第百四話 サミュエルのマーメイド見学
「そう言えば魔魚とは高いのか?」
町を歩きながら付いてきたフォルナとアイリーンに尋ねる。
「嗜好品の部類に入るのでかなり高いです。」
「魔魚釣りをして小さいのがかかればいいですけどねぇ?もし大きいのがかかって海に引き釣りこまれたら終わりですからねぇ?命の値段ですよねぇ?」
俺が思っていた以上に魔魚の捕獲は危険なのでそれに伴い価値も高いようだ。
明日は外海で釣りをしたり潜って魔貝を採ったりしようと思っていたのだが予定を変更しなければならなそうだ。
「なら明日の外海で釣りをしようと思っていたが止めた方がいいな?」
それでも外海での釣り体験を諦めきれずに二人に尋ねるが、二人は困った顔をして何も答えられないようだ。
「やはり俺でも危ないのだな・・・」
「いえ!ルドルフ殿なら問題無いでしょうが・・・我々が付いて行けませんね。」
「何か・・・もしもがあったら・・・」
「二人がそう言うなら・・・カニとイカで我慢するか。」
二人の心配そうな表情を見て釣りは我慢することにする。
とりあえず今日の巨大イカを時忘れのマジックバッグに確保するためにも砂浜に向かう。
「英雄様方のお出ましだぁ!」
「おい!机と椅子の準備だ!」
「英雄様は口下手だ!煩わせるんじゃないよ!」
砂浜に出ると俺達の姿を確認した町人達が一斉に声を上げて昼食の準備を始める。
砂浜を見ると俺の魔法によって足が無くなり無数のランスで串刺しになった巨大イカを囲むように昨日と同じように砂浜の至る所で焚き火をして女性達が忙しなく料理をしている。
「ルドルフ殿?とりあえず座りますか。」
「そうですねぇ?折角用意してくれてますしねぇ?」
「いや。先にイカの確保だ。」
フォルナとアイリーンの案内を押しのけて巨大イカへと歩を進める。
釣りの本によればイカの天辺。エンペラと呼ばれる部分が美味しいはずだ。
思わず舌なめずりをしながら巨大イカを掴んで引き上げて水中に沈んでいたイカの上部を顕わにする。
「・・・最悪だ。」
引き上げるとエンペラがあるはずの天辺から先が無い。
引き上げてる最中に胴体の向こう側に一瞬だが、マーメイドであろう尾ビレが見えたので犯人はあいつらだろう。
「ルドルフ殿!?どうしたのですか?」
「あれぇ・・頭の三角の部分が無いですねぇ?」
「チッあいつらは碌な事をしない種族だな。次の部位だ。」
フォルナとアイリーンが何か言っているが構わずに足のなくなった下半身を掴んで無理矢理内蔵を引っ張り出す。
「ワイルドですね・・・」
「どんな力を使えば引き抜けるんですかねぇ?」
フォルナとアイリーンが俺の解体を見て何やら言っているが引き続き解体を続行する、内蔵がなくなった胴体を刀で大胆に切り開いてから内臓を覆っていた部位を切り取って時忘れのマジックバッグに放り込む。
釣りの本にはイカのこの部分が美味しいと書いてあったからだ。
「まだ余裕があるな・・・次だ。」
次は口の周りを切り取ってマジックバッグに入れていく。
「なぜこんな硬い皮を簡単に切れるのだ?」
「どんな人が鍛えた刀なんでしょうねぇ?」
フォルナとアイリーンが何やら感心して俺を見ている。
その後もマジックバッグが一杯になるまで胴体から身を適当に切り取っては放り込んで行く。
「また仰々しく用意してくれたな。」
マジックバッグが一杯になったので町人達が昼食を用意してくれている机を見ると、砂浜の上に板で即席の床を作って六人掛けの机を六個くっ付け設置してある。勿論机の上には所狭しとイカとカニ料理が並べられている。
しかも御丁寧に頭上には布を張って日除けもしてくれていて至れり尽くせりの様子だ。
「二人共待たせたな。昼食にしよう。」
「か、かしこまりました!」
「そうですねぇ?食べましょぉ!」
仰々しく準備された机に向かっていると、なぜか二人は俺を見つめて立ち尽くしていたので声をかける。
二人は何か悟った様な表情から一気に笑顔に変わり机へと駆け出す。
「あんた達いい御身分じゃん?」
昼食を食べていると突然アランの声がするので、その方向に視線を向けるとアランは恨みがましそうな目でフォルナの肩に手を置いていた。
「あの!これは違って・・・食べられますか?」
フォルナは一瞬で顔を青褪めさせてアランに皿を差し出している。
「これから海神様の所に行くから食べられまっせぇーん!」
「御気を付けて!」
アランの言葉にフォルナとアイリーンが立ち上がって敬礼をしてアランと後ろにいるサミュエルとロイ太守それにガッス漁師長に向かって敬礼している。
「(そういえば船はここにあるんだったな・・・)」
そんな事を思いながらイカ料理を味わう。
「じゃあルドルフ殿行ってきます!」
「みんなを代表して行かせて頂きやすぜぃ!」
「マーメイド楽しみですねぇ!」
「そのイカ料理残しときなよ!」
「これ美味いな。」
四人がそれぞれに言い残して船に乗り込んで祠へと進んで行く。
フォルナとアイリーンは敬礼をしたまま四人を見送っているが俺は構わずに町人達が作ってくれた美味しいイカ料理に舌鼓を打つ。
「もういいだろ。」
「いえ!まだ姿が見えますので!」
「そうです!先輩に見送りをやめて食べてる姿を見られたら・・・恐いですよぅ!」
船が豆粒よりも小さくなっても敬礼をして見送り続ける二人に言うが、二人は余程アランが恐いらしい。
頑なに敬礼をやめて食事を再開しようとしない。
「まぁ食べきれないくらいにあるから問題ないか。」
そんな二人から机の上に並べられた料理へと視線を向けて思わず1人ごちる。
「よし!岩山に入って行ったな?」
「はい!しっかりと確認しましたぁ!」
「難儀なものだな。」
二人がしっかりとアラン達の姿が見えなくなった事を確認してから席に座り直して食事を始めるのを見て思わず溜息を吐きながら言う。
「(少なくとも俺はこんな肩身の狭い思いはごめんだな。)」
美味しそうに料理を食べる二人を見ながら心の奥底から思う。
「忙しそうなところすまない。今何をしているんだ?」
「とんでもありません!今イカクラーケンを腐らしちゃ勿体無いので町人総出でクラーケンの一夜干しを作っています!」
忙しなく動き回る女性に声をかけると、笑顔で対応してくれる。
しかも丁寧にしっかりと立ち止まって俺に向き直っての対応だ。
とてもありがたい。
ついでに気になっていた向こうでカニの身をほぐして干しているのも聞いておく。
「ほう?ならあれはカニの一夜干しか?」
「一夜干しでは無いですが。カニの保存食ですよ!お帰りの際には是非持って帰って下さいね?」
「ほう?ならば言葉に甘えて楽しみにしておこう。」
「嫌だって言われても帰りの馬車の中に放り込むつもりですよ!絶対美味しいんで後悔はさせません!ハッハッハッ!」
俺の言葉に嬉しそうに笑いながら女性は去って行き、漁師から巨大イカの切り身を受け取って町と砂浜の境界にある小屋へと入って行く。
「帰りが楽しみだな。」
「一夜干しは一夜干しで美味しいですからね!」
「しかも!魔物のカニとイカの一夜干しですよぅ?今から楽しみですねぇ?」
二人は一夜干しを食べた事がある様で今現在進行形でカニとイカをふんだんに使った料理を食べているにも関わらずもう一夜干しを食べる事を考えて上の空になっている。
俺は食べた事ないのでわからないが、そこまで美味しい物と言う事だろう。
俺もとても一夜干しを食べるのが楽しみになってきた。
『パンッ!パンッ!』
ほのぼのと三人で食事をしていると上空でニ発の魔法が爆発する。
俺は意味がわからずに魔法の爆発を眺めているとフォルナとアイリーンは剣を握り締めて立ち上がり祠のある岩山を険しい表情で睨みつけている。
「なんだ?どうした?」
「あの魔法は祠から上がったものでしょう。おそらく先輩や殿下達の救援要請です。」
「きっと何かあったんですよぅ!」
二人の言葉で大体の事情を察知する。
しかも魔法の音がニ発という事は誰か中で戦っているかはわからないが外に出られない状況なのだ。
俺は思わずあの腹立たしいマーメイドの事を思い出して深い溜息を吐く。
「行くか・・・お前らはここで待機だ。」
「また魅了されては意味がないので仕方ありませんね・・・」
「ルドルフ殿不甲斐無いですがお願いしますぅ!」
「その変わりにギルドなどの細々した話は任せた。」
フォルナとアイリーンが悔しそうに拳を握りしめて言うので別の仕事を頼んでおく。
「かしこまりました!巨大カニの甲羅と魔石は売ってもいいんですね?」
「あ!イカの魔石とかもいいですよねぇ?」
二人が敬礼をしながら聞いて来るので頷いて風魔法を発動させて入り江の中央にある祠へと飛んで行く。
フォルナとアイリーンを抱えて飛ぶのは無理だが、一人だけならなんとかなる。
と言っても傍目には飛んでいるように見えるらしいが、実際は人間大砲と言ったほうが正しい。
飛ぶ方向と飛距離を決めて魔法を発動したら後は軌道修正くらいしか出来ないからだ。
否応無く祠のある岩山へと一直線に飛んで行く。
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