表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/63

40 徒花

「――まあ、それも彼ららしいと言えばらしいか」


 諦めという成分が多分に含まれたため息をつきながら、セリアスはそんなことを呟く。

 結局、彼らには最後まで振り回されっぱなしだったなと、少し悔しく、少し愉快という複雑な気分になるセリアスであった。


「さて……」


 居住まいを正し、ミルディンを見据えるセリアス。

 大声を張り上げたためか、気分は随分とスッキリしていた。


「――とんだ邪魔が入りましたが、先ほどの続きといきましょうか、ミルディン殿?」


 セリアスは、再びムラサメブレードの切っ先をミルディンへと向けて、そう告げる。

 彼女の言う続きとは、もちろん決闘のことだ。


 多少の邪魔は入ったものの、決闘自体はまだ終わったわけではない。

 そう、まだ続行中なのだ。


 だと言うのにミルディンは、まるで兵士たちを壁に見立てるかのようにして、自身の周囲に配置させていた。

 ミルディンにとってそれは、自身の守るための鉄壁の陣を敷いたつもりなのだろう。


 しかし、セリアスはその様を見て、『まるで愚かな獣が檻に囚われているようだ』なんてことを思うのであった。


「……私としては、約束通りこのまま引き返していただけるとありがたいのですが」


 無駄とは思いつつ、それでもセリアスは言葉を紡ぐ。

 そしてセリアスは祈った。


 ミルディンがどれほど粗暴、かつ“傲慢”な男であろうとも、戦士としての矜持や騎士道精神――いや、そこまで立派なものでなくともいい。

 約束をたがえてはならぬという、人として当たり前の、最低限の心を持ち合わせていることを、神に祈ったのだ。


 しかし――


「な、なにをしている! 敵は目の前だぞ、かかれぇーーーっ!!」


 ミルディンの無慈悲な号令が戦場に響き渡る。

 セリアスの祈りも虚しく、結局ミルディンが取った行動は事実の隠蔽と抹消であった。


 つまりは、セリアスとタゴサクを亡きものにすることで、決闘を行ったという事実を隠蔽し、自身の敗北を無かったことにしようというのだ。


「やはり、か……」


 十中八九こうなるだろうと予想していたセリアスは、さほど落胆することなく目の前の現実を受け入れる。

 しかし、最後の瞬間まで“人間”というものを信じていたかった彼女とって、やるせなさが募る結果となってしまったのも確かであった。


「ま、しゃーねーべ。約束を破るような“あくとう”ってのは、どこにでもいるもんだ」


 セリアスの心情をおもんばかってか、タゴサクが気遣うようにして彼女に声をかける。

 死地にありながら、なお他人を気遣うことが出来る男。

 ミルディンのような男もいれば、タゴサクのような男もいるのだと、セリアスは救われたかのような気持ちになった。


「んじゃまぁ、オラは行くべ。でもよ、嬢ちゃんはなるべく死ぬんじゃねーぞ?」


 そう言ってタゴサクは、愛用のクワを担いで死地へと駆け出す。

 最後の最後まで他人を気遣うその様は、まさに騎士、いや紳士であった


 タゴサクの言葉を受け、セリアスは『それは難しい注文だな』と薄く笑った。

 そして彼に遅れまいと、あとに続く。


 眼前に広がるは、何百、何千という数の敵兵たち。

 しかし、セリアスは、タゴサクは、相手にとって不足なしと立ち向かう。

 たった二人で、万の兵へと立ち向かうのだ。


 それはいったいなんのために?

 決まっている――己が己であるために、だ。


 今、二人の徒花あだばなを咲かせる戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ