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泡沫のくるり  作者: malaysia403
『泡沫』の三人と、『お客様』
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36/39

Note 8-1 繰り返す過ち



「——ねえ、そろそろ溜まってきちゃったんだけど……」

 


 午前三時過ぎ。

 閉店後の『泡沫』に、心晴の声が響く。


「今日あたり、うちに来て欲しいなあ」

 

 声の主である心晴はカウンターに頬杖をついて、俺を上目遣いで見ていた。


 

 心晴が俺を誘う時によくする、おねだりのポーズだ。

 それを見て俺は、はぁとため息をついた。


「ついこの前したばっかじゃろ……流石にペース早すぎんか?」

「だってぇ、最近大変だったからぁ……自分だけじゃもう、どうしようもなくなっちゃったの」


 心晴はカウンターに二本の指を置いて、俺に近付けてくる。

 歩いてきた人差し指を俺の腕に当てると、今度はそれを腕に沿ってスーッとなぞらせた。


「ね?……お願い」

「……わかった。じゃあ、起きたら家行くわ」

「ん、待ってるね」


 心晴はそう言って嬉しそうに笑った。

 

 その顔を見てため息をつきつつ、


 ——結局こうして誘いを受けてしまうから、良くないんだよな……


 俺は心の中で小さな反省をした。



 

 


 そして昼過ぎ。

 俺は心晴の住むアパートに到着して、呼び鈴を鳴らす。


「……はぁい」


 しばらくして扉が開き、中からダルダルのスウェットを着た心晴が現れた。

 


「お前……まだそれ着とんか。いい加減捨てろ言うたじゃろ」

「えー、いいじゃん。上からも下からも脱げるんだよ、ほら」

「やめえ、誰かに見られる」


 肩からスウェットを下ろそうとする心晴を押しやり、俺は部屋の中へと入っていった。



 リビングへと入った俺は、二人掛けのテーブルにコンビニ袋を置く。

 

 中にはスイーツと飲み物が何本か。

 それと前に家に来た時使い切ってしまったのを思い出したので、ついでに一緒に買っておいたものも入っている。


「気がきくねえ、ありがと!」

「全部お前のじゃないからな」


 ガサガサと袋を物色していた心晴がおっ、と声を出した。

 

「無くなったの、覚えてたんだ」

「ああ。まあ、一応な」


「こんなに買ってきて……どんだけ張り切ってるの?」

「……流石にそんだけありゃ、使い切ることもないじゃろ」


 俺は心晴から袋を奪い取り、残ったスイーツたちを冷蔵庫へ片付けた。


「あー、ちょっと!スイーツ!」

「それは後——先にこっちからじゃろ」


 冷蔵庫に手を伸ばそうとした心晴を引き寄せ、俺は部屋へと向かった。

 

「あっ……もう、航ったら……せっかち」

「いいから早く開けえ、出来んじゃろうが」

 

「うん……そのままだからちょっと汚いけど、許してね?」

「ええ、もう慣れた。早よやるぞ」



 



 

 

「——たのもー!!」


 バン!と勢いよく向かいの部屋の扉が開き、中から顔を真っ赤にした芽吹が飛び出してきた。


「今日こそは、ぜっったい間違いない!!私は許さんよ!!」


 ドタドタと歩いてきた芽吹は、心晴の肩に置かれた俺の手を剥がして俺と心晴の間に割り込んだ。


「お姉ちゃんの部屋に入って、今日は何をするつもり?この前からまだあんまり経ってないよね!?」


 俺は疑う芽吹に否定の言葉を出そうとしたが、


 

「——何?なんか文句あるの?」


 そんな俺を遮って、心晴がスウェットを下ろして芽吹にチラッと中を見せた。


「ちょ、ちょっと!お姉ちゃん!」

「別に悪い事しようってんじゃないもん。ね、航?」

「いやまあ、そうじゃけど……」


「……芽吹、ヤキモチ?」

「そっ、そんなんじゃなくて!私はただ——」



「——なんなら芽吹も一緒に、する?」

「……っ!!」

 

 

 心晴のその一言が引き金になったのだろう。

 芽吹は真っ赤になった顔で、


 


「——するなら……よそでしてきなさーい!!」


 外まで響くような大声を出して、自分の部屋へ飛び込んだ。





「……なあ、もう……始めてええか?」


 俺は手に持った袋の封を破り、中から一枚取り出して心晴に渡す。

 

「あー。こんなところで持たせて、まだ部屋に入ってないよ?」

「やめろ」


「前から思ってたけど、航って私にさせるの……好きだよねー」

「もうそれやめろや。また芽吹が来るじゃろうが」


 

 再びバン!と音を立てて芽吹が部屋の扉が開けた。

 

「こらー!!聞こえてるんだからね!!——って、あれ……?」


 芽吹は飛び出した勢いを急速に失い、目を白黒とさせながら俺たちを見た。

 ——具体的には、俺と心晴が持つ大型のビニール袋を。

 

 

「ん?芽吹ちゃんは、何だと思ったのカナ?ん?」

 

「うぅー!!バカ!!」

 

 ここぞとばかりに心晴はビニール袋を振り回し、芽吹に抱きついてキャッキャと笑った。


「やめろ、煽るな」

 

 俺はその様子にイラッとして、心晴の頭をコツンと小突く。

 

「痛ぁ!殴らんでもええじゃろ!」

「うっさい、さっさと始めるぞ」


 その後文字通り首根っこをひっ掴み、俺は心晴の部屋を開けた。




 

 

「うわあ……」

 

 開かれた部屋を見て、思わず芽吹から声が漏れる。

 


「……こんなになってるって、知らんかったんか?」

「うん……お姉ちゃんの部屋は、基本ノータッチだから……」

「そうか……ほら、始めるぞ心晴」


 俺は心晴を部屋にポイっと投げると、よろよろと進んであちこちに置かれたペットボトルをバタバタと倒していく。

 最終的に、部屋の中央に(うずたか)く積まれた服の山に心晴は頭から突っ込んでいった。


「ううっ……ひどいわ……こんな体勢にして、何をしようって言うの!?」


 崩れた服の山に埋もれて、お尻だけ出した心晴がモゴモゴと山の中から何かを言っている。

 俺はそれを無視して芽吹の方を向いた。


「芽吹、頼みがある……」

「うん……皆まで言わなくていいよ」


「すまん……冷蔵庫にスイーツ買ってあるから」

「ありがと……張り切って頑張るよ」

 


「どうするつもりなのー!?」

 


 ——こうして、心晴の汚部屋の大掃除が始まった。



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