42 10000対2②
「ハァ……ハァ……ッ!!」
荒い息遣いと共にセリアスは肩で息をする。
既に体力は底を尽き、もはや気力だけで立っている状態であった。
「こ、こりゃ……年寄りには……こたえんべ……!」
タゴサクもセリアスと背中を合わせた状態で、息も絶え絶えながらに呟く。
彼の言い分はもっともで、この状況は高齢者であるタゴサクにとって、いささかに辛いものがあるだろう。
とはいえ、彼らが置かれておる状況――四方八方を敵兵に囲まれ、倒しても倒しても雨後のタケノコのように敵兵が生えてくるこの状況では、年寄りだろうが若者だろうが、それは些細な違いでしかなかった。
そう、この状況は敵兵たちが、強大な力を持った二人、セリアスとタゴサクに対抗するために作り出したものだ。
と言っても彼らのやったことは、そう難しいことではない。
要は“囲んで叩く”、それだけである。
単純、ゆえに効果的。
セリアスとタゴサクが、如何に強大な力を持っていようとも所詮は人間の身。
こうも立て続けに四方八方から襲いかかられては、いつかは致命傷を、そうでなくともいずれ体力が尽きてしまうことになるのは当然の話であった。
かくして敵兵たちの目論見通りに事は運び、セリアスたちは致命傷こそまだ受けていないものの、体力を根こそぎ奪われてしまう結果となったのである。
「クハハハハッ!! やはり威勢がいいのは最初だけだったな、女ぁ!!」
ミルディンの耳障りな笑い声が戦場に響き渡る。
何か言い返してやりたいところではあったが、仮に何を言ったとしてもセリアスたちが絶対的窮地にいることに代わりはないのだ。
ならば、たとえ僅かであっても貴重な体力をそんなことで消耗できぬと、セリアスは反論したい衝動をグッと堪える。
状況は四方八方を敵に囲まれ絶望的。
しかしセリアスは、このような状況下にあってもまだ希望を捨ててはいなかった。
セリアスは、これまでにかなりの数の敵兵を仕留めている。
敵とて被害は甚大なはずなのだ。
とは言っても、仕留めた数をそこまで正確に数えていたわけではない。
数が五十を越えた辺りから数えるのが億劫になり始め、百を越えたであろう頃には既に数えるのを止めていた。
あれからどれほどの敵兵を仕留めただろうかと、セリアスは己の戦果を思い出す。
二百? 三百……は少し微妙か。
おそらくタゴサクが仕留めた数も同程度であろう。
ということは、だ。
セリアスたちは、およそ四百から五百もの敵兵を、たった二人で仕留めたことになる。
これは尋常ではない戦果である。
これだけの損害をこうむったとあらば敵も――
と、そこまで考えて、セリアスはふとあることに気付く。
(ハ、ハハ……なんだ、まだ一割にすら届いていないではないか……)
それは残酷な現実であった。
これだけやったのだ、あと少し踏ん張れば活路を見いだせる――セリアスはそう思い込むことで自身を奮い立たせていた。
しかし、セリアスは思い出す。
今自身の前に立ち塞がっているのは、総勢一万からなる大軍勢。
ゆえに、たかだか五百人程度を仕留めた程度では活路を見いだすなど夢のまた夢であることに、セリアスは気付いてしまったのだ。
(ここまで、か……)
抱いていた希望の灯火が掻き消えてしまい、セリアスの瞳から生気が失われていく。
こうなることは最初から分かっていたことだと、どうにもならない現実を前にしてセリアスの心は折れてしまう――かに思われたその時。
「……オ、オラが“とっぱこう”をつくっからっ……嬢ちゃんは、そっから逃げろ……!」
未だ息が整わぬ様子のタゴサクから、そんな提案がなされたのであった。




