5/29
水の底
水の底にしては明るい。
意識を失う前の彼女の感想だった。
不思議と苦しくない。穏やかに、緩やかに、眠りにつくように意識が薄れていき、繊維のように解れていく。
そして、水の底で彼女を見た。
遠い国の少女。
彼女は涙を流し、泉に身を投げた。
彼女が何に対して涙を流しているのかは、氷の天使にはわからない。しかし、少女が悲しみに包まれているのは理解できる。
水の中でも彼女は涙を流していた。
(ごめんなさい)
彼女の言葉は泡になり消えたが、氷の天使の耳にはしっかりと聞こえた。
少女の意識はそこで途切れている。
途切れた意識はほつれた糸のように水中を漂っている。ゆらりゆらりと揺蕩う糸に別の糸が吸い寄せられていく。
二つの糸は絡み合い、一本の糸となる。




