第48話 戸惑いの中、黒髪の少女は喫茶店に行く
この回を書き足したかったのも、リメイク理由の一つです!
僕は魔物が嫌いだ。
だから、僕は光の女神の使徒、勇者様と冒険に出る。
「本当に運転手無しで走れるのか。凄いもんだな」
「キラリ、初めまして。エミリだよ」
「え…、僕の名前…」
「あ、そっか。えっとねぇ」
「ミッドバレイで聞いたのよ。アナタ、デスモンドで有名なんでしょ。ちょっと変わってるって話を聞いたわ」
勇者様は女四人を連れた、金髪の男の人だった。
勇者様の伝説は、お爺ちゃんから聞いていた。
でも、そのお爺ちゃんはお婆ちゃんと合体して、自動運転装置に変わってしまった。
「怯えている顔だな。でも、心配ないぞ。君はいるだけでいい。魔王は俺とフィーネ、それから他の仲間が退治する」
勇者様は言った。
僕はいるだけでいいらしい。
そう言った勇者様の目には、戸惑いの色が浮かんでいた。
「うん…」
街の人達が僕に向けるのと同じ目。
他の女の人も、それに近い目。
昔から同じ目を向けられてから、気にならない。
誰にも理解されないのは慣れている。
それに、僕も自分が誰なのか分からない。
だから、やっぱり。
いつものように孤独を感じる。
ううん。いつも以上に…
「お爺ちゃん…」
僕は大切なものを失った。
僕にはお父さんとお母さんの思い出もない。
お爺ちゃんに聞かされただけで、何もない。
お爺ちゃんに、お父さんとお母さんは魔物に殺されたって聞かされた。
だから、魔物が憎い。魔物が憎い。
この人たちについていけば、お父さんとお母さんの仇を取れる。
だから、ついて行く。ついて行く。
でも…、勇者様は僕を見てくれない。
僕の目を見て、僕のことを思って、話をしてくれない。
「んー。ここならあると思ったんだけど」
だから、僕は
「このウィンウィン動く機械を改造できないかな…」
うんともすんとも言わなくなったお爺ちゃんを
お爺ちゃんの代わりを作ってみようと思った。
「お客様…。お店をお間違えではないですか?」
店員に話しかけられた。
人間なのに、人間と会話が苦手な僕はその店を後にした。
ただ、この街の道具屋でそれっぽいのを売っているのは、やっぱりあの店だけで
僕はもう一度、同じ店に行った。
「これ、振動する。何かに使えないかな…」
「お、お客様‼それは…お客様には装備できない…かと」
また、声を掛けられて、僕は肩を震わせた。
でも…、勇気を出して聞いてみた。
「あ、あの…。か、改造するんです。DS…えっとWだっけ。お爺ちゃんがDSWになっちゃって…。こ、ここ、ここにお爺ちゃんは置いてませんか?」
薄暗いから店員の顔は見えない。
下を向いているし、僕の身長がそんなに高くないからかもしれなけど
ただ、その後、返事はなかった。
やっぱり、この人もそう。僕はどこに行っても浮いてしまう。
「…お、お爺様は流石に。そもそも、ここは。…お嬢様のように可愛らしい方向けの商品は置いておりませんよ」
その言葉に僕はびっくりして顔をあげた。
顔をあげたけど、その人の顔は見えなかった。
お店の人は、とても背の高い人だったらしい。
「そ、そんなことは…、えと、これとこれ…下さい」
「…はぁ。分かりました。合計で600Gです」
妙に恥ずかしくなった僕は、適当に商品を選んで、600Gを置いてお店を後にした。
これが彼との出会い…ってその時は思っていなかったけど。
僕はその後、DSW-003と…、勇者様たちと一緒にデスモンドの問題を解決して回る。
時にはデスモンドの外にも行く。
でも、僕は見ているだけ。僕は何の為にいるのか。
魔物が殺されていくのを見ると、確かに少しだけ胸の痛みが和らぐのだけれど。
「えと…、コーヒーを」
日が暮れる前に、勇者様は宿に戻る。
その後、僕はやっと解放される。
「…50G。…ども」
「あ、うん」
街で一人歩くと、世界がちょっとだけ変わっていた。
僕を変な目で見ていた街の住民は、違う変な色の目で僕を見るようになった。
お爺ちゃんを連れた変な人から、お爺ちゃんを連れていない人、という目だと思う。
それか、変人なのに勇者様に選ばれた人。街の人達の噂はそんな感じだった。
だから、路地裏にある喫茶店に逃げ込む。
そこは人通りも少なくて、薄暗くて、お爺ちゃんと時々行っていた喫茶店。
「…はぁ」
席に座って、一人でコーヒーをちょびちょび飲む。
でも、向かいの席に話し相手のお爺ちゃんはいない。
独り立ちには、ハードルが高すぎた。
いきなり、勇者様と世界を救うヒロインの中に入るのは、僕には難しい。
「浮かない顔ですね。どうされたんですか」
突然話しかけられて、僕は顔をあげた。
でも、そこには誰もいない。
ただ、その声に聞き覚えはあった。
「いや。先日ご購入になられた商品のことが気になりまして。もしかして気分を害されたのではないかと…」
目の前ではなく、後ろの席に座っていた。
後ろから話しかけられ、僕は俯いたまま、こう答えた。
「それは大丈夫…です。まもの感電装置が作れたから…」
それは本当のことだ。僕は魔物を倒す武器を作れる。
でも…
「素晴らしい。お嬢様は凄い力をお持ちだ」
「ふぇ!」
変な声が出た。
恥ずかしくなったから、その店から逃げるように出てしまった。
まだ、半分も飲んでいなかったのに。
「コーヒーを」
「はいよ」
今日、勇者様にお話したら、難しい顔をされた。
すると、隣の水色の髪の人が、まもの感電装置を取って、何も起きないじゃない、と言われた。
だから、また逃げるようにここに来てしまった。
「…はぁ」
また、座ってチビチビとコーヒーを飲む。
やっぱり話し相手はいない。
「お嬢さん、どうされました?」
「…え。また?」
「あぁ、すみません。この時間が私の休憩時間でして」
今日も後ろから声を掛けられた。
考えてみれば、勇者様は夕方には宿に戻られる。
街の人も、この時間にお店を閉めたり、お店を開けたりする。
時間が重なっても、おかしくはなかった。
ただ…、今日は
「光の勇者のお仲間、キラリ様だったのですね」
遂に正体がバレた。もう、この喫茶店には来ない方が良いかもしれない。
「……」
「あの腕を持っているんです。活躍されていることでしょうね」
そうだったら良かったのに。
あの武器が使えなくて、ここに逃げ込んだのに。
「そんなことないです。お爺ちゃんに昔教えてもらっただけで…。でも、使えなくて…」
「成程…、これは私の想像ですが。余りにも複雑な装置だから、お嬢様にしか扱えないのではないですか?」
そして僕はまたビックリさせられた。
ただ、ボタンを押せばいいだけだ。難しくなんてない。
「え…、そんなことないです…」
「そんなことあるんですよ。なにせスキルですから。…アルフレド、教えただろ。何をやっている」
「へ?最後の方、聞こえませんでした」
「いえ、大したことはありません。スキルとは個人で違うものです」
「スキル…。僕のスキル…。それじゃ、他の武器も?」
不思議な感覚だった。
喋り方は全然違うけど、、まるでお爺ちゃんと話しているようだった。
「そうです。ですので、お嬢様ご自身が使って、あの勇者様を驚かせてあげましょう」
「僕が使って…」
だから、僕は…
「そろそろ時間です。早く帰らねば、叱られてしまいますので、私はこれで…」
背が高くて、顔も見えないのに
「あの…」
「はい?」
「この店にはよく来るんですか?」
「いえ。最近知ったばかりです。暫くは通うつもりですが」
「そ…っか…。また、お話をしても…いい…ですか?」
男の人、ううんお爺ちゃん以外の人に「また、話したい」と、初めて言った。
「ええ。勿論です」
◇
薄暗くて、顔も見えない。
コーヒーも暖かいけど、もう一つの陽だまりがある場所。
「ガララライオン…っていう魔物を倒した」
「ほぉ。お嬢様もさぞ活躍したでしょう」
「…えっと。まだ、時々…しか」
何故か、顔を見る気になれなかった。
顔を見なくていいから、話しやすい。
その人も、僕の顔を見ないようにしてくれたし。
そもそも、背中合わせ。
「ヒッポヒポトトって魔物を倒した…よ」
「どうでしたか?」
「うん。勇者様が色んな対策をしてて、思ったよりも簡単だった…みたい」
「みたい?とは?」
「…僕は最初だけ…で。後は勇者様とフィーネって人が倒しちゃった…」
「それは全員の勝利です。キラリ様も十分、ご活躍されています」
彼は不思議な雰囲気を持っていて、存在感はとても薄い。
だから、話しやすい。
「活躍してないし」
「そうでしょうか?少し、強くなられたような」
「え…、そういえば…そう…かも」
ううん。この人は僕のことを最初から変な目で見ていない。
別の場所から来たと言っていたから、僕の変な噂を知らないのかも。
「この辺りの魔物は強いんです。そもそも、私たちは何も出来ませんからね」
「い、一応これでも勇者パーティの一人…ですから」
「そうでしたね」
あと、とにかく優しい。
勇者パーティの一人と知った後も、何も詮索してこない。
僕のことも、深くは聞いてこない。絶対に噂を耳にしてる筈なのに。
「次はね——」
だから、デスモンドの繁華街の裏路地にある喫茶店は僕の秘密の陽だまり。
でも、そんな日は長くは続かない。
と言っても、彼がいなくなるのではない。
「今日、アリゲーターガメを倒したよ。僕、結構活躍したかも」
「亀…ですか。名前からして硬そうですね。それに小さな亀とかいそうで、想像しただけでも、私は怖いです」
「うん。沢山いたよ。でも、僕のまもの破壊兵器で一気に倒せた」
「まもの…破壊兵器…。聞いただけでも、凄そうですね」
「えっと…、その…。ただ…」
この陽だまりが終わる理由は、僕の方にある。
「ただ…?」
「自信がない。僕、もうすぐ行かなくちゃいけなくて…、暫くここに戻ってこれないみたいで…」
フェリーに乗って、アーマグっていう大陸に行く。
そうなれば、当分の間、ここに来れなくなる。
それが不安で堪らなかった。
「大丈夫」
俯いていた僕の頭に手が置かれた。
あまりの出来事に僕の眼鏡がズレそうになった。
気付けば目の前に顔があって、でも薄暗くてあんまりは見えなくて
「キラリ様はお強い。魔王なんてちょちょい、ですよ」
慌てた僕は、彼の手を払って、喫茶店の入り口に走っていた。
でも、入り口で少し冷静になって…
「お姫様を救ったら…、帰って来れるって…。今度はその…、…えと、い、行ってきます‼」
本当は「また、話して」と言いたかったけど、その時はまだ自信がなくて、誤魔化した。
アーマグ大陸で活躍すれば戻れる。
また陽だまりに戻ってこよう。
僕はそう自分に言い聞かせながら、勇者様がいる宿屋に走って戻った。
…この後、あんなことが起きると知らずに




