第百五話 奥の手の代償
「おぶっ!出力がっ、足りっ、なかっ、たっ!」
軌道修正を失敗して祠の手前に落ちてしまい、水切り石のように水面を跳ね思わず声が出る。
三回跳ねた後に海中に入るので仕方なく泳いで祠のある岩山を登る。
「ルドルフ殿!お待ちしてました。」
俺が岩山に上陸するとサミュエル、ロイ、ガッスが駈け寄って来てサミュエルが代表して話しかけてくる。
「状況は?」
俺は打ち上げに失敗して華麗に着地するつもりが着水してからの上陸になってしまったのだが、恥かしいので失敗だったと思われないためにも毅然とした態度で洗浄魔法を自分に掛けながら尋ねる。
「僕達四人が祠を進んで地底湖に辿り着くとマーメイド達が一斉に歌いだしてアラン先生が僕達を襲いだしたんです!」
「ふむ、やはりあのマーメイドは殺しておくべきかもな。」
「そんな物騒な・・・」
「三人は船で町に戻れ。アランとの戦闘になるかもしれん、場合によってはこの岩山は崩壊するぞ。」
「かしこまりました。」
俺の言葉にサミュエルが渋々と言った様子で了承し、真剣な表情のロイとガッスが船の出発の準備を始めている。
「太守!準備が整いました!」
「殿下どうぞ!私が受け止めますので!」
ガッスが言うとロイが船の上で踏ん張りながらサミュエルに言っている。
「すまない頼む!」
サミュエルが岩山の上から飛びロイに受け止められそれを確認したガッスが漕ぎ始め町へと帰って行く。
「さて・・・行くか。」
三人を見送って歌声が響き渡る祠を通り地底湖を目指して洞窟を進んで行く。
地底湖に着くと戦闘準備万端といった様子のアランが凍った地底湖に立っていた。
マーメイド達は奥の岩場で寒そうに両腕で肩を抱きながら歌っている。
「さて。話を聞こうか。」
「話なんてないよ!ちょっと考えたけどやっぱり弱い人間はあたし達に酒を捧げればいいんだよ!」
俺の言葉にリーダーマーメイドが自身満々に言い放つ。
関係ない話だがドヤ顔がとても腹立たしい。
「ほう?本気で言ってるのか?」
「本気に決まってるでしょ!あんたにこの人間を殺せるの?」
俺が本気で苛立ちながら聞くと、マーメイドは変わらずドヤ顔で虚ろな目で立つアランを顎で指す。
「逆にこいつが死ねば俺は遠慮なくお前らを殺すぞ?」
「ふん!言ってな!さぁ人間行きな!」
俺の言葉に焦ったのかマーメイドは分かりやすく焦った様子でアランをけしかけてくる。
アランは虚ろな目のまま俺に向かって凍った地底湖を歩き始める。
「ふむ。俺の相手はアランだけなのか?」
「フフフ!強いんだろうねぇ?あたし以外の全員が本気で歌わないと魅了出来なかったしねぇ?」
「それはいい話を聞いた。」
とりあえずマーメイドの歌を止めればアランが元に戻る可能性が高いことが分かった。
「フフフ大丈夫よ?心配しなくても綺麗な氷像にして死ぬまで愛でて上げるから!」
「俺が何を心配してると思ったらその言葉をチョイスするんだ?」
元々おかしいアランの言動が更におかしくなっているので早く魅了を解いてやらないと取り返しのつかない事になる可能性が出てきた。
どうするかと考え込む。
「(雷龍は・・・マーメイドを全員殺しかねないな・・・アランを倒すにしてもどんな奥の手があるかもわからないしな・・・)」
普段馬鹿みたいにじゃれあっているアランだが、本気の戦闘となればどんな奥の手があるか全くわからない。
魔力特性の凍結を使って凍らせるだけで神銀級冒険者などにはなれないのは俺でも分かる。
「となると・・・あの方法か・・・まぁ死んだら死んだでしょうがないか。」
「へぇ?あたしを殺せるの?」
そう言ってアランが何やら構え始めるので俺に残された時間は少なそうだ。
即座に俺もマーメイドを仕留めるべく踏ん張って脚に魔力を集中させる。
「アランの事じゃない・・・脚は必要経費だな。」
「え?意味わかんない!とりあえず氷柱の槍!」
アランが俺よりも大きい氷の槍を空中に作り出して打ち込んで来る。
俺も覚悟を決めて全身全霊の力を込めて足を踏み込んで地面を両足で蹴り出し氷柱の槍の隙間を抜けてマーメイド達目がけて飛ぶ。
本気で身体能力強化魔法をかけ、自分の魔力で強化した蛙飛びは百メートル先のリーダーマーメイドまで文字通り一瞬だ。
リーダーマーメイドにドロップキックを叩き込むべく大急ぎで姿勢を変える。
「(間に合った。)」
何の妨害を受けることも無くリーダーマーメイドの胴体にドロップキックを叩き込むことに成功する。
そのままの勢いでマーメイドごと奥の岩壁へと飛んで行く。
「ぷぎょっ?」
「死んだら、しっかり食べてやる。」
頓狂な声を上げるマーメイドが安心して死ねるように言いながら岩壁へと叩きつける。
マーメイドがめり込み岩壁が割れる音と共に自分の脚からボキボキと骨が折れる音が聞こえる。
「ここまで人に近い魔物を食べるのは避けてたんだがな・・・」
思わず一人ごちながら壁にめり込むマーメイドを見ながら着地するが足がふにゃふにゃと曲がり、激痛が走りまったく踏ん張る事も出来ずに地面に倒れこむ。
俺の本気の身体能力強化魔法に八歳児の体が耐え切れなかったのだ。
即座に痛みを失くすために自分自身に幻覚魔法を施す。
幻覚魔法とは幻影魔法の上位魔法で視覚を騙す幻影魔法と違って脳を騙す魔法だ。
脳への負担が大きいので出来れば使いたくないのだが幻覚魔法を使って脚の痛みを誤魔化さなければ発狂してしてしまうかもしれない。
そこをマーメイド達に襲われたらひとたまりもないだろう。
「ニコッ!?」
「魅了が解けたか。すまんが抱っこしてくれ。」
「わか・・・足ぐにゃぐにゃじゃない・・・」
「本気の強化に体が耐えられなくてな、すまんがしばらくは歩く事は出来ん。」
俺を抱き抱えたアランが俺の足を見て息を飲み、悲痛な表情で言うので説明をしておく。
「で?リーダーがこうなってる訳だけどどうすんの?」
「俺もこんな状態だ。まだするのなら・・・もう手加減出来んぞ?」
呆気に取らているマーメイド達にアランが言うので俺も凄んでおく。
おそらくマーメイド側から見たら女に抱っこされた子供が凄むと言う、とても間抜けなえづらとなっている事だろう。
すぐに副リーダーマーメイドがすごい勢いで首を横にふり、続いて別のマーメイド達も一斉に首を横に振り出す。
「じゃあそこのリーダーにも言っとけ?次は無いぞっとな?」
「わ、わかったっす!」
岩壁にめり込んだリーダーマーメイドの尾びれが痙攣し始めたので恐らく死んでないのだろう。
リーダーマーメイドを顎で指して言うと副リーダーは今度は首を何度も縦に振っているのでもう大丈夫そうだ。
「じゃあ帰ってルドルフを置いて出直しね。」
「すまんが頼む。」
アランが俺を抱っこしたまま祠から出て、海面を凍らせながら歩いてゲーテの町へと帰る。
「お帰りなさっ・・・どうしたのですか!?」
砂浜に着くとサミュエルとロイとガッスが走り寄って来て、サミュエルが俺の状態を見て驚く。
「あたしを守るために無茶をしたのよ。」
「すまんな。考える時間が足りなさすぎてな。」
「すぐに手当てをしましょう!」
「そうでさぁ!おい!担架だ担架!」
アランが少し上気した表情で言うので心配させたなと反省して謝る。
ロイとガッスが大慌てで町人達に指示を出している。
「サム・・・今はサミュエルか。フォルナとアイリーンは?」
「騎士団へのランスの返却やギルドへの報告に行ってます。」
「そうか。どうにか交渉を続行できるようにはしてある。もし次俺が出向かなければならない時は、わかってるな?」
「わかりました!太守達にはしっかりと説明しておきます。」
本当にサミュエルは空気が読める男で助かる。
これだけの説明で次俺が出向く時はマーメイドを殺す事を、そして入り江に魔魚が入ってくる事を一瞬で察して答える。
「じゃあルドルフ?しばしのお別れね。」
「あぁ。ここまで運んで貰ってありがとう。」
「ルドルフが頼ってくるなんて珍しいから嬉しかったよ?」
アランがとても上機嫌な様子で言いながら町人達が用意してくれた担架に俺を降ろす。
俺はいつもアランを初めとした周りの人間に甘えっぱなしだな。と思っていたのだがアランの評価は違うようだ。
「おい!ゆっくりだぞ!」
「わかってる!英雄様の御通りだぁ!」
すぐに町人達が総出で俺を医院へと運び出す。
「英雄様ぁ!?お気を確かに!」
「もう医院ですからね!」
隣でおば、女性達が口々に励ましの声をかけながら並走してくれている。
出来れば静かにして頂きたいのだが俺を思っての行動なので何も言えずにただただ頷く。
すぐに医院に運び込まれ白衣の男性に脚を診察される。
「これは・・・何をすればこんな骨折をするんだ?」
俺の脚を見ながら白衣の男性が驚愕の声を上げる。
余りにも酷いので触診も出来ずに困っているようだ。
「ルドルフ君だったね?腫れも酷いし今日は入院をしてもらうよ?」
「いや。治癒は自分でするから変なくっ付き方をしないように固定をお願いしたい。」
「・・・わかりました。」
俺の言葉に不満そうに答えながらも添え木をして包帯で折れた脚を固定してくれる。
こうやってしっかりと固定をしておかないと、真っ直ぐに骨がくっ付かないので絶対に必須の作業なのだ。
昔身体能力強化魔法の限界を確かめていた時に全身の骨が折れたのでそのまま無理矢理治癒魔法でくっ付けたらとても大変だったのを思い出す。
「(あの時はルルが文字通りに泣く泣く俺の骨を折ってくっつけ直したな・・・)」
そんな事を思い出しながら、自分でするのは大変だなと考えていたのでとてもありがたいと白衣の男性に頭を下げる。
「ルドルフ殿!大丈夫なのですか!?」
「何やら大怪我をなさったと聞きましたが?」
治療を受けていると皮袋を抱えたフォルナとアイリーンが医院の中に駆け込んでくる。
「大丈夫だ。問題無い。」
「アラン先輩との戦闘はこうなってしまうのですね。」
「でもでもぉ!こうやって戻ってきてるって事は勝ったって事ですよねぇ?」
フォルナとアイリーンが騒ぎ始め周りの怪我人達の視線が集まる。
「すみませんが他にも患者がいるので静かにしてもらえますか?」
「申し訳ありません。」
「ごめんなさいぃ。」
白衣の男性に怒られてフォルナとアイリーンがわかりやすく落ち込んで静かになる。
「はい、終わりましたが・・・本当に痛み止めの魔法さえもいらないんですか?」
「それは今自分でかけているから問題無い。どうやって固定しようかと困っていたから本当に助かった。料金はいくらだ?」
「無料ですよ?英雄様であるルドルフ殿からお金を貰ったらみんなに袋叩きにあいます!」
「なら足りなかったら申し訳ないが、寄付だ。受け取ってくれ。」
白衣の男性が手を振って言うのでマジックバッグから金貨を取り出して渡す。
「金貨!?しかも二枚!?十分過ぎです!」
「ならよかった。ではフォルナ、アイリーン。すまんが俺を宿のベッドに運んでくれるか?」
「かしこまりました!」
白衣の男性が驚いているので問題無さそうなので二人にお願いすると、フォルナが元気良く返事をして俺をお姫様抱っこをする。
担架で運んでもらうつもりで言ったので思わず呆気にとられて言葉を失うがフォルナとアイリーンはそんな俺にお構い無しに医院から出て行く。
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