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第百六話 事後処理と報告

「先輩?役得ですねぇ?」

「煩い!」

町を歩いているとアイリーンにからかわれたフォルナが顔を真っ赤にして怒っている。

「(鎧を着た状態で俺を抱き抱えた所で重たいだけで何が役得なのか全く理解が出来ん・・・)」

二人のやりとりを見て不思議に思うが、今の俺はフォルナ達がいないと満足に歩く事も出来ない体なので、何も言わずに抱き抱えらたまま宿へと町を進む。



「ありがとう。晩飯は一人で済ますから明日までゆっくりしてくれ。」

「はっ!」

「しっかりと養生なさってくださいねぇ?」

ベッドに下ろされて二人に言うと、フォルナは凜と敬礼をして答えアイリーンはいつも通りに飄々とした様子で軽く敬礼しながら部屋から出て行く。

「さて・・・治癒するか。」

一息吐き、一人ごちて自分に治癒魔法をかけ始める。



「疲れたぁ!」

サミュエルが部屋に入ってくる。

「ふむ。もうそんな時間か。」

「おや?まだ夕食を食べて無いのかい?」

「治癒魔法に集中していたからな。」

俺は答えながらベッドの上に座り直してマジックバッグから前に食べきれずに入れていたピザを取り出して食べ始める。

少し足を動かしただけなのだが、繋がりきってない骨同士が擦れるのか、まだ若干の痛みが走る。

急いで治癒したので日常生活程度には動かせるくらいには治ったようだがまだまだ激しい動きは出来そうにはなさそうだ。


「え・・・?昼はぐにゃぐにゃ・・・」

「治癒したからな。医院で固定してもらったから上手くくっ付いたみたいだ。」

「ニコ・・・どれだけ非常識なんだ?」

「おい今はルドルフだ。それに今戦闘行為をすれば同じ場所が折れるだろうな。」

サミュエルが驚きの余りに俺をニコと呼びながら大変失礼な事を言って来る。

失礼な言葉を浴びせられるのは慣れているのでいいのだが、今ニコと呼ばれるのは絶対に許容できない。



「ごめんごめん。で?マーメイドとの交渉の話を聞くかい?」

「あぁ是非頼む。」

「まずは・・・」

サミュエルが俺と別れてからの話をし始める。

俺は魔力を使いすぎたせいかピザ一枚では物足りないので次の料理を取り出して食べながらサミュエルの話を聞く。



「マーメイド達はとても素直に話してくれてすぐに話しが着いたよ。」

「ふむふむ。」

サミュエルが溜めるので食事を中断して続きを促すように相槌を打つがサミュエルが続きを言おうとしない。


「上半身だけとはいえ、綺麗な女性の裸は目のやり場に困ったね?」

「ん?交渉の話は?」

「え?以上だよ?マーメイド達は君の事をリーダーと仰いでいて僕達の条件を全て快諾してくれたよ?」

サミュエルが顔を真っ赤にしながらのろけ始める。

俺が思わず聞くとサミュエルがあっけらかんと言い放つ。

魔族は動物と同じで弱肉強食の完全な縦社会だ。

リーダーが俺へと代替わりしていても不思議は無いのだが、保有魔力量が圧倒的に劣る俺がリーダーと仰がれるとは夢にも思っていなかったので思わず呆気に取られる。



「俺をリーダー?まぁいい・・・条件とは?」

「週一で漁師達がマーメイド達の協力の下に祠の奥で魔魚を取り、その売上げの七割を酒などの物にして供える。残りの三割は町に入れて町人には減税と言う形でロイ太守が調整だね。」

「なるほど。もしロイ太守が着服したら?」

「漁師長が太守からしっかりと領収書などを受け取って精査する。守られていないと思ったらすぐに我々王族に言うようにと言ってある。」

サミュエルは自身満々に言っているので問題無いのだろう。

俺としては漁師長も金に目が眩んだ場合はどうするのか聞いてみたい気もするがしっかり者のサミュエルの事だ。

しっかりと対応策を考えているだろうから俺の心配する事では無い。



「で?マーメイドは・・・リーダーはどんな感じだった?」

「はい!基本的に交渉は副リーダーが主導で、リーダーは「あの人間は来ないのか!?」とずっと言ってたよ?」

あのリーダーマーメイドがまた変な考えを起こさないかと心配なので聞くとサミュエルがそんな事を言う。

まぁ壁にめり込まされれば再戦!とまではならないかもしれないが恨まれて当然だ。


「そんなに恨まれて・・・まぁ仕方ないな。」

「恨むと言うよりはモジモジと恋する乙女のようだったよ?」

「なんだと?」

「ルドルフ殿は治療中で来ないよ。と僕が言うとわかりやすく頬を膨らませて僕達の交渉に一切興味を示さずに奥の岩場に戻って歌い出したしね。」

「わかった。心残りだが海には近づかない。」

心から決意をする。

海に近づいてもしリーダーマーメイドに出会ったら面倒が起こる予感しかしない。



「そうだね?後二日いる予定だったけど・・・どうする?」

「アラン達女子組は海水浴を楽しみにしてるみたいだったし俺は読書と魔法の練習に励むとする。」

「ルドルフ殿がいないとあの三人も海水浴はしないと思うよ?」

「そうなのか?よく意味がわからんが好きに過ごして貰うとしよう。」

「それはそれとして!脚がいいのなら勝負だ!」

「(なぜ俺がいないと海水浴はしないんだ?わからん・・・)」

サミュエルが当然の様に言うのだが。言葉の意味を理解できなくて困っているとサミュエルがいつも通りに将棋盤を広げて駒を並べ始める。

今日は戦闘も多く、魔力も大量に使ったので本当に疲れているので勘弁して欲しいのだがそれは聞き入られそうにないので仕方なくサミュエルと勝負をする。


「ンムム・・・」

「ゆっくり悩んでくれ。」

将棋盤を眺めて腕を組んで悩むサミュエルを見ながら鍛錬を行う。


「ここだ!!」

「すまんが想定内だ。」

サミュエルが気合を入れて駒を進めるので俺も鍛錬を中断して予定通りに駒を進めると、サミュエルがまた険しい顔で将棋盤を睨み始める。


「じゃ、じゃあここだ!」

「はいはい。刀の手入れもしておくか。」

サミュエルが駒を進めどうだ!と言わんばかりの表情をしているが想定内なのでまた予定通りに駒を進めて刀を研ぎ始める。


「ングググ・・・」

「この一手が勝負だぞ?」

俺の見たところ起死回生の一手があるが、もう一つサミュエルが好きそうな良さそうに見える手がある、そっちは悪手で俺から勝負の主導権を奪えないでズルズルと勝負が長引く一手だ。

どっちを選ぶか、はたまた俺の予想外の一手を打つかと楽しみしながら刀を研ぎながらサミュエルを眺める。



「ふぅ・・・肩の力を抜こう。ここだ。」

「ほう?面白い場所に打つな。」

サミュエルはそう言って全く意味のなさそうな一手を打つ。

俺の予想外の一手なのでどういう意図があるのか必死に考える。

「おぉ!ルドルフ殿のそんな必死な顔が見れただけでこの一手に価値が出るね!」

「その言葉が本心かどうか、疑心暗鬼だな。」

楽しそうなサミュエルの言葉に更に悩んでしまう。

「(ここ以外は考え付かないな。)」

そう思って元々考えていた場所に駒を進めると、サミュエルが笑顔で即座に駒を進める。



「ほう?これは面白い。二枚落ちになる日は近そうだな。」

「え?」

サミュエルの思惑に気付いてしまったので、容赦なく潰しておく。

サミュエルは全く予想してなかったのだろう、俺の一手によって頓狂な声を上げて肩を震わせながら将棋盤を睨み始める。

「そんな手が・・・先程の一手が死んだじゃないか・・・」

「投了をお勧めする。」

先程までの余裕しゃくしゃくの顔から途端に鬼のような形相で将棋盤を睨みつけながら唸るサミュエルに引導を渡す。



「・・・参りました。」

悔しそうにサミュエルが頭を下げて負けを認める。

「丁度刀の手入れも終わったし寝るかな。」

「グヌヌ・・・勝てると思ったのに・・・」

「さっきも言ったが二枚落ちになる日は近いぞ。」

「そうなるように精進しよう。」

今は四枚落ち、つまりサミュエルよりも四枚駒が少ない陣営で戦っている。

「(本当に近いうちに二枚落ちでなければ勝てなくなりそうだな。)」

悔しそうに将棋盤をしまうサミュエルを見ながら自分のベッドに入っていると同じくサミュエルがベッドに入りながら尋ねて来る。



「そういえば。あんな怪我なのにルドルフ殿は痛がって無かったね?」

「あぁ幻覚魔法で痛覚を遮断していたからな。そうじゃなければ痛みで失神しならまだいいが、発狂してる。」

「幻・・・覚?」

「簡単に言えば幻影魔法の上位版だな。視覚だけじゃなくて五感全てを操作できるんだ。」

「そんな事が可能なのか!?」

俺の説明にピンと来て無いようなので説明をするとサミュエルが声を荒げながらベッドから飛び起きる。


「実際に俺が使えてる。」

「そんな・・・明日かけてもらっても?」

「やめとけ。俺も緊急事態だから使ったが脳への負担が大きいから使いすぎると廃人になる。」

脳に魔力を流して無理矢理騙すのだ、何も副作用が無いわけがない。



「そんなになのかい?」

「不思議な事にな?幻覚魔法でただの鉄の棒を真っ赤になるまで熱した鉄の棒に見せて肌につけるとどうなると思う。」

「ふむ。真っ赤に見えるだけで普通の鉄の棒なら何も起こらないんじゃないの?」

「正直俺も人から聞いた話だから半信半疑なんだが、火傷するそうだ。」

「なっ!?」

ルルから教えてもらった話だ。

ルルが嘘を言うとは思えないが信じられない話だったのでルルが説明している時の事はとても鮮明に覚えている。。

サミュエルも同じ気持ちなようで灯りを消していて月明かりに照らされる驚いた表情が見える。



「それだけ脳を騙すと言う事は危ないと言う事だ。」

「そうか・・・なら残念だが諦めよう。」

「だから俺も急いで応急だが治癒して幻覚魔法を解除したんだ。」

「今は痛みは無いのかい?」

「応急だからな、骨と骨が繋がりきってない箇所がきしんでいるのか痛いな。」

だが耐えられないほどではないので、俺もこんな子供のうちに廃人になりたくないので、幻覚魔法をかけ続ける方が危険なのだ。


「そうかい・・・疲れてるのに申し訳なかったね、おやすみ?」

「構わんさ。おやすみ。」

サミュエルが自分に布団をかけ直しながら言うので俺も返して二人で一緒に眠りに着く。

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