第九十九話 クラーケン祭
「あ!?英雄様だ!これを食べて下さい!」
「カニのパスタか美味そうだな。」
「美味しいぃー!」
町を歩いている料理をしていた町人が俺を見つけて作った料理をわざわざ渡しに駆け寄って来る。
とても美味しそうだと思いながらありがたく受け取ると隣で同じように受け取ったアランがパスタを頬張って顔を蕩けさせている。
「英雄様だって!?あたしが作ったカニ汁もそっちの嬢ちゃんも!」
「ほう?味噌を使ってるのか?美味そうだ。」
「んー!蟹の出汁が効いてて絶品ね!」
「なら俺の漁師焼きも食べてもらわなくっちゃ!」
「ほう?醤油を付けながら焼いてるのか美味そうだが・・・両手が一杯でな・・・」
「あたしも両手が・・・てかこのままじゃパスタ食べられないね・・・」
町へ行くと色々な蟹料理が作られていて俺を見かけた町人達が次々と自分が作った料理を持ってやってくる。
そんなに一気に来られても俺もアランも腕は二本しかないので受ることが出来なくて困ってしまう。
「はいはいはいはい!皆さんルドルフ殿が困っています!向こうにルドルフ殿の机を用意したのでそちらへお願いします!」
サミュエルの天の声によって料理を持った町人達が一斉にサミュエルが指し示す方向へと歩いて行くので俺達もサミュエルと合流して用意してあると言う机へと向かう町人達の後ろを付いて行く。
「すまん助かった。」
「こうなるのは分かってたから先に準備しておいたよ?」
「本当にサムがいてくれて助かった。」
「いえいえ僕の方こそ普通では体験できない事を体験させてもらえて本当に感謝してますよ?」
「ならよかった・・・で?あれが俺達用の机か?」
「そうですが・・・勝手に机が足されてますね。」
に料理を置いた町人達がはけて行くと、所狭しと料理が並べられた空間が現れる。
サミュエルが足されたと言うが、六人掛けの机を十個は連結しないとこんな大きさにはならないだろう。
「満漢全席は頼んでないぞ?」
「それだけ町人が感謝してるって事よ!気にせず食べましょ!」
「そうですね。町人にはルドルフ殿は口下手と伝えてますので誰も無理に話しかけてこないと思いますのでゆっくり食べましょう!」
本当にサミュエルは気の利く人間だ。
俺と同じ歳とは思えない気遣いに感心しながら席に座って三人で仲良く食事を始める。
「ルドルフ殿こちらがクラーケンの討伐報酬です。」
「結構な額ですよぅ?」
フォルナとアイリーンがやってきて少しづつあき始めた机のスペースの上に皮袋を置く。
姿を見ないと思ったら太守を送ってから冒険者ギルドに行ってくれていたようだ。
本当に俺の周りには優秀な人間が多くて助かる。
「ありがとう。俺が作ったものじゃないがニ人も腹が減っているだろう?」
「では失礼します!」
「わーい!お腹ぺっこぺこですよぅ!」
皮袋をマジックバッグに入れながら二人に料理を勧めると、二人はどこからともなく椅子を持ってきて机の上の料理を食べ始める。
町人達が折角作ってくれた物なので残すのは忍びないが時忘れのマジックバッグは先程蟹で満杯にしてしまったし、三人では食べ切れないと思っていたので大助かりだ。
「それで?この町の状況を教えてくれるか?食べながらでいいぞ。」
「は!色々な話を総合して話すので少々主観が入っているかもしれませんが。この町の太守殿が金に困って入り江の中央に住むという海神を捕まえようとした所、海神の怒りを買いクラーケンが発生したそうです!」
「入り江の中央には祠があってぇ。そこには海神様が住んでいて、入り江に凶悪な魔物が入ってこないようにしてくれてるそうですよぅ?」
フォルナとアイリーンが料理を食べながら説明をしてくれる。
どうやらロイ太守という人物は碌でもない人物のようだ。
「それを説明しようとルドルフ殿を探していたら騒いでいたので駆けつけるとクラーケンを料理していたのです。」
「でもでも!クラーケンは後イカ型がいるそうです!」
「ふむ・・・もうマジックバッグは一杯なのだが退治しなければならないのだろうな・・・」
とは言え折角狩るのだったらマジックバッグの空きを作りたい所だ。
「いや・・・まぁルドルフ殿だからな・・・」
「そうですよ先輩!この蟹の卵料理絶品ですよぅ?食べましょう?」
フォルナが何かを言いかけてグッと言葉を飲み込みアイリーンは何を言いかけたのか理解できているようで首を横に振りながら蟹料理を差し出している。
「そうだな。我々は事後処理をするだけだな。」
「意味がわからんのだが?」
「二人の代弁をするとマジックバッグの問題では無い!って事ですよ?」
「そうそう!クラーケン退治は私でも骨が折れるしやりたくないよね。」
アイリーンと食事を再開するフォルナを見て思わず呟くと呆れた表情のサミュエルとアランが教えてくれる。
どうやらフォルナとアイリーンは俺がマジックバッグに入らない心配をしていた事に対して、そっちの心配よりも・・・と言いたかったのだろう。
「一番大きい鉄製の銛はどれくらいの大きさか漁師に聞いておいて貰えるか?」
イカの活け締め方法も知っている。
胴体と眉間をキリなどで何度も刺すはずだ。
とは言えどれ程の大きさかはわからないが巨大毛蟹のサイズを考えると俺の剣ではイカの神経を断つには長さは勿論のこと、太さも心許無い。
「かしこまりました!」
「では早速行ってきますぅ!」
早々に食事を終えたフォルナとアイリーンが文字通りにお祭り騒ぎとなっているゲーテの町を走って行く。
「さて。俺も宿に戻って明日の準備をしよう。」
「準備!?是非拝見したです!漁師長に一声しないと駄目なので少々お待ちを!」
「あ!あたしも漁師長に用事があるの!」
俺が立ち上がるとアランとサミュエルが大急ぎで漁師長を探しに駆けて行く。
「お待たせしました!」
「蟹の後始末は町人達がやってくれるって!」
「わかった。本当に助かる。」
「じゃあ宿に行こっか!」
鼻息を荒くしたサミュエルとドヤ顔のアランが帰ってきたのでお礼を言い三人で宿に戻る。
宿に着くと祭りに参加出来ないからか機嫌が悪そうな店員がカウンターに片肘を着いて髪をいじっていた。
「すまない。今日フォルナかルドルフで宿をとっているはずだが?」
「はい!英雄様聞き及んでます!こちらで御座いますです!」
俺が声をかけると店員は一瞬で上気して少々言葉遣いがおかしくなりながら案内してくれる。
「この部屋が英雄様とサム様で隣の部屋がセンセ様の部屋でございますです!では失礼致します。です!」
相変わらず言葉遣いのおかしい店員が案内を終えて百二十度のお辞儀をして離れて行く。
三人で俺とサミュエルのツインルームに入る。
マジックバッグから布を取り出してミノタウロスの肉を包んで行く。
「(二人に説明をしなければならないのだろうな・・・)」
目を輝かせて一挙手一投足を観察する二人を見て思わず溜息を吐く。
「これからミノタウロスに保存魔法をかける。」
「保存魔法?」
「今回は常温で保管する事になるからな。少々大変だが覆った布に時間停止の魔法をかける。」
「待ってくれ!!時間停止なんて時間を操作出来るのかい!?」
サミュエルの食いつきが尋常では無く予想通り面倒臭い反応が返ってきた。
「時間を操作するんじゃない。定義上仕方なく時間停止としているだけで実際は細胞の活性化を無くし、凍らない凍結状態にするんだ。」
「・・・何を言っているんですか?」
アランはなぜか楽しそうに俺の話を聞き、サミュエルは俺の言葉に眉を顰めて言う。
ルルの説明をそのまま言ったが駄目だったようだ。
「知らん。そう教えてもらったが俺も理解出来ていないんだ。」
「結局何属性の魔法なんだ・・・活性化無効?凍結と言う事は氷属性?」
「何属性かは複合魔法だから限定しづらいな。」
サミュエルと話しながら魔力をインクに自分の指を筆にして魔法陣を描く。
魔法陣も円の中に六角形を書いてその中に更に六芒星を描く。
「どれだけの情報を詰め込むんですか・・・王宮魔法師でもこんな魔法陣描けませんよ?」
「もう少しだ。」
「ふむふむ。これは氷魔法か・・・風に水に、火もか!」
魔法陣を見たサミュエルが諦観の笑みを浮かべながら言い、アランはさすがとも言うべきか魔法陣の分析をしているが大正解だ。
そこまでは俺も理解できる。アランもそれ以上はわからないようで魔法陣を睨みつけるばかりで何も言わなくなる。
「アラン先生?時間停止の魔法陣は他に何属性が?」
「・・・全属性だね!それに無属性に・・・ニコ?これって空間魔法?」
「そうだ。次にニコと言ったら今度は海にぶっ飛ばすぞ。」
サミュエルの疑問にアランが答えるが、分析に集中しすぎて口を滑らせるのでしっかりと釘を刺しておく。
「よし描き終えた。」
念のために描いた魔法陣をしっかりと確認して布に転写する。
ルルとエドの合作の魔法陣は俺の理解の範疇を超えているので丸写しが限界で一切手を加えられない。
「でもルドルフ?この魔法陣を発動出来んの?」
「ギリギリ足りる量を設定したつもりだ。本当ならミノタウロス一体分を保存したかったが無理だった。」
「ん?ほとんど一体分だよ?」
アランの疑問に答えると、サミュエルが言う。
ほとんど一体分だが、片足分の肉が入らなかったので丸々一体では無いのだ。
気にせずに魔法陣に魔力を注いで保存魔法をかける。
「これで三ヶ月間痛む心配は無くなった。」
しっかりと保存魔法がかかっているか確認をしてから満足して普通のマジックバッグに放り込む。
これでイカ型のクラーケンを確保できるようになった。
「簡単にしてますけど・・・とんでもないんですよね?」
「そうね。あたしじゃあんな量の魔力を流したら干からびるね。」
「心配するな。俺も九割近くの魔力を使った。さすがに疲れたな・・・」
「・・・とりあえず将棋で勝負しよっか?」
「じゃああたしは部屋に戻ってゆっくりしよぉっと!」
俺の言葉を無視してサミュエルがベッドの上に将棋盤を広げ始め、アランがいそいそと部屋を出て行く。
「さぁ勝負だ!」
「疲れたと言ったのが聞えなかったのか?」
「それならとりあえず疲れたルドルフに一勝だ!」
「サミュエルはそれでいいのか?」
戦略ゲームである将棋の戦法としては正しいのかもしれないが、人としては間違っていると思うので尋ねるのだが、サミュエルは聞こえていないのか勝手に先手で駒を進めてニヤニヤと腕組みをして俺の一手を待つ。
思わず溜息を吐いて駒を進めサミュエルとの勝負が始まる。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




