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訪問4

ルーナが子供たちと休憩をしていると、一人の女性が現れる。子供の一人が「おかえり! せんせい!」と元気な声を掛けた。

「彼女がこの施設の院長だ」

 ロクデムが呟く。

 院長と呼ばれた女性は

「ルーナ様に遊んでもらっていたのね」

「うん! でもね! 今日のルーナ超怖かったんだ!」

「怖い?」

 院長は首を傾げる。ルーナは苦笑いを浮かべる。

「本気で遊んでしまいまして・・・・・・すみません」

「いえいえ、全力の方が子供たちも喜びます。ありがとうございます。ルーナ様」

 院長は静かに頭を下げた。

「いえ」

 ルーナは頭を下げ返す。

「記憶喪失について、何度か相談を受けたことがります。少し話しましょうか。こちらへどうぞ」

 ルーナがロクデムとメウを見ると、二人は頷いた。

「お願いします」

「ええ」

 院長は施設内へルーナを招いた。案内された先は院長室だった。といっても、途中に見えた他の部屋と大差はなく、大きな机と複数の椅子、壁一面の本棚があるだけの部屋だった。

「あくまで私が相談を受けた方の話ですので、正解があるわけではありません。身体、または心に強い衝撃を受け、一時的に記憶を失ってしまう件や、頭を酷く損傷し、文字通り欠けてしまっている方などがいらっしゃいました」

 院長はルーナに椅子に座るよう促す。ルーナがそれに従うと、机を挟んで自らも座った。

 院長は静かにルーナを見つめていた。ルーナはその視線に居心地の悪さを感じながらも、黙って院長を見つめ返す。

「率直に聞きます。あなたはルーナ様ではありませんね?」

 院長は穏やかな表情のまま言った。

 ルーナは、院長のその目には害意はないと感じた。

「私はルーナではない。けれど、この体はルーナのもの。これで満足?」

 ルーナは院長から目を逸らさずに答えた。

「ええ。十分です。貴女が誰なのかは問題ではないし、それを知れば私の命はない、でしょう?」

 院長はにこりと微笑む。

「そうね。……ルーナの記憶がないのは本当。ただ、ルーナは死んでない。私の中で眠っている」

「泉に落ちてしまったという話は本当なんですね。ではそこであなたがルーナ様の体に入り込んだということですか」

「恐らく。・・・・・・私はルーナが目覚めると信じている」

 ルーナははっきりと言った。そのまっすぐな言葉に、院長は次の言葉を探しているようだった。

「・・・・・・あなたは、ルーナ様とは知り合いなんですか」

「いや。・・・・・・けれど、前に世話になったことがあったの。だからその恩返しがしたくて。あそこで私が手を伸ばさなければ、ルーナは深い水の底ので死んでいたと思う」

「そうかもしれませんね」

 院長は少し間を置いた後、再び口を開く。

「ルーナ様を助けたいですか?」

「もちろん」

「私の話を信じますか?」

「話による」

「私は呪いを扱う家系の生まれなんです。だから、わかるんです。ルーナ様には呪いが掛けられている」

「呪い?」

 ルーナはあの男を思い出しながらも、わざと首を傾げた。

「おそらくは微睡の呪いに近い……相手を昏睡状態にさせる類のものです。本来ならばルーナ様は眠り続けていたでしょう。しかし、そこにあなたが入り込んだ」

「なるほどね。私がルーナじゃないと気付いたのは、ルーナであるはずがないからってこと」

「ええ」

「呪いを解く方法は知ってるの?」

 ルーナがきくと院長は肩をすくめた。ルーナが呪いを知った上で質問していることを理解しているようだった。

「呪いをかけた者を殺すことです」

「一番得意な方法だ」

「……まあ、そこは聞かなかったことにします」

「でも、少し違う。呪いをかけた者はもういない」

「……。そうなんですか? では……ルーナ様に近しい者が呪いの源の可能性があります。呪いの中には、継続的に効果を与えるために、対象の近くの者を呪いの震源地にするものがあります」

「当たり。じゃあ、あれは嘘ついてなかったんだね。よかった」

「……何も聞きませんよ、私は」

「その震源地……、あれは媒体と言っていたけど、それを確定させる術はある? 貴女が横にいてくれればわかる?」

「相手を探すのならば、これを使ってください」

 院長は机の引き出しから指輪を取り出した。

「それは?」

「呪いを与えている相手が近づいた時、その指輪が光ります」

「便利ね」

「元は呪い返しの宝石なんです。もう呪いを返す力はほとんど残っていませんが、あなたが装着することで呪いを覚えさせ、呪いを与えている相手を知らせることはできます」

「十分ね」

「聞き出しているのでは?」

「確証はないから」

「・・・・・・相手が誰だったか、どうしたのか。その報告はいりません。私はただ、ルーナ様が目覚めるのを願っています」

「ありがとう」

「いえ。ルーナ様にはお世話になっていますので」

 院長は微笑み、言葉を続けた。

「ルーナ様とはどんな風に?」

「怪我をした私を手当てしてくれた、それだけ。ルーナはきっと覚えていない。あの子はどんな時でも誰であっても、手を差し伸べる。けど、だからこそ、私はここにいる」

 ルーナが言うと、院長は微笑んだまま頷いた。

「ルーナ様を助けてくれてありがとうございます。本人がどう思っているかはわかりませんが、目覚めがあるのならば、光を見ることをできますから」

「そうだね。ルーナが起きたら、その時はよろしく」

「わかりました」

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