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氷の天使

「良い夜ね」


 前方から声がする。顔を上げると、少女が立っていた。


「ルーナ……?」


 少女は一歩ずつロクデムに近付く。窓の前を通った時に月明かりが彼女の顔を照らした。


「あなたには勿体ないくらい」


 ルーナは穏やかな顔をしていた。しかし、今まで共に生きてきて一度も見たことのない表情だった。


 まるでルーナの顔をした別人のようだ。


「だ、誰だお前は……」

「お戯れを。私はあなたの愛しいルーナでございます」


 ルーナはゆっくりと近付いてくる。

 ロクデムは一定の距離を取ろうとするが、足が動かなかった。

 ルーナの手元が月明かりで反射する。

 

 刃物だ。

 

 刃物を持っている。


「はっ……はっ……」

 ロクデムは息を漏らす。

 口の中が乾く。呼吸がうまくできない。殺される。ルーナを僕を殺すつもりだ。

 逃げろ、なぜ足が動かない。

 動け、動いてくれ。



「ルーナはあなたを愛していました。なので、せめて天使の加護がありますように」


 ルーナが目の前に立つ。


「ごきげんよう」



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