来客
夜。誰もが寝静まった頃。ルーナの部屋の扉が静かに開く。足音はなく、影だけが部屋に入り込んだ。
影はルーナの寝台の前に立つと、ナイフを構えた。
「手間を掛けさせやがって」
影はそう言って、ナイフを振り下ろす。
しかし、ナイフを握った腕は動かなかった。
「何?」
振り下ろそうとした腕は手首を掴まれ制止している。
「こんばんは」
影の背後からルーナが声を掛ける。
「貴様・・・・・・」
「どうしましたか? まあ、座ってくださいな」
ルーナは影からローブを剥ぎ取る。
「ちっ」
ローブがなくなると影は消え、若い男が顔を見せる。
ルーナは男の顔をのぞき込むと、そのまま掴んでいた手首をへし折った。
「うぐっ」
「静かに」
ルーナは静かに言うと、手から落ちたナイフを拾い上げる。ナイフは柄に宝石が散りばめられており、輝いていた。
「派手な刃物。何か意味があるんじゃないかしら?」
ルーナは刃を影だった者の首に当てる。
「や、やめてくれ」
「何しにきたのか教えてくれる?」
「わ、わかった」
男は頷きながら、折られなかった手を懐に這わせた。その瞬間、男の肩から鈍い音が響く。
「あがっ」
「余計なこと、しない方がいいよ」
「は、はい・・・・・・」
折られた手首では外された肩を治すこともできず、男は両腕をだらんと垂らしてルーナを見つめた。その目に戦意はなく、怯えながらルーナの言葉を待つだけだった。
「まあ、念のために足も折っておく」
「え?」
男が聞き返すと同時に、ルーナの鋭い蹴りが男の足首を捻った。体勢を崩した男が声を上げる前に、ルーナの手が男の口を塞いだ。
「静かに。もう片足も折られたい?」
男は目に涙を浮かべながら首を振った。
「じゃあ、質問に答えて。なぜ、私を殺そうと? 手を離すけど、静かにね」
「・・・・・・依頼があったから」
「詳しく」
「元々は、お前を、呪いで昏睡させるだけだった。そのための道具も用意したし、確かに効果はあった。なのに・・・・・・」
「私は元気と」
「そうだ。だから、もう一度お前のところへ来た。今度は昏睡なんて生易しい呪いじゃない」
「この装飾まみれのナイフね」
「ああ」
「依頼人は?」
「言えない。そういう契約だ」
「・・・・・・。その昏睡の呪いっていうのは何」
「長い眠りにつく呪いだ。一度掛かれば、二度と目を覚まさない」
「なるほどね」
「呪いは効いているはずだ・・・・・・」
「残念ね」
ルーナはナイフを手の中で弄ぶ。
「その呪いはどうやって解くの?」
ルーナの問いに、男はナイフを一瞥して苦しそうに答えた。
「……対象に近しい者を媒体にしている。それを殺せば、少しずつ呪いは弱まり、目を覚ます。……だが、呪いは効かなかった……」
「誰を殺せばいいの?」
「それは、言えない……」
「それが遺言?」
「…………ロクデム王子」
男は顔いっぱいに汗を浮かべながら言った。
「そう」
ルーナは頷くと、装飾されたナイフを男の腹に突き刺した。
「な、なんで……?」
「お前がルーナを眠らせたんだ。当然だろう」
「く、くそ……!」
ナイフが禍々しい霧を吐き出すと、男の体は突き刺した衣服ごと、ひび割れて砕け散る。そして、黒い霧となって男だった破片は消え去った。
男が消え、床に落ちたナイフも同様に、黒い霧となって消えた。
「一回きりだったか」
ルーナは黒いローブを手に取り、寝台の上に投げた。
「ロクデム……まさか、そこまでとはね」
ルーナは胸に手を当てる。心臓が優しく動いている。
大丈夫、この体があれば、貴女はまた目覚めることができる。




