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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
日々の中で3

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行間小話7 いつもの事で既に慣れてしまっているようで

「だからさ、もうちょっとどうにかなんないの?」

「うーん。

 そう言われても」

 不満げな声に、のんびりとした感じの声が応える。

「そりゃ、倒してくれなきゃこっちも仕事がないけどさ。

 もうちょっと都合を考えてよね」

「そうしてあげたいのは山々なんだけど」

「だいたい、回収するのだって手間なんだし。

 それで解体もやるってね。

 もう、何無茶言ってんの、って事でしょ」

「だろうね」

「なのに、もっと早く出来ないのかとか、上手くやる方法ないかなんて。

 こっちがどれだけ大変なのか分かってないでしょ」

「かもしれないね。

 トオルさんも考えてはいるんだろうけど」

「だったら人をよこしなさいっての。

 こっちはもうギリギリなんだから」

「頑張ってくれてて助かるよ」

 いつも通りの不満をぶちまけるチトセに、のんびりとアツシは対応していった。



 同郷の二人は割とこうして一緒にいる事が多かった。

 他の者ともそれなりに仲良くしているのだが、接点はなんだかんだで多い。

 仕事が終わった直後や休日などは、だいたい顔を合わせている。

 一団に女が少ないせいもあるだろう。

 アツシはともかく、チトセは同性の仲間や友人を作りにくい。

 そのため、多少なりともつながりのあるアツシの所にやってくる事になる。

 サツキやレンとの仲が悪いわけではないが、言いたい事をはき出せる相手と言いにくい。

 そこまで打ち解けてないというよりも、二人への遠慮がある。

 いくらなんでも文句や不平不満を聞かせるのは気が引けた。

 とはいえ、もっとも身近な存在である兄に言うのもどうかという所。

 兄弟であるのは確かだが、今や一団を率いる身である。

 そこに鬱憤をぶつけにいくのも考えものだった。

 ちゃんとした理由があれば言うべきであろうとは思うのだが。

 さすがに自分の個人的な考えでしかない事をぶつけるのははばかられた。

 分別があるというよりは、世間体や一団の中での立場を考えた結果であった。

 妥協や打算とも言う。

 そんなわけで、最も気安い相手であるアツシに矛先が向かう事になる。



 アツシからすればとばっちりと言ってよい。

 何が悲しくて長々と続く文句を聞かされねばならぬのか……という事になる。

 たいていの人間なら「解せぬ」とぼやいていた事だろう。

 だが、アツシもチトセとは付き合いが長い。

 誰かに聞いてもらいたいだけなのは分かってる。

 矛先が自分に向かってるのでない事も。

 なので、適当に相づちを打って、右から左に聞き流していた。

 もとよりチトセが相談をしに来てるのでも、悩みを打ち明けてるのでも無い事は分かってる。

 単にため込んだものを吐き出しておきたいだけなのも分かっていた。

 それなら言わせておくだけで良いのではとも思うが、それがそうでもない。

 適当に返答もしておかないと、更に機嫌が悪くなる。

 そこが面倒くさい所ではあった。

 これが分かるようになるまで結構な時間がかかっている。

 生まれた頃からの付き合いで、物心つく前には一緒にいたから悟る事ができたのかもしれない。

 ヒステリーや癇癪をおこさせないよう、適度にあしらう技術。

 他で活用する機会もなく、応用が利かないこの技術を、おそらくはそれなりに高いレベルで身につける事が出来た。

 残念ながら登録証で見る事が出来る技術にはなってないようだったが。



 そんなわけでアツシはこの日もチトセの憤りの相手をしていた。

 言ってる事は毎度毎度同じで、とりたてて変化も進歩もない。

 解消しようにも仕切れない事だったし、仕事をする上で避けられない事がほとんどだった。

 幸い人間関係の軋轢のようなものはないが、そんな内容なのでこの先消える気配もない。

「本当に、どうにかなんないのかな」

 などと言う言葉に、

「そうだねえ」

 適当な言葉を口にしていく。

 そんなかみ合ってるようで…………いや、そんな事もない会話は、その後も続いていった。



「まあ、そんな調子でしたよ」

 報告に来たアツシは、いつも通りの平坦な調子の声でトオルに伝えた。

「ったく、しょうがねえな」

 苦笑しながらそれを聞く。

 仕事が一緒なのでこうして話しをする機会は多い。

 余裕がある時にはこうして近況報告が出て来る事もあった。

 主にチトセの不満について。

 トオルとアツシの共通の話題はそんなものくらいである。

「ま、言いたい事は分かるけど。

 すぐには無理だな」

「そもそも本気で文句を言ってるわけでもなさそうだし」

「だろうな。

 とにかく何か言ってないと気が済まないんだろう」

「でしょうね。

 よくまあ、あんだけ色々と言うもんだと思いますよ」

「そういうもんなんだろうよ。

 理由なんて多分無いだろうさ」

 井戸端会議のネタは大体が周囲への文句やゴシップネタ。

 そういうのは前世でもこの世界でも大して変わらないらしい。

 何が楽しいのかトオルには分からなかったが。

 ただ、本当に不満や不平があるとも思えない。

 何の気無しに口にしてるだけだろうと予想していた。

 こういうのは気にするだけ損である。

「でもま、言ってる事全部が間違いってわけじゃないしな」

「何とかするつもりで?」

「出来ればね。

 解体っていうか、後方作業に人を増やしたいとは思ってるよ」

 それがなかなか出来ないのがつらい所だった。

「稼ぎが増えないとどうにもならないわな」

「はあ……」

「ま、もっと強いモンスターを倒して、稼ぎをもっと増やせるようになるまでお預けだな」

 冗談めかしてトオルはそう言った。

「それもそうですね」

 アツシも続く。

 それが冗談などではないと理解しながら。

 一団の拡大や稼ぎの増大を考えてる以上、それは避けられない。

「それが出来るようレベルを上げておきますよ」

「そうしてくれ、俺も楽が出来る」

 つとめて軽く言いながら二人は妖犬に向かっていく。

 大量に倒して稼ぎを増やすために。

 それがまたチトセを少しばかり憤らせる事にもなろうが。

 気にしてられなかった。

 やらねば稼ぎは増えない。

(しょうがないよね、こればかりは)

 苦労をかける解体組に胸の中で言い訳をして向かっていく。

 今日の日銭を稼ぐ為に。



 その日の夜。

 やはりアツシはチトセの愚痴に付き合う事となった。

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