訪問3
「そうね。じゃあ、遊びましょうか」
ルーナは子供たちを集めて声を掛ける。
「条件を付けましょう。私は目を閉じて追いかけますから音を立てないように頑張ってくださいね」
ルーナは微笑むと目を閉じた。
「では、始めましょう」
ルーナは手を叩く、その一瞬に殺気を添えて。
「はは、ルーナ。子供たちを甘く見すぎだよ。僕だってあんなに苦戦したんだ」
ロクデムは笑うが、子供たちは弾かれたように逃げ出した。誰一人笑っておらず、逃げることに必死だった。
「行きますよー」
ルーナはゆっくり歩き始める。
チャンヤはこの遊びに自信があった。チャンヤはこの施設では、年齢は二番目だが身長は誰よりも高かった。子供ながらに力仕事の多くを担い、下の子供達の面倒を見ていた。
加えて、施設の裏手の林は知り尽くしているので迷子になった子供は必ず見つけられる。
いくら相手が運動ができても、負けるわけがない。ましてや、目を閉じたままの相手に負けるはずがない。
チャンヤはそう思っていた。
「速いね。体力もある」
「じゃあっ、捕まえて、見ろよ!」
チャンヤは振り返らずに叫んだ。
「ほんとに?」
全力で走っているのに真後ろから声を掛けられる。なのに自分の足音しか聞こえない。まるで宙に浮いたルーナが追いかけているようだった。
チャンヤの中でも、ルーナは身体能力が高いという評価だった。過去の対戦では地の利や立ち回りで翻弄して来た。初めの頃は負けていたが、最近では良い勝負ができていた。今日こそは勝つつもりでいた。
「もう捕まえちゃっていいの?」
チャンヤは身震いする。背筋に朝の川水を浴びせられたような寒気が広がる。
「じゃあ、捕まえようかな」
ルーナの声が耳元で聞こえる。チャンヤは勢い良く踏み込み加速する。今日こそは逃げ切ってやる。
「あっ」
速く動かそうとした足が空回り、バランスを崩した。チャンヤの視界が回転する。興奮した脳はその光景をゆっくりと瞳に映し出した。
回る視界、静かに進む時間、近づく地面。
転んだら痛いだろうな。チャンヤはそんなことを考えながら目を閉じる。
しかし、痛みはいつまでもやってこなかった。チャンヤがゆっくりと目を開けると、自分の体を支える、目を閉じたままのルーナの顔が見える。
「大丈夫?」
「う、うん」
「私の勝ち。みんなのところに戻りましょう」
「うん……」
「あなたが最後の一人。一番強かったわ」
「! だろ!」
その後も、数回追いかけっこをしたが、どれだけルーナに不利な条件を付けても子供たちは勝てなかった。




