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おせっかい令嬢のお見合いデスゲーム  作者: 柊原 ゆず


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第3話 恥を捨てて叫べ!


 二組それぞれから供給される尊さに悶絶する紬希。

 ……ふう、落ち着くのよ久遠紬希。これ以上摂取したら心臓がもたないわ。第一ゲームはクリアとしましょう。

 紬希は深呼吸をしてモニタールームのデスクに座り直すと、再びマイクのスイッチを入れた。ボイスチェンジャーを通して、極寒の部屋に狐面の不気味な声が響き渡る。


『クックック……毛布の温もりを存分に堪能したようだな。部屋の温度を元に戻してやろう』


 シューッという音と共に空調が止まり、部屋に暖かな空気が戻ってくる。

 良かった……っ!もう離れても大丈夫ね!

 室温が上がったことで芽依はサッと伊織から距離を取った。

 あぁ……僕の天国が……!

 と、伊織は心底残念に思いつつも、腕の中に僅かに残るぬくもりと甘い香りの余韻にひっそりと浸っていた。

 もう一方の部屋では、突然の理不尽な状況に振り回されただ呆気にとられている美月と琉生がいた。


「え……これ、だけ……?」


 美月が唖然と呟く。琉生は我に返り、天井のスピーカーに向かって声を荒げていた。

 

「おい!何なんだよこれは?!ただ布団にくるまって終わりって何考えてるんだ!?」

「ちょ、琉生落ち着いて……!何か裏があるかもしれないわ!」


 美月が慌てて怒る琉生の腕を掴み、宥めようとする。デスゲームと呼ぶにはあまりにも拍子抜けな内容。しかし、スピーカーからの声は不気味なほどの底冷えを含んで彼らを牽制した。


『いいのか? これ以上冷やして凍死させてもいいんだぞ』

「「「っ……!」」」

静かな、しかし確かな脅しに、芽依、琉生、美月の三人は思わず息をのむ。

モニター越しに彼らが言葉を詰まらせる様子を眺めながら、主催者である久遠紬希は、狐面の奥で満足げに口元を吊り上げるのだった。


『では、次のゲームをしよう』


 彼らの目の前にある頑丈な鉄の扉の横で、小さなモニターが青白く光った。


『その部屋から脱出したければ、目の前の扉を開けることだ。ただし!その扉は【呪いのロック】がかかっている!』

『ロックの解除方法はただ一つ。扉の前に立ち、お互いの【好きなところ】を3つずつ、大声で言い合うことだ!!』

「「「「はぁ!?」」」」


 二つの部屋で、同時に参加者たちの声がハモった。


『制限時間は10分。さあ、恥を捨てて愛を叫べ!はーっはっはっは!!』


 通信が一方的に切れる。


「やっぱりおかしいだろ! なんだこのふざけた内容は?!」


 琉生は真っ黒になったモニターへ向けて怒声を上げていた。密室に閉じ込められ、意味不明な指示を出された挙句、『好きなところを言い合え』などとふざけた要求をされれば、常識人である彼が怒るのも無理はない。

 しかし、幼馴染の美月はというと、腕を組んで呑気に首を傾げていた。


「好きなところねえ……うーん」

「美月! お前何呑気に考えているんだ!」

「でも、答えたら出られるなら答えた方がいいでしょ?」

「さっき『裏があるかもしれない』って言ったのはお前じゃないか!」


 琉生の正論に対し、美月はあっけらかんとして笑う。


「そうなんだけど……別にあんたの好きなところ言うくらいなら、減るもんじゃないしいいかなって」

「はあ?」

「よし、決めた!ええと、やっぱりまず顔?イケメンだって大学の友達も言ってたよ」

「最初に出るのが顔かよ」

「あはは、近所のおばちゃんにも昔からよく言われてたじゃん。……それから、二つ目は頭がいいところかな。昔、夏休みの宿題手伝ってくれたし」

「手伝うどころか、最後の方はほぼ俺が解いてただろ」

「ごめんね〜」

「絶対に謝る気がないな」


 デスゲームの緊迫感など微塵もない、あまりにも日常的なやり取り。琉生は呆れながらも、美月のペースに巻き込まれ、先ほどまでの怒りが少しずつ削がれていた。


「あは、バレた? それじゃ、最後! ……一途なところかな」


 美月は、少しだけ声のトーンを落として、真面目な顔で琉生を見た。


「あんなにずーっと同じ人のこと想い続けてるなんて、すごいよ。幼馴染として応援したくなっちゃう!」

「……っ」


 その言葉に、琉生は目を見開き、顔が一瞬で赤く染まった。美月の言う『同じ人』が誰を指しているのか、琉生自身が一番よく分かっていたからだ。

 一方、モニタールームでその様子を聞いていた紬希には、文字通り雷に打たれたような衝撃が走っていた。

 え、どういうこと……?!美月ちゃんが応援してる……!?

 紬希は混乱する頭をフル回転させる。美月の言葉から推測できる事実は一つ。琉生には、想い続けている『好きな人』が別にいるということだ。

 琉生くんには好きな人がいる……? 誰なの……?!

 紬希は、美月を深く愛しているからこそ、このお見合いデスゲームに苛立っているのだとばかり思っていた。完全に想定外の事態に、紬希はモニタールームで一人パニックに陥る。皆目見当もつかない。私の情報網に引っかからない女性がいるというの!?と、心の中で叫んでいた。


「狐さん、これでいい?」


 モニター越しの美月の声にハッと我に返り、紬希は慌ててコントロールパネルのボタンを押した。ピッと電子音が鳴り、美月たちの部屋の扉の上部にあるランプが、緑色に一つ点灯する。


「よし、一つクリア。じゃ、次はあんたの番だよ」

「っ、くそ……」


 琉生は真っ赤な顔のまま、気まずそうに頭を軽く掻いた。


「勘違いするなよ、あくまで友達としてだからな!! ……お前は、誰とでもすぐに打ち解けられる。これは商談をする上で心底羨ましいと思った。次に、脳ミソ空っぽなお前らしい、ポジティブさだ! 何があっても悲観しないのは強みだろう」


 照れ隠しなのか、やたらと早口で、かつ少し棘のある言葉選びになる琉生。しかし美月は怒ることもなく、クスクスと笑いながら聞いている。


「最後は、……」


 琉生は一度言葉を切り、まっすぐに美月を見た。


「いつも側で俺の話を、茶化しながら聞いていたな。俺が本当の悩みを吐き出せるのは、昔からお前くらいだ。……礼を言う」


 静かな、しかし確かな信頼がこもった言葉だった。モニタールームの紬希は、その言葉を聞いて感動に打ち震えていた。

 尊い……っ! 二人は決して恋仲ではないけれど、親友、いやそれよりも深い絆で結ばれていた……! この世には、恋愛関係にならなくても成立する『最高のエモさ』があるのね……!!

 先ほどの混乱はどこへやら、二人の尊い関係性に涙ぐむ紬希。そして、琉生が言葉を言い終えた直後、扉の二つ目のランプが緑色に点灯し、ガチャリという音と共に重厚な鉄の扉がゆっくりと開いたのだった。


つづく

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