第百三話 人魚誘拐事件解決。
「ただいま帰り・・・って中にも人!?」
「やっと来たか、頼む。あいつに今まで何をしてたか説明してやってくれないか?俺達人間に攫われたと言って俺の話を聞いてくれなくて困っている。」
十分以上マーメイドとの不毛な争いを続け、やっとフォルナとアイリーンの観察を終えたマーメイド達が地底湖へと入って来る。
俺は悩んだ末にこれからやってくるマーメイド達が話しがわかる魔族であることに賭けた。
それに目の前の馬鹿マーメイドを見る限り十体や二十体加勢された所で殺すだけなら簡単に出来そうだと判断したのも大きい。
マーメイド達は俺を見て驚いているが、気にせず出来るだけ丁寧にお願いする。
「これは・・・リーダーまた何か勘違いしてますね。人間の方すみません。」
「よくあるのか?」
「人間相手には初めてっすね。」
「話しがしたいんだ、すまんが頼む。」
副リーダーっぽいマーメイドが呆れ半分と言った様子で頷いて荒れる地底湖に飛び込む。
しばらくして俺に一心不乱に水の弾を撃ち込むマーメイドの隣に先程のマーメイドが現れて話しかけるとすぐに水の弾が止み地底湖に静けさが戻る。
話の出来るマーメイドだったようで助かった。
魔法障壁を解除して思わず溜息を漏らしながらその場に座り込んでしまう。
「危害を加えるつもりはない。話をさせてもらえないか?」
「・・・仲間が戻ってきたしいいわよ?ってかあんた達どこに行ってたのよ!?」
やっと会話が出来そうだと一息つくがもう少しかかりそうだ。
マーメイドが俺の言葉に答えてから副リーダーっぽいマーメイドに振り向いて怒り始める。
「いやぁ・・・リーダーが魔物を追い払ってる時に久々に人間が頼み事をしてきましてね?お酒も貰ったしって事でみんなと飲み飲み魚を呼びに外海に出てたんすよ!」
「え・・・酒なんて見てないよ?」
「そりゃそうでしょ!あたしらで全部持って外海に出たんすから!」
「ズルイズルイズルイズルイ!!てか早く戻って来なさいよ!」
「あんな凶暴な魔物達が巣くった内海に入れる訳ないじゃないっすか!あたしらの手に負えないからリーダーに追い払ってもらったんすから!つかなんで追い払ったはずの魔物がいたんすか?突然いなくなりましたけど何があったんすか?」
マーメイド二人が話しているが、統轄するとリーダーのマーメイドと副リーダーのマーメイドが入れ違いになっていたようだ。
勘違いはしょうがないにしてもその勘違いで海にクラーケンを放たれてはたまったものではない。
「(腐った魚を食べたのはクラーケンを呼び戻す前だろうか?後だろうか?)」
頭の悪いポンコツリーダーを眺めながら、とてつもなくどうでもいい事を考える。
「で?人間?あんたは何しにきたの?」
「お前のせいで人間の町は大いに困っているのでそっちの事情を聞きに来たのだが大体わかったからもういい。」
このマーメイド達と関わると碌な事がなさそうだ。っと俺は直感で感じたのでリーダーマーメイドの言葉に適当に合わせて帰ろうと出口に向かって足早に歩き始める。
「待ちなさいよ!御供え物は無いの?酒とか酒とか酒無いの!」
さすがはマーメイドだ。
先程まで遠くにいたのに一瞬でここまで泳いできて俺の足首をがっしりと掴む。
「煩い。お前の勘違いで大騒ぎなんだぞ?御供え物などよく言えるな?さぁ離せ。」
「きぃぃぃぃぃ!リーダーのあたしだけ酒飲めないなんておかしい!」
「わかったわかった。なら今まで人間と話した事はないんだろ?」
「ないわよ!別に話す事もないし当然じゃん!」
「ならお前らが人間に魔魚なり魚なりを出して対価として酒を貰えばいいんじゃないか?」
「ちょっと・・・相談するわ。」
何やらリーダーマーメイドが俺の足を掴んだまま喚き散らし始めるので、仕方なく提案をすると真面目な顔になって地底湖の中にある岩山で楽しそうに魚を丸かじって食事をしているマーメイド達の下へと向かって行く。
「(とりあえず足がかりだけ作ったら方々に丸投げをしよう。)」
すぐにみんなと一緒に楽しそうに話しながら魚を丸かじり始めるリーダーマーメイドを見て硬く決意をしてみんながいる岩山へと歩を進める。
「おい。返答を聞かずに帰っていいのか?」
「待って!さっき頑張ったからお腹減ってたのよ!てかどうやって水の上に立ってんの?」
「別に?俺の足元の海水を固めているだけだが?」
「色々言いたい事はあるけど・・・まぁいいわ!もう少し待ってて!」
そう言ってリーダーマーメイドは持っていた魚を丸呑みして周りのマーメイドと真剣な表情で話し始める。
「ねぇ?魔魚だったらどれくらいの酒と交換できんの?」
「俺は知らん。」
「使えない人間ね?」
「・・・俺が話してるとうっかりお前を殺しそうだから人間の責任者を連れて来ていいか?」
「殺す?やってみなさいよ!非力な人間が出来もしない事を言うんじゃないわよ!ばーかばーっっ、おぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」
俺はリーダーマーメイドの言葉に反応して一瞬我を忘れたようだ。
気付いた時にはリーダーマーメイドにアイアンクローをして結構強めの電撃を流していた。
「わかった。では近いうちに伺う。」
「お待ちしてます、お願いします。」
手を離して口を開くとリーダーマーメイドが頭を下げて言い、他のマーメイド達も一斉に頭を下げる。
「(最初からこうすればよかったのか・・・)」
思わず突然従順になったリーダーマーメイドを見て溜息を吐きながら岩山から出てフォルナとアイリーンを船に運んでゲーテの町へと帰る。
行きは入り江の中に浮かぶ岩山に向かうだけだったので迷う事なかったし、帰りも砂浜にある巨大イカに向かうだけなので迷う事無くとても楽だ。
砂浜に着き、サミュエルとアランを探すがどこにもいないので巨大イカを捌く漁師に聞くことにする。
「作業中に申し訳ない。サムとアランはどこだ?」
「とんでもありません!御二人は漁師長と一緒に税金泥棒のところに行きましたぜ?」
「わかったありがとう。」
税金泥棒とはロイ太守の事だろう。
船に戻りフォルナとアイリーンを起こして俺達も太守の下に向かう。
「ルドルフ殿・・・申し訳ありませんでした!」
「魔族に魅了されたとは言え斬りかかるなんてぇ・・・ごめんなさい!」
「問題無い。それよりも騎士の命である鎧に傷を付けてすまない。」
太守の館に向かっていると先導していた二人が突然立ち止まり俺に向き直って頭を下げてくる。
だが俺も思っていた以上に巨大イカとの戦闘で疲れていてたようで、二人を眠らせた後の事まで気が回らずに適当に寝かせすぎたと思っていたのでしっかりと頭を下げておく。
「全く問題ありません!むしろ斬りかかった我々を安全に無力化してくださった上に治療までして頂いて感謝しかありません!」
「そうですよぅ!返り討ちにされてても文句は言えません!」
「それならばよかった。ならさっさと解決してお前らが受けた任務を解決するとしよう。」
俺の言葉にフォルナとアイリーンが顔を見合わせてから無言で振り返って太守の館へと進み始めるので俺も黙って付いて行く。
何度も言うが俺も馬鹿では無いのだ。
このゲーテの町よりもライネン~王都間で行きやすい港町はいくつもある中ここを選んだと言う事はギルドでクラーケン討伐の依頼を見つけたとかそんな所だろう。
二人も国か騎士団かはわからないが上に言われての行動なのはわかっているので咎めるつもりは一切無いのだが、先導する二人はなぜか俺をときおりチラリと振り向いたりしながらビクビクした様子だ。
「これはこれは!皆様今お話の最中ですよ?」
「すまんなジェフ。案内してくれるか?」
「ホッホッホッ勿論でございます。」
太守の館に着き玄関をノックするとジェフが出迎えてくれるので、そのまま数時間ぶりのジェフの案内でみんなの下へと館を進む。
「では漁師長?この項目を徹底させるでいいですか?」
「勿論でさぁ!」
「ではロイ太守?この注意を周知させてくれますか?」
「勿論です!殿下骨を折って頂いて本当にありがとうございます!」
部屋に入ると会議も大詰めのようで、司会進行役であろうサミュエルが会議を締めくくろうとしていた。
「ルドルフお帰り?どうだった?」
部屋に入るとアランが俺達の存在に気付いて声をかけると即座に部屋の中の全員の視線が俺に集まるので立ったまま説明することにする。
「んむ。マーメイド達は酒が欲しいそうだ。魔魚との物々交換を提案したのだが価値がわからんので話が進まなくてな・・・太守達で話を進めて欲しい。」
俺は人間と魔族の関係性などはよくわかってないので出来る限り簡潔に言うと、ロイが漁師長に向き直って神妙な面持ちで口を開く。
「私が海神様とお話しですか・・・ガッス一緒に行ってもらえるか?」
「俺ですか?俺なんかが海神様と?」
どうでもいい事だが漁師長の名前がガッスと言うらしい。
ロイの言葉にガッスも神妙な顔付きになって答える。
「それで?僕が行っても問題なさそうですか?マーメイドには会えますか?」
「多分・・・おそらく・・・大丈夫だ。」
「何?何でそんなに含みを入れるの?」
太守と漁師長が話し込み始めたと思ったら、今度は目を輝かせたサミュエルが聞いてくる。
あのマーメイドの事なので何が起こるかわからない、はっきりと言い切ることが出来ない。
アランが護衛の心配をしているのだろう訝しげな目を向けてくる。
「なんと言うか・・・思い込みの激しい魔族でな?何が起こるか予測が出来んのだ。今回の騒動も勘違いで始まったようだ・・・あ。攫われたと騒いでいたマーメイドも太守の願いを聞き入れて入り江の外に魚を集めに出てただけだったぞ。」
「それは・・・なんとも言い難いですね。」
「やっぱり魔族って馬鹿が多いわね。」
俺の言葉にサミュエルが言いよどみ、アランはストレートな言葉で心の声を表現する。
「まぁ色々あったが今は話すと言っているので大丈夫だと思うが心配でな。」
俺がフォルナとアイリーンを眠らせた時に岩壁に擦って出来た鎧の傷を見ながら言うと、サミュエルとアランは何かを悟って深く静かに頷き始める。
「という訳で船は四人が限界だろうから俺はイカを捌いたり自由にさせてもらう。フォルナとアイリーンも疲れたろうから自由行動だ。」
「かしこまりました!」
「はぁいっ!」
フォルナとアイリーンが俺の言葉に嬉しそうに敬礼をする。
俺はそれを見てしっかりと頷いて大急ぎで館を後にする。
「サミュエル?ルドルフが逃げるなんて、あたし心配なんだけど?」
「あんなに嫌がるのは珍しいですよね・・・」
アランとサミュエルが俺の行動を見てコソコソと話している。
副リーダーがしっかり者っぽかったので、おそらく戦闘にはならないだろうと信じているが、あのマーメイドと話していると頭の血管が切れそうになるので絶対にごめんなのだ。
一度も振り返ること無くさっさと館を後にしてゲーテの町を歩く。
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