第86話【VSフォロカル④】
『テメェ、その姿は妖怪化か? 半妖怪の中途半端モンかと思ってたが、なかなか根性あるみてぇだな…』
「そりゃ、取って置きの切り札だからな。妖怪化できる状態ならまだ博打を打つ価値はあるだろ…?」
身体は一回り大きくなった感じはあるが、力そのものが大きな変化は感じはない。だが、能力自体を身体で使いこなすことは出来そうな感覚がある。
妖怪・鎌鼬 は旋風に乗って現れ、両手の鋭い爪で人に斬りつける。
フォロカルの背後に突如して現れると、驚いた表情を見せ、こちらに長剣を振り下ろして距離を取った。
これにつけられた傷は鋭く深く、時に大量の出血を伴うが、痛みは殆どない。痛みがないから相手は斬りつけられた事に気付かない。
そして、斬られた傷は普通の治療法では回復しないと伝わっている。
フォロカルは自身の身体に切り傷が出来ており、再生能力が使えないことに気付いたようだ。
『テメェか…?いったい何をしやがった?斬りつけられた覚えは…』
「だろうな。俺は鎌鼬。旋風そのものだ…」
フォロカルは俺が持っていた鎌がないことに気が付いた。掌から鎌を取り出すと嬉しそうな笑みを浮かべた。
『マジかよ…。妖怪・鎌鼬の武器化持ちかよ。確かに俺相手にはそれは有効的な手だ。だが、半妖怪で人に戻れなくなるリスク承知での判断か?』
「全員が無事に出られる最後の切り札だった。後、イザベル、俺が力を貸すからお前がフォロカルを倒すんだ」
イザベルは自分の実力ではフォロカルに敵わないと俯いた。だが、鎌鼬は鋭い刃で人を斬りつける妖怪であるといい、イザベルの大太刀に身体を旋風化させて乗り移った。
鎌鼬は旋風に乗って現れる妖怪だ。旋風の状態であれば刃に憑依する事はできるだろうとやってみたが、感が当たったようだ。後で九条らには怒られるだろう。
だが、ノーリスクでフォロカルを倒せるレベルではない。連携が上手く行ったからと倒せる相手ではないのだ。何処かで何らかの『リスク』は背負う必要があるとは考えていたが、レベル40後半で妖怪・鎌鼬になれたと思えば良い。
後は鎌鼬の力を色々と試して行けば良い。俺は今、一人ではないのだ。仲間や大切な『家族』がいる。それを護れる力を持つ必要があった。
取りあえずはこれでイザベルの武器の性能は上がった。イザベルには詳しい話は省くが、どうやらここにユティリアの魂も眠ってるため、フォロカル共々もうゆっくり休ませてやれと創造神・サガから伝えられた事をそのまま話すとイザベルは柄を力一杯握り締めてきた。
「俺が力を貸してやるからどうにかフォロカルを楽にさせてやれ。今の情報量と状況だとこれが最高火力だ。俺がイザベルの大太刀になってイザベルがそれを使う。それでフォロカルと互角だろう。梨沙と綾香には護りの強化をお願いしてくれ」
「…了解した。リサ、アヤカはそのまま護りに徹してくれ!フォロカルは私とジョウで倒す!!」
『ハッ!妖怪化になったばかりのヤツの力をあてにしてるようじゃ俺にはまだ勝てねぇぞ!イザベル!』
フォロカルは長剣を振りかざしてきたが、イザベルは大太刀で受け止めた。先ほどまで吹き飛ばされていたが突如としてイザベルの潜在能力を高めている状態だ。
上位魔将級とまともにやり合えるだけ多少なりとも戦えている。問題は悪魔の得意技である闇魔法だが、防ぐ手段がない。
だが、フォロカルも鎌鼬のこちらの攻撃に対応しきれていない。身体の頑丈さで何とか耐えているが、攻撃自体は防ぎきれていないようだ。
今ならついて倒せる可能性はある。イザベルの耳元に囁くように作戦を伝える。風の分身体を出現させてフォロカルに襲い掛かると、イザベルも影魔法を使い、同じように翻弄し始めた。
『チッ!小賢しい戦法を取ってきたな!確かに鎌鼬の能力は厄介だ…』
「そりゃ、嬉しい評価だな。俺も妖怪になった時にこの世界の創造神・サガと出会った。そこで面白い話を訊いたんだよ。この場所にお前の想い人である『ユティリア』も眠っているってなぁ…?」
フォロカルはこちらに気を取られた。それもその筈だ。俺だってフォロカルと同じ立場であれば、その言葉に耳を傾けてしまうだろう。まやかしだろうが、心から愛した人に会いたいと思う気持ちに種族は関係ない。
フォロカルは今でもユティリアを愛している。だからこそ、彼女を奪い敵対させる真似をした神々を恨んでいるのもわかる。
少なくとも、召喚の女神・レーシャは俺らにとっても厄介な存在になるのは間違いない。おそらく、ここでフォロカルを倒せば、その実力を利用しようを自らの復活の為に北の魔王討伐を吹っ掛けてくるのだろう。
面倒であるが、それよりもフォロカルとユティリアをそのしがらみから救いだしてやりたいと思ったからだ。
イザベルの身体に旋風を巻き起こし、気づかれないように近寄り、フォロカルの身体に剣身を当てさせた。イザベルはそのまま大太刀を横に振り抜き、フォロカルの身体を真っ二つにしたのであった。
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