訪問1
ルーナはロクデムとメウとともに簡単な旅支度をしていた。
日記の内容や周囲の話から、ルーナは定期的にある孤児院に顔を出していたようだった。
記憶を戻すきっかけになるかもしれない。そう勧められたルーナは孤児院に向かうことにした。一人で行くつもりだったが、話を聞いたロクデム(と、なぜかメウ)が同行を申し出た。
もしも、ロクデムと二人きりなら、呪いを解くことができたかもしれない。そう考えていたが、あの男の言葉が本当かはわからない。ロクデムを始末してもルーナが目覚めなければ意味がない。もう少し調べまわった方がいい。
「三人で孤児院に行くらしいね」
支度をしていると、ロクデムの父が声を掛けてきた。
「父上! はい、ルーナの記憶を取り戻すきっかけになればと考えています」
「そうだな。そして、これを機に施設の子供たちともふれ合ってくるといい。お前はもっと多くのことを広く、深く知るべきだ」
「はい、頑張ります」
ロクデムは頭を下げる。ルーナには彼が緊張しているのが感じ取れた。実父であっても、立場が遠ければ緊張するのだろうか。ルーナは漠然とそんなことを考えていた。
だが、たしかに。と、ルーナはロクデムの父を見つめる。
この男、隙がない。さすが一国の主、かなりの戦闘力があると見える。ロクデムなど、目を瞑っていても殺せるだろう。にも関わらず、こちらに一切、隙を見せていない。警戒しているわけではなく、その状態が彼の普通なのだと理解する。
この男をやれと言われたら、さすがの自分でも難しいかもしれない。
「お前は外を知らなすぎる」
「お言葉ですが父上、僕も毎日勉強していますよ」
父親に非難されたのが気に障ったのか、ロクデムは反抗的な口調で言い返した。
「では聞くが。最近、天使の教団が壊滅したというのは知っているかな。これは国政に関わる者なら誰でも知ってる大事件だ」
ロクデムの父が三人に問い掛けた。
「えっと、その……ははは」
ロクデムは頭を掻いて笑って誤魔化した。
「ルーナは知ってる?」
メウがルーナに話を振る。ルーナはメウを見つめたが、どうやら、自分にわからない話題を適当にこちらに振っただけのようだ。
「自らを天使と名乗り、彼らの信じる神に従い様々な仕事をする集団です。主な仕事は暗殺だとも言われていますね。先の事件は、教団を利用した大国が関係性が露見するのを恐れて襲撃したとか」
ルーナは当たり障りのない情報のみ話した。実際は複雑な政治的戦略が絡んでいるが、そこまで説明してしまっては当事者だと思われかねない。
「さすがルーナだ。突如明るみに出た大規模な暗殺集団の存在に、どの国も警戒している。壊滅と言ったが……噂によれば、多くの者は逃げ延び、姿を隠していると言うからな」
ロクデムの父は満足げに頷いた。
「さ、さすがルーナ。記憶は戻らないのにそんなことは詳しいのね」
想像と違う展開にメウは悪態をつく。
「そうですね。記憶が戻るように色んな方とお話をしているので」
ルーナは笑顔で応えた後、申し訳なさそうにロクデムの父を見上げた。
「記憶がなかなか戻らず、皆さんにはご迷惑をおかけしています……」
「いいんだ。家族である君が無事でいてくれたことが何より喜ばしい。なあ、ロクデム」
父に肩を叩かれたロクデムは笑顔を見せる。
「ええ、その通りです。時間はいくらかかっても構わないさ、気にすることはないんだよ、ルーナ」
ロクデムの笑顔に、ルーナは微笑み返す。




