レベル135 計略や謀略は時に自分にはねかえるという事でしょうか
しかし世の中というのは面白いもので、思いがけない事が思いがけない経緯でやってくる。
収穫を終え、トモノリの館の倉庫に収穫した作物が治められて幾らか経った頃。
予想外の事をトオルは聞く事になる。
「援助ですか?」
「ああ、一族の方からな。
多少の資金援助をしてくれるそうだ」
浮かない顔でトモノリは言う。
「これで借金もいくらか片付ける事が出来る。
館も幾らか拡大して、使用人を増やす事もな」
「それはおめでとうございます」
すばらしい話である。
ただ、一つ疑問があった。
「でも、それを俺に話してもいいんですか?
部外者なのに」
「それもそうなんだが、少しは関係してくるからな」
「と言うと?」
「こちらの部屋を増やすから、その分人を入れられる。
君の方で人を増やしても、幾らかは受け入れられる」
「それはありがたいです」
朗報だった。
「でも、どうしていきなり。
一族の方々が今まで何かしてくれてたって訳でもないようですが」
「それなんだがな……」
困った顔をしてトモノリはため息を吐いた。
「ま、色々あってな。
ある条件で援助すると言ってきて」
「はあ……」
何かしらの策略かなのかと思った。
貴族ともなると、一族内でもそういった事があるのかと。
「……私に再婚を持ちかけてきた」
答えは意外なものだった。
「それが援助の条件だと」
「…………はい?」
「なんでまたそんな」
「まあ、前のと離婚もしたし。
そこを狙ったのかもしれん」
「でも、それだったら今まで何も言ってこなかったのが不可解ですが」
「その通り。
助ける気があるなら、もっと早く話しを持ってきても良かった」
つまり、今回の援助にはそれなりの思惑があるのだろう。
「何があったんです?」
答えが聞けるかどうかは分からないが、質問はしてみた。
事情が聞ければ儲けもの程度に思って。
「おそらくだが、開墾を始めたからかもしれん」
「それが理由ですか?」
「多分な。
新しく田畑を拡げるなんてなかなか無いからな。
そうでなくても、モンスター退治で上がる収益もある。
前より多少は収益が上がってるし、それをどこからか聞いたんだろう」
「それで接近してきたって事ですか」
「あくまで予想だ」
そう言いつつも、確信を抱いてるように見えた。
「うちに踏み込む理由が欲しかったんだろうさ」
その為の結婚というなら、確かに打算と思惑がらみである。
とんでもない女に引っかき回された、かわいそうな一族に同情してというわけではないようである。
「それにしても、いきなりですね」
「ああ。
欲しいのは君に嫁ぐ相手なんだがな」
「…………まだ言ってんですか?」
「当たり前だろ。
諦めたつもりはないからな」
そこをトモノリははっきりと告げた。
「ただ、やぶ蛇になったかもしれん」
「何がですか?」
「君に見合う者がいないか打診をしてたんだが。
それより先にお前の方をどうにかしろって言われてね」
それで再婚相手をよこされたらしい。
確かにやぶ蛇である。
「それで君のことを幾らか話したしな。
うちの税収が上がった理由もそれで分かったようだ」
色々と余計な事が起こってるようだった。
バレて困るような事ではないが、あちこちに情報が流れてる事だろう。
「そんなわけで、再婚する事になるかもしれん。
で、それが援助の条件でもあるわけだ」
再びため息が漏れた。
「でも、ろくでもない相手じゃなければ良い話なんじゃ?」
例え打算と損得勘定と今後の影響力を考えての事であってもだ。
貴族なら、人付き合いもそれを踏まえての事だろう…………と考えるのはいささか偏見が過ぎるかもしれないが。
「確かにな。
ただ、あちらの影響を受けるだろうし、それは厄介でな。
どうしたもんかと」
それはトオルが懸念した事そのものだった。
まさかトモノリが同じ境遇に陥るとは思わなかった。
「まあ、それで聞いておきたかった。
この話しを受ければ、うちは助かるし、君にもそれなりの恩恵が及ぶ。
参考意見として思ってる事を聞かせてもらえればとね」
「だったら断りますよ」
即答だった。
「面倒な条件つけてくるってのが何ですし。
一時的な援助で、一生ものの結婚を迫るのもどうかと思いますし。
どちらか一つならともかく」
我が身を振り返っての事である。
「それに、相手がどんな人かも分からないですし。
よっぽど良い人じゃないとこの先やっていけないと思います」
「確かにな。
前の奴がああだったしな」
トモノリの言葉にも実感がこもっていた。
「それに今後も指図を受けたりするなら、変な関係を作らない方がいいと思いますよ。
一時的に利益があっても」
継続的な損害は利益を食いつぶしていく。
だからこそ、迂闊に誘いに乗るわけにはいかなかった。
「残念ですけど、今後の事を考えたら断った方がいいかもしれないですね」
それがトオルの意見だった。




