レベル141-1 そうまでしてこちらに来たかったのでしょうかね?
「まさかなあ……」
予想外の出来事が起こっていた。
聞かされてなかっただけで既定事項だったかもしれない。
それにしても、こうなるとは思っていなかった。
「どうすんだろ」
どうする事も出来ない事柄ながら心配してしまう。
やってきた兵士見習い達をサトシ達が捌いてる中、トオルは領主の館を見上げて呆然としていた。
兵士見習いが到着する予定であるというその日。
駅馬車でやってくるという彼らを迎えるために、執事と使用人が駅まで迎えに行っていた。
トオル達も彼らの受け入れのために館で待機していた。
そんな彼らの目に、おかしな物が飛び込んできた。
こんな所では滅多にお目にかかれない、箱形の馬車である。
後ろにもう一台別の馬車を伴ってあらわれたそれは、館の前で止まると貴婦人が下りてきた。
ゴテゴテとした装飾はないものの、素材の上等さを伺わせる衣服に身を包んでいる。
唖然とするトオル達の前に、もう一台の馬車から降りてきた一団が彼女の周囲にそれとなく立っていった。
どうも護衛らしく、軽装ながら防具と武器を手にしている。
何が起こってるのか、と思ってるうちに彼女と一緒の馬車から出てきた女中らしき者が館の中に入っていく。
それから数分、メイド長が出て来て貴婦人に恭しく挨拶を。
何事か言葉を交わしてから、館の中へと消えていった。
「…………どゆ事?」
そう漏らしたトオルは、その場に残った護衛達と館を交互に見てしまった。
その後兵士見習い達の到着もあり、その事にかまけてるわけにもいかなくなった。
新しく出来上がったもう一つの小屋に案内していく。
当初の予定通りである二十人という人数はさすがに入りきらない。
なので一部はトオル達の一団の新人達と同居する事になる。
問題が起きる可能性もあるが、場所がないから仕方がない。
何の気休めにもならないだろうが、トオルもそちらに寝泊まりして監視をする事にした。
ありがたい事に、新人冒険者達の教育も順調に進んでおり、それほど手はかからない。
それでも、これからの三ヶ月は妖犬退治を休む事になる。
さすがに二人三人で二十人を相手に教育が出来るとは思っていなかった。
一団全員で一丸となって新人にあたる。
それでも三ヶ月も過ぎればやり方をおぼえるだろうし、それからは少数の担当者を残して元の作業に戻るつもりだった。
この期間、開拓開墾の方で妖ネズミ退治をしてる者以外は、兵士見習いの付き添いとなる。
妖犬相手では人数が足りなくなるからやむを得ないが、それ以外にも理由はあった。
この先、新人を何度も受け入れていく事になる。
その度に教育や訓練が必要になる。
それをいつまでもサトシとレンに任せておくわけにもいかなかった。
教官として誰かをそこに固定しておきたいとは思う。
それでも、とりあえず全員にある程度やり方をおぼえてもらいたかった。
最初の教育を受け持つ事にならなくても、新しく来た者達にどう接していくのかは身につけてもらわねば困る。
今回はそれをする良い機会ととらえていた。
負担は大きいが、やるしかなかった。
早いうちにやっておかないと、今後に響いていく。
荷物を下ろして新人達を集める。
ざっと見渡してみるが、若い者ばかりだった。
大半が十代と思われる。
幾分年齢が上と思える者もいるが、それにしたって二十代の前半であろう。
緊張してるのか顔に強ばりが見える。
不安も多少はあるのだろう。
そんな彼らにトオルは幾つか質問をしていく。
「始める前に幾つか確認をしておきたい。
ここに来る前に訓練とか練習とかはしていたか?」
聞かれた兵士見習い達が顔を見合わせていく。
だが返事は出てこない。
こういった場合の代表者が決まってないのか、誰が返事をするのか迷ってるようでもあった。
「それじゃ、先頭のお前。
────そう、お前だよ。
悪いけど、教えてくれ。
何かしら訓練とかしてたか?」
適当に目の前にいた者に訊ねる。
こういう時はとにかく誰かに決めて話を聞き出すのが早い。
指名された者は「ええっと」と言いながらも答えてくれた。
「少しだけなら。
盾の構え方と剣の振り方と。
あと槍の使い方を」
「なるほど。
他の者は?
同じようなもんか?」
「ええ、多分。
俺達一緒にやってたから」
「どのくらいやってた?
一週間か?
一ヶ月か?」
「それは…………だいたい一週間です」
まあ、大体そんなもんだろうとは思った。
この者達がどうやって集められたかは分からないが、訓練などにそれほど時間や労力を割くとは思えない。
徴用でも募集でも、人を集めれば金がかかる。
日当を多少は払わねばならないし、遠くから集めたらな住まわせる場所も必要になる。
その手間と負担を少しでも減らそうと思うのは当然のことだ。
訓練や練習も形だけのものになるのは仕方がない。
それでも、何もしないようりは随分とよい。
「じゃあ、どういう事をやってたのか知りたい。
全員、それを見せてくれ」
知らなければどうにもならない。
一度荷物として持ってきた武器を持ってきてもらい、再度集合。
それから間隔を開けて訓練した事を見せてもらう。
といっても単純なものだった。
盾を前に構えて左半身を前にする、いわゆる左半身から剣を振りおろすというもの。
それを何度も繰り返している。
振りおろした剣を切り返して切り上げもするが、動きとしてはそれで全てのようだった。
槍も似たようなもので、腰溜めに構えたところから前に突き出すという基本的な動作の繰り返しである。
とはいえ、それに文句はない。
単純な動作であっても、理にかなっている。
ただ、即席で訓練したのも確かであろう。
動きに無駄が多いし、まだ慣れてないのがよく分かる。
全く何も知らないよりは随分と良い、というのが彼らの状態だった。
「なるほど、よく分かった」
そう言ってトオルは見習い達を止めた。
「基本的な事は分かってるようだから、それは今後も暇を見て続けてくれ。
大事な事だから」
形としてみれば申し分ない。
兵士としては大事な内容だろうとも思う。
「あとはモンスター相手のやり方をおぼえていってくれ。
それはこっちで教える。
ただ、やり方をおぼえるのと、上手にこなせるようになるのは別だ。
方法はすぐにおぼえられるだろうけど、レベルが上がって手際よく出来るようになるまで時間はかかる。
それも理解してくれ」
見習い達の間でざわめきが起こる。
彼らも彼らなりに色々考えてるのだろう。
小さなやりとりがそこかしこで起こっている。
悪くはない。
彼らなりに色々考え、それを伝えあってるのだから。
それでも、そんな彼らを一喝する。
「返事!」
大声に見習い達が驚く。
すぐに「あっ!」という顔になって「は、はい!」と声をあげた。
「うん、それは大事だから。
隣の奴と相談する前にやるように。
分かったか?」
「はい!」
今度はすぐにきた。
ただ、
「声がばらついてるし、少しばかり小さい。
そこも注意していくように」
細かな事ではあるだろうが、そういう事もしっかり出来るようになってもらう事にする。
意外とこういう事が大事だったりするので。
体感的なものだが、こういった事が出来るのと出来ないのとでは、全体のまとまりや効率に関わってくる。
「ま、それはここまでにして。
モンスターとやりあうのは明日からだ。
今日はこれで終わりだ。
荷物を部屋に戻してこい。
夕方のメシまで細かい所を案内する」
見習い受け入れはそんな形で始まった。
続きを20:00に投稿予定




