41 10000対2
「オオオオオオォーーーッ!!」
セリアスは雄叫びをあげながら敵兵たちに肉薄し、剣を、鎧を、そして命を次々と断っていく。
時には敵兵の喉を一突きに、時には頭から股下までを唐竹に。
セリアスが剣を振るうたびに鮮血が飛びかい、彼女が身にまとう真っ白な鎧を赤く染めていった。
セリアス・アルファウト、彼女は武門の名家に生まれた女である。
彼女の両親は決して強制はしなかったが、武門の女としてセリアスは、幼き頃より花ではなく剣を取ることを選んだ。
その優れた容姿を活かせばもっと別の、華やかな道を歩むこともできたであろう。
しかし、彼女が幼いながらも持ち合わせていた武門の名家としての誇りが、それを良しとしなかったのだ。
ゆえに彼女は、幼き頃より剣の道を脇目も振らず歩んできた。
白魚のようであった自身の手が、無骨でゴツゴツとした戦士の手に変わっていくことにも構わず、むしろそれに喜びを感じながら剣を振るってきたのだ。
自身が選んだ道が正しかったのかどうかは、神ならぬ身である彼女にとって分かるはずもない。
ただ、今この瞬間だけは、胸を張って彼女はこう言うだろう
『私の選んだ道は、間違ってはいなかった』――と。
何故なら、あの日々があったからこそ、彼女はまだこの場所に立っていられる。
おびただしいまでの白刃の波にさらされながらも、しかしまだ自身の命脈を保っていられているからだ。
とはいえ、それは彼女自身の力だけによるものではなく、彼女の持つ伝説の武具の力によるところが大きい。
しかし、決してそれだけではないことを、他ならぬ彼女が振るう剣こそが物語っていた。
セリアスは、自身がこれまでに積み上げてきた技を、そして歩んできた人生を剣に乗せ、舞い踊るかのように表現する。
今この時、この場所こそが彼女にとっての舞踏会。
セリアス・アルファウト――彼女は今、血と汗と土埃にまみれながらも、なお戦場に美しく咲き誇っていた。
※ ※ ※
「かかってくんべやあああーーーっ!!」
タゴサクが吠える。
空気がビリビリと震え、敵兵たちはたじろいだ。
これはタゴサクが手入れた力の一端か?
否、断じて否である。
タゴサクが手入れた力は、決してこの程度のものではない。
これはただの人間の力だ。
一人の老人が繰り出した、ただの咆哮に過ぎない。
しかしながら敵兵たちは、圧倒的窮地にあってなお『かかってこい』と己が意思を張り上げる、タゴサクの気骨と気迫に気圧されたのだ。
「こねぇならこっちから行くべぇっ!!」
タゴサクは愛用のクワを振りかぶり、敵兵たちを薙ぎ倒す。
それは型も何もなく(まあ、実際クワに型も何もないのだが)ただ力任せに振るわれるだけのものであった。
しかし、その力が、膂力が尋常なものではないのだ。
タゴサクが一振りするだけで、数人の敵兵たちがまとめて吹き飛ばされる。
鎧を着込んだ屈強な兵士たちが、みすぼらしい格好をした小柄な老人に次々と薙ぎ倒されていく。
端から見ると、それはたちの悪い冗談だとしか思えない光景であった。
「ええいっ、たった二人を相手に何を手こずっているのだ! さっさと殺せぇーーーっ!!」
ミルディンの怒声が響く。
彼はいつの間にか安全な後方に退避しており、しかもいつでも逃げ出せるようにか、馬に乗って戦場を俯瞰していた。
腹立たしいことに、この時ばかりはミルディンの言葉は正しい。
彼我の戦力差は、一万対二。
本来であれば戦闘と呼べる代物にすらならず、一方的な蹂躙だけが行われるはずなのだ。
それでもなおここまで食い下がられているのは、セリアスとタゴサクが自身の命を削りながらも必死の抵抗を続けているからに他ならない。
しかし、悲しいかな、そんな無茶がいつまでも続くわけがないのだ。
これより暫くののち、セリアスとタゴサクの快進撃は止まることとなる。




