訪問2
孤児院が近付くと、馬車の中で寝ていたロクデムが目を覚まし、口を開いた。
「さあ、そろそろだ」
彼が言うには、ルーナは孤児院の子供たちと仲が良かったらしい。
孤児院に着くとすぐに、子供たちがルーナを囲み声を掛ける。ルーナは、子供たちに事情を説明するが、子供たちはすでに施設の院長から説明を受けていた。
「ルーナお姉ちゃん。キオクソウシツって何?」
「自分が誰か、わからなくなっちゃったの。みんなのことも忘れちゃった、ごめんね」
「でも、先生はその内治るって言ってたよ、そうだよね」
「うん。だから、いつも私がここで皆と何をしてるか教えてほしいの」
「いいよ! 先生がもう少しで帰ってくるからそれまで遊ぼう!」
「まずはね、追いかけっこしよう!」
「しよう! ルーナは足が速いんだよ!」
「ルーナお姉ちゃんが来るといつもやるんだ」
「そうなの? じゃあ、私が捕まえればいいかな?」
「うん!」
子供たちが準備を始めていると、一人の女の子が少し離れた場所に座る男の子に声を掛ける。
「ねえ、ラウドくん。ラウドくんもやろうよ」
ラウドと呼ばれた少年は目を閉じて首を振る。
「オレはいい」
「あの子はね、ラウドくん! 最近ここへ来たんだ。ルーナお姉ちゃんとは、はじめまして! だよ」
少女に言われたルーナはラウドに近付く。
「はじめまして。ルーナです。まあ、記憶がないんだけどね」
「はやくそいつらと遊んでやってくれ」
「ラウド、お前、ルーナに負けるのが怖いんだろ!」
男子の一人が笑う。
「あ?」
ラウドはその男子を睨み付ける。
「ルーナだったらお前なんかすぐ捕まっちまうよ」
「勝手に言ってろ」
「おい、王子、お前もやれよ!」
少年の一人がロクデムに声を掛ける。
「もちろん! すぐに捕まえて見せるよ」
「ロクデム様、大丈夫ですか?」
ルーナが声を掛けると、ロクデムは微笑んだ。
「ルーナ。まあ、見ててくれ。僕がすぐに終わらせてみせる」
子供たちの動きはかなり良かった。子供の機動力を活かした動きはロクデムを翻弄する。
最初は笑っていたロクデムだったが、次第に笑顔が消え、その顔には汗が滲んでいった。
ロクデムは一人も捕まえることができずに降参した。
「子供は・・・・・・元気だね・・・・・・」
ロクデムは息を切らしながら歪んだ笑顔と脂汗を顔に浮かべた。
「ロクデム様、大丈夫ですか? あとはルーナに任せてあちらで休みましょう? ね?」
メウはロクデムの腕を掴むとそのまま歩き出した。
「いや、その」
ロクデムはルーナの顔を見て何か言いたげな顔を浮かべるが、足並みはメウと揃っていた。
「ロクデム様。あとは私に任せて少し休んでいてください」
ルーナが言うと、ロクデムはほっとした顔をしながら頷き、メウとともに近くの木の根に腰掛けた。
「ルーナお姉ちゃん、速く遊ぼうよ!」
ルーナはここ数日で、この体でできることを試していた。以前の肉体での感覚で動いてはルーナの体を傷つけてしまうかもしれないと考えていたからだ。
しかし、ルーナの体は想像以上によく動いた。使用人の話では、体を動かすのは好きだったらしい。また、舞踊の練習を欠かさなかったらしく、しなやかな動きは前の肉体以上だった。
ここなら周りにいる人間も限られている。少し、試してみようか。




