目覚め
私の目が覚めると、あまりにも多くのことが起きていた。
ロクデム様の姿はなく、話を聞くと、侵入した賊と相討ちになり亡くなったらしい。
実感のない喪失感。けれども私は、ロクデム様がこの世にいないという事実だけはなぜか納得できてしまった。
しばらくの間、私は記憶喪失だったらしい。らしい、というのは、その間の記憶がなかったからだ。記憶喪失中の私は記憶を取り戻すために色々なことをしていたらようだ。
私ではない私。記憶がないので完全に切り離されてしまった。まるで入れ替わっていたように。
ロクデム様の死後、彼が裏で行っていた悪事が明らかになる。彼は外部から賊を雇い、自分の気に入らないものを襲わせていたという。さらにその魔の手は孤児院にまで及んでいたらしい。孤児院に被害はなかったが、その非道な行いは国内に雷鳴のように広がった。
ロクデム様の父君は責任を取るために各地に出向き、誠意ある対応をしているとのことだった。記憶を取り戻した私に対しても時間を作り、頭を下げた。あの時の父君の顔は忘れられない。
私の記憶が戻ると、姿を消していた使用人が戻ってきた。この国に来てからずっと自分の面倒を見てくれていたシサヤだった。
「ロクデム様はルーナ様の命を狙っていたんです。もしかしたら、襲ってきたロクデム様を返り討ちにしたのかもしれませんよ」
シサヤは真面目な顔で言った。私自身もその話を心から否定しきれなかった。まさか本当に、記憶のない私がロクデム様の命を奪ったのだろうか。
「もちろん、証拠はありませんし、場内には賊の死体もありました。しかし、ルーナ様がその場にいた可能性はあります。秘密にするよう言われましたが、賊とロクデム様の死体はルーナ様の部屋の近くにあったんです」
「そんな・・・・・・」
シサヤは、過去に馬車で移動中の私を襲った賊が、ロクデムからの依頼書を持っていたと付け加えた。
私は全身の血の気が引いていく感覚に襲われた。たしかにロクデム様は邪魔な私を追い出そうとしていた。それがまさか、命まで狙っていたとは。
言葉にならず、呆然とする私にシサヤは話を続けた。
「私の命も危なかったみたいです。ルーナ様に助けられました」
話によると、記憶喪失中の私はロクデム様の凶行がシサヤにも及ぶかもしれないと考え、避難させていたらしい。
シサヤは記憶喪失中の私と最も時間を過ごしていた。
「お優しい方でしたよ。ちょっと怖い雰囲気でしたけどね」
そう言ってシサヤは少し寂しそうに笑った。
シサヤの他に、私の前に現れた人物がいた。メウである。
私はメウに対して一方的に苦手意識を持っていた。ロクデム様と仲が良く、ロクデム様が私よりメウを優先していたからだ。そして、ロクデム様からは身を引くように半ば強引に指示をされた。
「あなたに頼まれたの。あなたが起きたら支えてあげてほしいって」
メウはそう言うと、「おかしな話よね」と笑った。
メウは優しく、すぐに仲良くなれた。ロクデム様がいなくなり、その悪事が暴かれた今、その婚約者だった私は、被害者とはいえ居場所がなかった。そんな私の面倒をメウは見てくれた。
「メウ。私、あの頃はね。ロクデム様を取られてしまうんじゃないかと不安で、あなたのことを見ようともしなかった。だから、私、メウにこんなによくしてもらってはいけないの」
耐えきれなくなった私がメウにそう言うと、メウは優しく私の手を取った。
「私もロクデム様が言う内容を信じて、ルーナを悪い女だと思ってた。だからお互い様。今はただの友達でしょ」
「ありがとう、メウ」
「お礼ならもう一人のあなたに言って。いつか会えたらね」
メウはそう言って笑った。




