」
「ご飯が用意されてるって最高!」
食堂に入りフォルナとアイリーンが机の隣に立って待っていたのでしっかりと昨日のお礼を言いながら三人で席に着く。
二人は何やら俺を見て目を見開いて口をパクパクさせたまま固まっている。
「なぜ歩けているのです?」
「昨日両足完全に折れてましたよねぇ?」
「昨日は治癒魔法に一日を費やしてしまったが、なんとかここまで治せた。」
「一日で治るような怪我では・・・」
「さすがはルドルフ殿ですねぇ?」
「話は後だ。まずは飯を食べよう。」
人に驚かれるのは慣れたのだが、フォルナとアイリーンにここまで驚かれるのはとても新鮮だ。
色々としっかりと説明をしたい所だが、昨日治癒魔法で魔力を大量に使ったからかとても腹が減っているので朝食を優先させる。
すでにアランとサミュエルは朝食を食べているので俺も二人に言って遠慮無く一緒に朝食を食べ始める。
「で?ルドルフは今日何すんの?」
「昨日サミュエルから聞いてマーメイドに会うのは危険と判断したから町で買物して夕方までゆっくりと魔法の鍛錬をするかな?」
「魔法?魔力じゃなくて?」
「んむ。魔法の精度を向上させたい。」
アランが興味津々と言った様子で俺の言葉に食いついてくる。
昨日は他にも色々と打てる手は思いついたのだが、アランに当たらないように。
そしてマーメイドを殺さないように魔法を発動する自信がなかったので、自分の両脚を犠牲にする安全策をとったのだ。
学校では人の目があって魔法の鍛錬を出来ないので海で遊べないのであれば是非とも魔法の鍛錬をしたいのだ。
「面白そうだね?アラン先生がよければ僕は是非とも見学したいね?」
「あたしもサムがよければ見学したいって言おうと思った所よ?」
「別に構わんが邪魔はするなよ?」
サミュエルとアランが言う。
俺の魔法を見て何が楽しいのかわからないのだが、邪魔をしないのであれば全く問題は無い。
「ではアイリーン?我々も見学でいいな?」
「問題無いですよぅ!」
フォルナとアイリーンも見学をするようだ。
邪魔をしないのであれば何でもいいのだが、マーメイドが加わらない事を願うばかりだ。
「(出来る限り内陸で鍛錬を行おう。)」
朝食を食べ終わり、決心して何やら楽しそうに俺を見る四人を引き連れて宿を出て町へと繰り出し買物をしてから、町を出て開けた平地を見つけたのでそこで魔法の鍛錬を行うために準備をする。
「ルドルフ?近くにいても大丈夫なの?」
「今日の鍛錬は大丈夫だ。ただ・・・この球には触れないほうがいい。」
マジックバッグから道具を出しているとアランが聞いて来るのでマジックバッグから二十センチ程の球を放り出す。
エドが作った武器なのだが重たすぎて自分の力では持ち上げる事が出来ないのだ。
「・・・何これ?重すぎない?」
「超重球と言う。」
アランが地面にめり込んだ超重球を持ち上げようとするが超重球はビクともしない。
アランは面白く無さそうに超重球を見ているので球の名前を教えておく。
「なんて?」
「超重球だ。」
「なんと安直な・・・これで何すんの?」
安直と言われても製作者であるエドが言っていたので俺に言われても仕方がない話だ。
エド曰く、「ん、重さは威力。」だそうだ。
事実ルルはこの超重球を重力魔法で華麗に操って竜を狩っていたので間違ってはいないのだろう。
ちなみにエドは普通に持ち上げて投げていた。身体能力強化魔法だろうと思うのだがいまいち掴みどころのないやつだったので魔法を使っていないと言われても納得する自信がある。
「この前のランスと同じだ。磁力を発生させてこの球を浮かせる。」
「こんな重たい球を?無理でしょ・・・」
俺は重力魔法なんて世界の理に逆らう魔法を行使して戦うほどの魔力量は無いので別の方法で超重球を操る方法を模索して磁力に行き着いた。
アランは驚いているが、これくらいの魔法が使えなければルル達の足元にも及ばないのである。
今回のマーメイドとの戦闘もルル達ならもっと被害も無く簡単そうに納めていただろう。
昨日の反省をすると絶対にその考えに行き着いてとても悔しいのだ。
「では始めようか。離れてくれるか?」
順番に超重球持ち上げようと挑戦する四人に言って集中して超重球の周りに磁力を発生させて浮かせる。
「「「「おぉっ!」」」」
四人が浮き始めた超重球を見て感嘆の声を上げている。
四人は無邪気に喜んでいるが俺は予想通りと言うべきか、予想外にと言うべきか超重球の名前の通りの超重量にいっぱいいっぱいだ。
「(持ち上げられるようになっただけでも進歩か。自由自在に動かすのはまだまだ先だな。)」
そんな事を考えながら必死に宙に浮かせた超重球を維持する。
「アラン先生はあれ出来ますか?」
「ん?絶対出来ないよ?」
「簡単そうにしてますが先輩に出来ないって事はかなり難しい事なんですね。」
「ですねぇ?先輩に出来ないならこの国で出来る人間は一握りから一摘みになりましたねぇ?」
四人が宙に浮く超重球を眺めながら話している。
アランもしっかりと鍛錬をすれば出来る様になると思うのだが、集中しないと球が落ちるので何も喋る余裕がない。
「ルドルフ殿?刀を貸してください!」
「ん?わか・・・やはり集中しないと駄目か・・・」
サミュエルに言われて刀を取り出そうとマジックバッグに手を入れると同時に球が鈍い音を立てて地面にめり込む。
十二分に球にかけた魔法には魔力を注いでいたつもりだったのだがやはり別の事をすると制御が疎かになってしまう。
「ほら・・・好きに振って来い。」
「重たっ!?」
少し落ち込みながらサミュエルに刀を渡す。
サミュエルは予想よりも刀が重たかったのだろう、思わずと言った様子で声を漏らして大事そうに両手で抱えて離れて嬉しそうに刀を降り始める。
「さて。魔法の鍛錬を再開するか。」
「ルドルフ!?お腹空いた!」
俺が超重球を再度持ち上げようと座禅を組もうとするとアランが掴みかかってくる。
アランの後ろには真剣な眼差しで俺を見るフォルナとアイリーンが見える。
「・・・何が食べたい?」
「ミノタウロス食べたい!海鮮はもういい!」
「ルドルフ殿!?私はステーキが食べたいです!」
「いいですねぇ!海鮮続きなのでステーキ食べたいですぅ!」
「わ、わかった。」
この町に着いてからはカニとイカ三昧の二日間だったのでそれで満足したようでみんな肉が食べたくてしょうが無い様だ。
あまりの剣幕に押し切られて料理の準備を始める。
「(というか昨日重傷だった俺に料理を作らせるこいつらは鬼か?)」
きしむ骨に顔を顰めつつも料理を作っているとふとそんな考えが頭をよぎる。
だがそれを言った所でステーキが完成する訳ではないので黙々と料理を作っていく。
「出来たぞ。」
「わーい!」
「なんと食欲をそそる香りでしょうか!?」
「こんな美味しそうなステーキ高級料理店でも出ないですよぉ!」
「美味しそうだ!ルドルフ殿本調子じゃないのにかたじけない!」
俺が出来上がった料理を持って行くとアランとフォルナとアイリーンが無邪気に喜んでいる。
が、刀を振り終えたサミュエルの言葉にみんなが俺の状態を思い出して息の飲んで俺を見る。
「忘れていたのか・・・」
アッと言う声が聞こえそうな表情で俺を見る皆に思わず溜息と共に心の声が出る。
「と、とにかく!ステーキが冷める前に食べましょ!」
「そ、そうですね!」
「その通りですぅ!食べましょっ!」
「皆さん・・・ルドルフ殿は怪我人なのを忘れないようにしてください?」
「サムの言う通りだ。」
アランの言葉にフォルナとアイリーンがステーキを食べ始め。
呆れた様子のサミュエルが三人に言っている。
俺もサミュエルの言葉に深く共感してしみじみと頷きながら言う。
三人は俺達の言葉が聞えてないかのようにステーキを食べるのでサミュエルと顔を見合わせて昼食を始める。
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