ロクデム
ロクデムは静かな廊下を歩く。
ルーナは記憶が戻ったんじゃないか?
なら、さっさと消えてもらわなければならない。
だが、せっかくの誘いだ。
今夜くらいは相手をしてやってもいい。
邪魔者を追い払い、メウと結ばれるはずだった。しかし、記憶喪失のルーナの相手をしていたせいでメウに「今は距離を取りましょう」と言われてしまった。すぐにルーナを追い出さなければ、メウに愛想を尽かされてしまう。
メウは可愛いし、メウの両親はメウ以上に自分との婚約に乗り気だった。正式に婚約が決まれば、個人的な援助をしてもらえるという。
ルーナから乗り換えるのは手間だが、その労力に見合う利益がある。
その為には何としてもルーナから身を引いてもらわなければならない。ルーナを気に入っている父に非難されるのでこちらから解消するわけにはいかない。
ルーナから別れを切り出すように頼んだが、彼女の表情からそれは難しいと理解した。ルーナを自然に始末するよう依頼をした。一度眠れば目を覚まさない強力な呪いを使うとのことだった。呪いを確かにするために自分も関わらなければならないのは面倒だったが、それでも早く彼女には消えてほしかった。
ルーナが泉に落ちたと聞いた時、すべて上手くいったと思ったが、ルーナは何故か目を覚ました。責任を取ると言った呪い師はその後現れなくなった。
そのせいで孤児院の子供の面倒まで見させられ、無駄で無利益な時間を過ごした。腹いせに孤児院を襲わせた。世取った奴らは森の狼に襲われて死んだらしいが、あの施設の奴らが少しでも怖い思いをしたのなら成功だ。
思えば、うまくいったのはそれくらいだった。
今日に至っては賊に依頼し、殺して良い契約で襲わせたにもかかわらず、ルーナが無事で戻ってきたときは頭が痛かった。
念のために雇っておいた別の組織に連絡を取り、今夜、ルーナを襲わせる。
ロクデムの視線の先にはルーナの部屋。
部屋の前には、雇った野盗係が待機している。
諸々が済んだ後、そいつの好きにさせる予定だ。
金品狙いの野盗に襲われ、心身共に傷付いたルーナは婚約を正式に破棄し、修道院へ入る。
あの時、さっさと目の前から消えればこんな目に遭わずに済んだのだ。
ロクデムは野盗係に近付く。野盗は腕を組んでルーナの部屋横の壁に寄りかかっている。
「おい、もっと上手く隠れていろよ」
ロクデムは野盗の肩を叩く。
返事はない。
「おい、無視か? 報酬がいらなくなったのか?」
ロクデムは野盗の肩を掴み揺らした。
ずるり。
野盗は壁に寄り掛かったままずるずるとしゃがみ込む。
「おい、酔っ払っている……の……か?」
野盗に触れた手が濡れている。月明かりに照らすと、それは血だった。
野盗に目をやる。男は首を掻き切られ、血塗れで息をしていなかった。
「ひっ」
ロクデムは後退る。
誰かを呼ばなければ。
しかし、今この状況をどう説明する。
どうすればいい。




