表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫のくるり  作者: malaysia403
『泡沫』の三人と、『お客様』たち
PR
34/39

Case 7-1 あの頃のままで



「やっほー、ココ!」

 

 開店直前、表に看板を出していた私に声が飛んできた。

 

 

「——陽菜(ひな)姉!?帰って来てたの?」

 

 聞き馴染みのある声に、名付け親である陽菜姉だけが呼ぶ『ココ』という私のあだ名。

 私は弾かれたように陽菜姉の方を向いていた。


「用事でねー。すぐ帰んないとだけど、ちょっとだけ!」

「ちょうど今お店開けた所だから、入ってってよ!」

 

「いいの?じゃ遠慮なく、おじゃましまーす!」

 


 前会ったのは陽菜姉の帰省に合わせて地元に帰った時以来だから、二年振り。

 お店に来るのは今日が初めてだ。


 思わず緩みそうになる顔を引き上げながら、私は陽菜姉と一緒に『泡沫』の中へ入っていった。



 


 店に入ると、カラカランというドアベルの音に反応した航が調理場から顔を覗かせた。



「いらっしゃいま……せ……」


 陽菜姉の姿を見て固まる航。

 その姿を見て思わず私はブフッと吹き出してしまった。


「航くん、久しぶりだね!」

「えっ……陽菜さん?」

 

「帰省しても会いに来てくれないから、こっちから来ちゃった!」

「えっ……え?」


 航の所までツカツカと歩いて行った陽菜姉は、腰に手を当てて航を見上げた。

 

「さあ!どういう了見か、説明してもらいましょうかね!」

「ちょ、ちょっと……説明って、どういう事っすか……?」


 陽菜姉の勢いに押されてしどろもどろになった航が、私に視線をやって助けを求めてくる。


「レジ見てくるわねー、ごゆっくりー」

「あ、ちょ!心晴!」


 私はその投げかけられた視線を無視して、特に用事のないレジの方へと離れていった。




「——あはは!ごめんね、航くん!ビックリした?」

「……相変わらず元気そうで、良かったっす」


 それからすぐ、陽菜姉は航への『イジり』をやめてカウンター席へと座ったようだ。


「航くんも相変わらずで安心したよー」

「勘弁してくださいよ……もういい年なんすから……」

 

 昔から私と陽菜姉にイジられ続けた航は、陽菜姉と会うと未だに恥ずかしそうな顔を見せる。

 ——まあそれを面白がって、未だにイジり続ける私たちも悪いんだけど。


「——は!?誰がいい年じゃ、こら!」

「やべ……」


 虎の尾を踏んだ航がそそくさと調理場へと逃げていくのがレジ裏の方から見えた。


「待てー!」


 航の反応にカラカラと笑う陽菜姉。

 私はその様子を見てカウンターに入り、陽菜姉にコースターとおしぼりを出した。


 

「相変わらず容赦ないわね」

玲央(れお)みたいで、ついねー。最近、あの子もだいぶ生意気なのよー?」


 そう言うと陽菜姉がふふっ、と笑って私を見た。


 

「何?どうかした?」

「『仕事中全然違うんだよ!』って芽吹ちゃんが言ってたの、本当だったんじゃねえ」

「そりゃそうでしょ……ちゃんと社会人なんだから」

「何その標準語っぽいの。おもしろっ!」

 

 頬杖をついて私に笑いかける陽菜姉。


「家で会う時は昔のまんまだからさ、意外だなって」

「子ども扱いはやめてくださいー」

 

 六つも離れている陽菜姉からすれば、私も航と同じで弟や妹みたいに見えているのだろう。

 私と芽吹も同じ六個違いだから、分からなくもない。

 


「……なんか飲む?奢るよ?」

「おっ、さすが社会人!じゃあ、ウーロン茶貰おうかなー」


「お酒でも大丈夫だよ?」

「あー……お酒は今、ダメなんだ」


 あははーと笑う陽菜姉を見て、私は思わず身を乗り出す。


「え、二人目!?」

「違う違う!……そう、帰り運転だから!」

「なーんだ。残念」


 旦那さんと今でもすごく仲が良い陽菜姉なら、もしかしてと思ったけど。

 違うと言うならまあそうなのだろう。


 私は注文通り、ウーロン茶を作って陽菜姉の前に置いた。

 

 

「……そういえば旦那さんは?」

「今日は玲央連れて来てるから、そこのゲーセンで待機中ー」

「別に今なら大丈夫だし、呼んでいいよ?」

 

「んー……多分ゲーセンの方がいいじゃろうねえ。玲央とか、大はしゃぎしよったし」

「あー……島にゲーセン無いんだっけ」


 陽菜姉が嫁いだ先——瀬戸田は、ゲーセンのような娯楽施設がないと陽菜姉から前に聞いた事がある。

 

 じゃあ玲央は何して遊んでるの?と聞くと、

「友達と一緒に海行ったり、お義父さんのミカン畑で遊んだりしとるよ!」

 陽菜姉は、こんがりと日に焼けて笑う玲央の写真をいくつか見せてくれた。

 

 

「芽吹ちゃんは?まだ出勤前?」

「今日は八時からだけど……連絡入れようか?」

「あー、いいよいいよ!無理しちゃ悪いし!」


「じゃあ、予定だけ聞いてみるね」


 そう言って芽吹に『今何してる?』と送ると、少しして連絡が返ってきた。


「今、友達とミナモアにいるって」

「おー、シティーガール極まれりじゃねえ。あそこは私らには人が多すぎてダメじゃったわ」



 それから私たちは他愛もない話を二、三程した。


「——それにしてもさー」


 そしてその話も——他愛もない話の中の一つだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ