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第47話 デズモンドの街で暮らしてみる

 レイは一人、デスモンドを歩く。

 そして、そこでとあるものを見つけて身を隠した。


「ま、まじ? 村と街の交易って遮断されてんじゃないのか? うー、目出し帽…ない……。すっかり忘れてた。引っ張り出せるタイミングはあったのに‼他のことで頭一杯で完全に失念した。…今から取りに行くは不可能だし」


 掲示板に彼の人相書きがでかでかと貼られていた。

 しかも、颯爽と登場したソフィアの掻っ攫い劇で、肩パットが外れている。

 更には、ちょっとキラキラした顔で書かれている。

 だから、案外似ている。それによく似た男がその真隣にいるのは流石に不味い。


「さて、どうしたものか…、…あ」


 そして渋々、ポケットからソフィアのパンツと女王様マスクを取り出した。

 まさか、ソフィアの言っていた通りになるとは。いや、彼女の直感は侮れない。

 こんなことも予期していたに違いない、と考えながらこの大都市の裏道を堂々たる姿で歩く。


「俺は今日からマスクドパンツマンだ」


 マスクドパンツマンがあの人相書きの男だとは誰も思うまい、そういう風に自分を言い聞かせて背筋を伸ばす。

 すると、この街の風景、特に路地裏の背景がよく見えた。

 よく作り込んだなぁ、という印象を最初に持ち、そしてこの大陸には珍しい、やや近世風の街並みだな、と感慨深く眺める。


「魔王軍四天王の四番目、爆炎のエルザ。三番目、疾風のアズモデ。そして二番手にして、俺を殺す者、竜王ゼノス。そして最後に破壊王ドラグノフ。それ以外の魔王の幹部達も実はこの街、いやこの大陸に出入りしている。だから、この街は魔族と交易して新たな文化を手に入れた、そういう設定だったよな」


 これはリメイク後の設定ではなく、当初からある設定だ。

 そうでなければレイモンドがフィーネを拐かすなんて不可能だ。

 彼は魔族の力を借りることで、その凶行を成し遂げる。


「ただ、レイモンドが借りれたのは魔王軍直属って訳じゃない。魔王軍幹部は勇者を招き入れる習性がある。脳筋なのか、それともドMなのか……」


 だから、この街の裏路地は少し歩くと魔族がいたりする。

 そして、その魔族が人間達にいじめられていることだって普通にある。

 これもRPGではあるあるの設定だろう。

 彼は無いマントを翻し、悪いものを駆逐していく。


「おい、弱いものいじめすんなよ」


 マスクドパンツマンは多分正義の味方だ。

 パンツを被っているやつは変態か正義の味方だ、とマスクドパンツマンの中ではそういう設定になっている。

 そう思わなければ、こんな姿で堂々と歩ける筈もない。


「あぁ? なんで、この変態‼」

「変態ではない‼」

「どう見ても変態だろ‼てめぇ…。ここは人間様の街だぞ。魔族がどうこういうやつぁ、ほとんどいねぇよ!」

「兄貴、こういうのはほっときましょうよ。頭おかしいヤツですよ」

「プルプル、こわい……、人間こわい……」


 スラドナイトは小さくなって震えていた。

 ちなみにスライムに乗ったナイトではなく、スライムが人型になって革の鎧を着ているという設定だそうだ。

 今まで勇者ファミリーで散々スラドンを虐め倒してきたことは、今のマスクドパンツマンには関係ない。

 アレは違う人がやったのだ。


「おい、お前達。金で済む問題だろ。1Gやろう。飴を舐めて糖分補給をしなさい!」


 そう言ってマスクドパンツマンは布袋を右手でつまみ、彼らの眼前でプランプランとさせた。

 金で解決できるならそれでよい。

 今は目立つ行為はしたくはなかった。

 ただマスクドパンツマンはかなりケチだったらしい。

 というよりお金の大半は世界の希望に託している。

 いや違う。1Gを笑う者は1Gに泣く。


「はぁ?たったの1Gって何言ってんだ? パンツ被った変態さんよぉ、変態枠はキラリ一人で十分なんだよ。命が惜しかったら…、…ひ‼」


 どうやら彼は言ってはならないことを言ってしまったらしい。


「貴様…。 このパンツを愚弄するのはいい。だが、キラリを馬鹿にするのは許さない…」

「ちょっと兄貴‼コイツ、キラ信者だ。止めときましょうよー、…ひぇ」

「キラリを影の殺戮者のように言う…だと?悪鬼どもめ。お天道(てんと)様が許してもこのマスクドパンツマンは許さない!……フッ、すでに意識を失っているか。良いパンツの夢を見れると良いな。だが、このパンツの夢を見る事だけは許さない。夢の中まで追いかけて、ノーパンツマンにさせてやるからな!」


 バッチリと決まった。決め台詞も決まった。

 マスクドパンツマンは男達を失神させ、肩を竦めた。


「キラリが変態枠?なんてことを言うんだ。キラリは…」


 そして、さらに路地裏を進む。

 マスクドパンツマンの中の人が、路地裏しか歩けねぇと心の中で嘆いているが、それでも彼は悪を断つヒーローだ。


「ただ…、このパンツはソフィアのモノ。あのような俗物に、あぁ、あのソフィア様はあんなパンツを履いてるんだ…などと思われては困る。他に何かないか。ソフィアのスカートの中を、決して見られてはいけない」


 頭のパンツを気にしながら、堂々とした態度で歩く。

 すると彼の後ろからヒーローを呼ぶ声が聞こえた。


「ぷるぷる。あの……ありがとうございました。どこぞの英傑様!」


 そして彼は振りかった。

 マントを纏っていないのが大変悔やまれる。

 だが、この姿でマントをしていたら本当に通報されかねない。

 今だってギリギリの窮地に立たされている。


「なーに、構わんさ。こんなこと、祇園精舎の鐘の音だ。」

「ぷるぷる。諸行無常の響きあり……ですね?」

「ふ、なるほど。…そういうことか。では店に案内してもらおう。」


 レイはあの掲示板を見た時、普通に生きるのを諦めていた。

 魔族に与し人間扱いを受けているのだから、日陰者。

 しかも、この様子だとネクタにも張り紙があるに違いない。

 だからといって、ソフィアのパンツを見られる生活は続けられない。

 日陰者がマスクを外して暮らせる場所を探している。


 そんな彼が狙うは、デスモンドの闇社会だ。


 デスモンドは魔族と人間が交易している、という設定がある。

 それで彼は変態に…

 それで彼はヒーローになりすまし、人間に襲われるモンスターを探していた。

 安全圏を見つけ、しばらく影を潜めることが、彼には必要不可欠だった。


 そして今のフレーズは、ゲーム内で魔族が経営する秘密のお店に行ける合言葉だった。


     ◇


 スラドナイトは器用に外見を変化させて、今はその辺の人間と変わらない見た目になっている。


「スラドンに性別が…」


 おじさん風の人間を選択した。

 ということは、としょうもない疑問を考えながら、彼は路地裏を進む。

 さっきよりも、更に道は狭くなっていく。


「今頃、市長の試練を受けているだろうか。ま、あいつらなら余裕だろうが。今のところ、革の鎧は出現していない。ってことは楽勝で闇酒場のガララライオンを倒したってことか?ヒッポヒポトトの対策も教えたし…。まぁ、アリゲーターガメは時間がかかるけど、アイテムたくさん持ってりゃなんとかなるし…。早くて今晩、遅くても明後日って感じかな」


 アルフレドはあの後、真剣に経験値を稼いでいた。

 ファストトラベルは自分にしか出来ない勇者の力。

 ということは、レイに真似できない特別な方法。

 それが彼の心にどんな影響を齎したかはさて置き


「レベル値を少し大げさに言ったからかもしれない。けど、慎重に越したことはないか。もしかしたらデスモンド周辺で同じことをしてるかもな」


 無意識の独り言。

 何か伝え漏らしがないか、考えながら歩く。


「お客人。同胞のこと、お詳しいんですねぇ。やはり私の見込んだ通りです。……あ、ぷるぷる、見込んだ通りプル。」


 中年の男性に化けたスラドナイトは、下卑た笑みを浮かべた。


「いや、人間に化けてるんだからプルはつけなくていい。既に可愛くないし。それより早く案内してくれ」


 早くパンツを脱ぎたい…

 いや、この言い方は語弊がある。

 マスクドパンツマンがただ歩いている、というつまらない風景を世に晒すわけにはいかない。

 そも、このパンツはソフィアのパンツだ。


「こちらプル。…いえ、こちらです」

「かたじけない」

「いえ。礼など必要ありません」


 そしてマスクドパンツマンは、モンスターが経営している店に入っていった。


 そして、店の中。

 禍々しいお店を想像したことだろう。

 けれど実は違う。彼が人間に化けているように、この店は人間が入っても問題ないようにできている。

 魔族と戦うメビウス教の支部が一応この街にもある。

 人間に害をもたらす店を駆逐するイベントがあるくらいだ。

 だから賢い魔物たちは、人間を装って生活をしている。

 この店も一見、普通の道具屋に見える。

 じゃあ、どうして、この店主はいじめられていたのか。


「なぁ、なんでさっきは絡まれていたんだ?」

「あー、あれですよ。合言葉も言わず、噂だけを聞きつけて惚れ薬を売って欲しい!なーんて言われたから、ただの滋養強壮ポーションを売ったんですよ。そしたら、『全然気かねぇじゃねぇか!』『セクハラで訴えられたわ!』なんて、あらぬ難癖をつけてきたんですよ」

「はは。成程。自業自得という奴か」


 …って、そりゃ、怒るわ! ってか、俺、そんな詐欺行為を働くやつ助けたの?正義の味方とは?


「店主…、そ、そろそろこの店の本当の姿の方を見せてくれないか?」


 そう。レイは知っていた。

 魔物が店を開くということは、人間にも需要があるということだ。

 そして魔物を助けて行き着く先に裏カジノがある。

 決して、そこにいるサキュバスバニーに会いたいからではない。

 彼は裏側の人間だ。

 そして腕っぷしも強い。

 だからサキュバスバニー達の護衛……じゃない。

 カジノが抱える莫大なサキュバスバニー……失礼。

 カジノが抱える莫大な富、そして要人が抱えるサキュバ…、要人の護衛こそがレイというモブの天職に違いない。

 ネクターの街でも、悪人ヅラと腕っぷしが役に立った。

 今は本当に超一流の腕を立つ。サキュ…、要人を悪い魔物から守ることが出来る。


 そしてついに、噂のカジノが姿をあらわに…


「お客さんは辛抱たまらんというご様子。さすが英雄色を好むとはよく言ったものです。ではお見せいたしましょう。ようこそ我が『おとなのおもちゃ屋さん』へ」

「おう。辛抱たまらんかったのだ。ついに大人のおもちゃ屋が…、って‼」


 その瞬間、店内が暗闇に包まれた。

 そして、壁に淡く光る怪しい文字が浮かび上がる。


『悪魔お手製おとなグッズのお店へようこそ』


「違う!違う! そっちじゃない! いや、惚れ薬って段階で薄々気付いていたけれども!」

「なにをおっしゃいますか。貴方はどこからどう見ても変態紳士様じゃないですか! はぁ…、今更恥ずかしがらなくてもいいんですよ?色々揃えてますよぉ。どれにいたします? 大人のおもちゃ1、大人のおもちゃ2、大人のおもちゃ3、聖女の鞭、幻惑のお香……。なんでも揃っていますよ?」


 話しかけるモンスターを間違えた!

 ここはソフィアの武器が手に入る方のお店じゃん!

 このパンツか?パンツが導いたのか?

 ゲーム内表記では大人のおもちゃという言葉だけなのに、ここではリアルにそれだと分かってしまう!

 それに俺、モンスターにも変態認識されているんだ。

 ふーん、そうなんだ。…って、それだけじゃない。幻惑のお香?

 これって、もしかしてレイモンドが使った薬?

 ゲーム中でレイモンドはこの店に入ったってことか?

 いや、そんな筈はない。アレは魔族と関係していた…。いや…


「…もう関係ないか。別にカジノじゃなくても問題ないし…」


 レイはそそくさとパンツと女王様マスクを外した。

 そして、彼の本当の目的を明かす。


「えと…、俺は本当はカジノに行きたかったんだけど。用心棒として雇ってもらおうと思って。でもさ、さっきの見ると変なやつに絡まれたりするんだろ? 数日でいいから俺を雇ってくれないか?腕には自信あるぞ。」

「な。お客様はお客様ではないですと‼はぁ、そういうことなら…」


 店主はその言葉に落胆した。

 このまま追い出しそうな気配まで出してくる。

 ならば、と


「なぬ?いつの間に後ろを?」

「俺はただの変態紳士じゃあない。俺様は暴れん坊の変態紳士だ‼」

「何をぉぉおお?…だ、だけど確かにぃ、さ、さっきの恩もある。それに今は、あの光の女神の加護持ちがここに来ているという噂もある…が」


 魔物目線ではそう映る。

 勇者とは魔物を屠る存在である。

 であれば、その力を見せるだけ。


「悪い話じゃあねえだろ…。なぁ、おとなのおもちゃ屋の店主さんよぉ」

「し、仕方ない。数日くらいなら面倒見てやる。ほんと無茶な変態紳士さんだ」

「そうこなくちゃなぁ」


 勇者が去ったと分かれば、移動も可能だ。

 だが、それまで勇者はこの街の面倒ごとを片付けるミッションを行っているから、表通りは歩けない。

 その間だけの居場所があればよい。


「数日雇ってやる。だから…、その態度はけしからんぞ」

「あ、あぁ…それは気を付ける」

「それに働けないなら、他所を当たってもらうぞ」

「ん? 強さならさっき見せたろ、あれじゃだめ?」

「あたぼうよー。働かざるもの、食うべからず。お前さんが客だと思ったから、ここまでやったんだ。はぁ…、せっかくの魔怪光が台無しだ。三回しか効果ないんだからな。で、今のが三回目だ。今電気つけたら、この文字書き直さなきゃなんねぇ。ほらほら、最初の仕事だ。今の文字覚えたら、ちゃんと同じように書いとけよ。」


 スラドンおじさんは雇い主になった瞬間、とても偉そうになった。

 とは言え、たった数日。レイにとっても悪い話ではない。


「魔怪光?この光る文字か」

「はぁ、なんだよ。腕っぷしは強いが雑務は苦手タイプか。やってられるのかぁ?」

「いや、そういう話じゃなくて」

「これくらいやってもらわにゃ。これは聖なる光を食べて、闇夜に不気味な文字を照らす魔法の液体だ。変態なお前さん、字くらい書けるよなぁ?」

「いや、ただの夜光塗料じゃん‼それを厨二病風に言いやがって。厨二病の世界観だけれど‼まぁ、いい。文字なら書ける。人間の文字だったしな。もっとド派手に演出してやるよ」


 こんな感じに謎のスラドン系店主とレイの数日間が始まる。

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