第百話 活け締めの準備、そして調査
「もう一回だ!」
「何戦するんだ・・・お願いだ。もう寝かしてくれ・・・」
諦めの悪いサミュエルが本日何回目かも忘れた「もう一回」を言うので思わず泣き言が口から出る。
今日の戦闘では久々に刀が汚れたので研いだりとメンテナンスを行いながら勝負をしていたのだが、あまりにしつこいのでかなり念入りにメンテナンスを行ってもうやることがなくなってしまった。
「ちっ!疲れたルドルフ相手に七連敗とは情けない!」
「そんな事ない。俺も油断出来なくなってきたぞ。じゃあおやすみ。」
どうやら今日は七戦したようだ。
本当にサミュエルは腕を上げているので四枚落ちで勝負しているが、気を抜ないので本当に疲れた。
サミュエルが変な事を言い出す前にいそいそと布団に入って眠るべく一方的に言う。
「鍛錬をしなくていいのかい?」
「お前がもう一戦と言う前に寝る方が重要だ。」
「もう言わないから一緒に鍛錬をして寝よう?」
「わかった。」
眠たそうなサミュエルとベッドの傍らに二人で並んで座禅を組んで鍛錬を行ってから布団に入って寝入る。
「おはようございます!朝食の準備が出来てますので表で待っています!」
「わかった。ありがとう。」
フォルナのノックと声で目を覚ます。
時間を知ると睡魔にやられそうな気がしたのであえて時計を見ないようにしていたがやはり昨日サミュエルの将棋に付き合いすぎてかなり夜更かしをしていたようで寝た気がしない。
隣のベッドで寝るサミュエルも同じようで布団が動く気配が無いのでとりあえず揺すって起こす。
「ん?朝かい?」
「そうだ。朝食を用意してくれてるらしいぞ。」
「わかったよ。」
サミュエルがのそのそと布団から這い出てきて服を着替え始めるので、俺も一緒に寝間着から普段着へと着替えを開始する。
「ルドルフ?今度その刀(今まで日本という言葉が出ていない)を振らしてもらえないか?」
「ん?いつでもいいぞ?」
「やった!言ってみるもんだね!」
突然サミュエルが着替えながら言って来るので二つ返事で了承をするとガッツポーズをして答える。
「(剣とそんなに変わらないのに何がそんなに嬉しいんだ?)」
不思議に思いながらも着替えを終えてサミュエルと一緒に部屋を出て食堂に行く。
「あれ?フォルナさん達がいないですね?」
「そうだな?宿を出ていなければ部屋を訪ねてみるか。」
部屋の中以外ではしっかりと敬語のサミュエルが食堂の中を眺めながら言う。
俺も一緒に見るがフォルナ達の姿は見えないのでとりあえず食堂を出ようと振り返りながら話す。
よくよく思い出せばフォルナは表で待っていると言っていた様な気もする。
表に出るとフォルナ達が待っていて俺とサミュエルを見るなりフォルナとアイリーンが振り向いて町を歩いて行く。
「アラン?どういう事だ?」
「なんでも昨日の砂浜で漁師達が昨日の残りのカニを使って朝食を作ってくれてるらしいよ?」
「カニは・・・昨日でしばらく食べなくてもいいくらいに食べたが・・・」
「普通の人は保存のきかないカニはさっさと食べないとですからね?」
アランの言葉にこれから自分に起きる事を考えて思わず溜息が出る。
隣を歩くサミュエルも同じ気持ちなのだろう、少し節目がちになっている。
「英雄様お待ちしておりました!」
「おい!英雄様が見えられたぞ!」
砂浜に行くと大勢の町人料理をしていて、俺の到着と共に更に忙しなく動き始める。
「すまんが朝っぱらから昨日みたいに出されても食えんぞ。」
「わかってる。僕が話してくる・・・と言ってももう作っているだろうから昼食になるだけだろうけどね?」
俺が思わず心の声を漏らすとサミュエルが町人達の下へと走って行く。
「そうねぇ?昔はこの町を観光地にしようと奮闘してて各地に宣伝に行ったりして頑張ってるいい太守だったんだけどねぇ?」
「そうそう!観光地化に成功した途端に観光客とのトラブルはあたしらに押し付けてさ?自分は優雅に馬車旅と来たもんだ!」
「あの頑張ってた頃は屋敷も建て直さずに町のために頑張ってくれてると思ってたけど、今思うとただ家を建て直す金が惜しかったシミッタレだったんだねぇ・・・」
軽い気持ちで配膳をしてくれる御婦人達に太守の事を尋ねると次から次へと愚痴が溢れて止まらなくなる。
「金に困って海神様を捕らえようとしたって?」
「そうよ!大きな声じゃ言えないけどあたしの旦那が海神様がクラーケンを放っているのを見たんだよ!そんで旦那に気付いた海神様が「うちの住処を荒らされたから仕返しに人間の住処も荒らしてやる!」って言われたんですって!」
「そうそう!それでね住処を荒らされたってのがね?そのちょっと前に太守がね?夜に一人で海神様の祠に向かって船を漕いでるのを見たって人がいんのよっ!」
「(これからは情報収集は町のおば、ご婦人方に聞けばすぐに終わるんじゃないのか?)」
そう思ってしまう程にすらすらと情報が出て来る。
フォルナとアイリーンも初耳の情報があったのだったのだろう。
驚きの表情で女性達の話を聞いている。
「ルドルフ殿?僕は立場上是非ともロイ太守の話しを聞きたいのですが?」
「わかったさっさと終わらせよう。」
サミュエルが小声で言って来る。
表情は幻影魔法によって変えられているのでわからないが声だけでとても真剣なのがよくわかる。
「フォルナ?アイリーン?頼んでいた銛はどうだった?」
「見てもらった方が早いと思いまして漁師達が用意してくれているはずです。」
フォルナ達もしっかりと働いてくれていてとても助かる。
早く確認した気持ちもあるがまずは用意してもらった料理を頂くのが先だ。
「なら食事が終わったら見させて貰おう。」
「そうねっ!じゃあ頂きぃ!」
俺の言葉を聞いたアランがウキウキと料理を食べ始め、騒がしく食事が始まる。
「御馳走様でした。ではフォルナ頼む。」
「御馳走様でした!かしこまりました!」
食べ終わった皿を下げてくれる女性達にしっかりとお礼の言葉をかけてフォルナとアイリーンに案内で砂浜の掘っ立て小屋に入る。
中では昨日色々とアドバイスをくれた漁師長が銛を研いでいた。
「英雄様!銛を御所望って事だが・・・これが村で一番大きい銛だ!」
そう言って漁師長が研いでいた銛を自慢げに掲げる。
立てると俺よりも背が高く確かに大きい銛なのだが太さが少し物足りない。
「これより太い銛はないか?」
「これより太くしたら重くなりすぎらぁ!何より魚に刺さんねぇ!」
「なるほど。納得だ。」
言われてみればそのとおりだ。
これ以上太くしてしまえば魚の鱗に弾かれてしまうだろう。
そもそもそんな銛で狩る魚となると人間の力では到底無理な話だ。
「折角用意してもらってすまんが使えんな。」
「そうか残念だ・・・これ以上太いってなったら槍じゃ駄目なのか?」
「槍だと取っ手が木だろう?俺が探してるのは総鉄製の尖った物だ。」
漁師長が提案をしてくれるが俺が探しているのは出来れば直径十センチはある鉄製の棒なのだ。
刺さりやすいように先が尖っていれば理想的だ。
「ふむ・・・銛でなくてもいいのですか?いくつくらいいりますか?」
「ん?先輩あれですか?ちなみに重さ制限も無しですかぁ?」
「んむ。クラーケンに刺すための武器を探してるんだ。数は・・・クラーケンを仕留められる数だ。重さはそこまで気にしない。」
「では心当たりがあるので昼までに用意しておきます。」
「騎士団支部ですね?ありますかねぇ?」
フォルナとアイリーンは心当たりがあるようで二人で話しながら掘っ立て小屋を出て行く。
「ならロイ太守に話を聞きに行くかな。」
「あんなやつの話を聞くんですかい?」
「今回の事の顛末を聞かないと駄目だろう?」
「ケッ!あんなよそ者を呼び込んで満足する奴の話なんて聞くだけ無駄ですよ!」
「(本当に嫌われてるんだな・・・)」
漁師長の意見も聞けたので掘っ立て小屋を出てサミュエルとアランと合流して太守の館へと向かう。
「ねぇ?フォルナとアイリーンは?」
「今はクラーケンを活け締めにするための道具を確保しに言ってくれている。」
「ほう?どうやって仕留めるのか楽しみですね?」
アランが気にするので答えると、サミュエルが声を弾ませる。
ただ一つ仕留めると活け締めは違うと言っておきたい。
隣を歩くサミュエルに顔を向けると反対側を並んで歩くアランの声が聞こえる。
「着いた!」
「聞いていたけどボ・・・趣のある館ですね?」
「ゴーストでも出てきそうな館だな。」
「ルドルフ?もう少し歯に絹を着せなさい?」
「そうですよ?」
「そう思わないか?外装ははげ放題。屋根もボロボロで雨漏りしててもおかしくないぞ?」
館の風貌はこの町一番の権力者の館とは思えない外観である。
外壁も屋根もボロボロでかろうじて庭などの草木の手入れが行き届いているのでそう思わないだけで、これで草木が鬱蒼としてたら幽霊屋敷と思うだろう。
「約束も取らずに大丈夫ですかね?」
「どうだろうね?まぁとりあえず言ってみましょ!」
サミュエルが心配そうに言うがアランは気にした様子も無く館の扉をノックする。
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