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泡沫のくるり  作者: malaysia403
『泡沫』の三人と、『お客様』
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27/39

Case 5-1 酔っ払いのお客様



「いらっしゃいましたよ、っと」

 

 

 午後十時過ぎ。

 カラン、というドアベルの音と共に、一人の男の人が『泡沫』に来店した。

 

 

「いらっしゃいませ!」


 会社帰りだろうか。

 高そうなスーツに、緩めたネクタイをつけている。

 ネクタイピンに照明が当たって、キラッと眩しく光った。

 

 お客さんは私とテーブル席のお客さんの対応をするお姉ちゃんをチラッと見た後、


「よっこらせ、っと」


 空いていた私の前のカウンター席にドカッと座る。

 


「お荷物お預かりしま——」

「あー、いいよ。こっちに置くから」


 そう言って空いている隣の席にカバンをポイっと投げたお客さん。

 

 香水の匂いと、その中ににおうツンとしたお酒の香り。

 多分ここに来る前に、どこかで飲んで来たのだろう。

 

「……スーツ、かけるとこないの?」

「あっ、はい!ただいま!」

 


 酔っ払ってここにくるお客さんは、珍しくはない。

 今、奥のテーブル席に座っている二人組のお客さんも、ここが三軒目だとお姉ちゃんと話していた。


「——お客様、私がお預かりします」

「おっ、あんがとさん」


 私を制止してお客さんの隣にスッと着いたお姉ちゃんが、スーツを丁寧に受け取って上着掛けのあるレジ裏へと向かった。

 


「出来る女って感じだな、あの店員さん」

「はい、とっても頼りになるんです!」


「……ふーん」

 

 私の返事に少し声を鳴らした後、お客さんは私へと視線を向け直した。


「俺はお姉さんの元気いっぱい!って感じの方が好きかなー」

「あはは、ありがとうございます……」



 お姉ちゃんならうまく返すんだろうけど。

 褒められるのってなんかむず痒くて、私はまだ言葉を濁してしまう。


「えっと、とりあえず……何か飲まれますか?」

 

 話題を変えようと、私はお客さんにメニュー表とおしぼりを渡した。


「お姉さんのオススメとかあんの?」

「そうですね……私なら——」


 そう言って私はお客さんの持つメニュー表を覗きこもうとして——



「——どれ?お姉さんのオススメ」


 メニュー表に目を向けたままのお客さんに、おしぼりから離そうとした手を掴まれた。


「っ!ちょ……お客様!」


 お客さんは気付いていないのか、そのまま私の手をグイッと自分の方に引き寄せる。


「ん、何?」

「手が……」


 私の声でようやく手を握っている事に気付いたお客さんは、パッとその手を離して笑った。


「あー、ごめんごめん。痛くなかった?」

 

「大丈夫です……結構、酔われてますか?」

「んー、あんまり?俺酒強いから」


 お客さんはそう言って、メニュー表を見始める。



 ——ホントに大丈夫かな……ん?

 

 そのタイミングでレジ裏にいたお姉ちゃんが、チョイチョイと私に手招きをしてきた。


「ご注文決まりましたら、お声掛けください!」

「はいはいー」


 今のやり取りを見ていたんだろう。

 私はお客さんがメニューを見ている隙に、お姉ちゃんの元へ向かった。

 

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