十二話 聖女の質問
突然の問いかけにヴィリスは思わず息をのんだ。
「・・・・なぜそのようなことを?」
「・・・・・最初に貴女の顔を見た時から実はずっと気になっていました。・・・・・私は貴女を知っている。なぜだかは知りませんが、あなたは私が知っている人に顔がそっくりでしたから。・・・・・聞きたくなったんですよね」
顔には出さないように努めたが、ヴィリスは内心で結構驚いていたし、焦ってもいた。まさか早速コトリにばれるなんて思いもしなかった。そして慢心していたのかもしれない。アダルの言う通り、彼女はとても頭が回る。そんな彼女が兄が死んだ事故で一緒に死んだ同級生たちのことを調べないわけがなかったのだ。彼女がヴィリスの前世と接点がなかったとしても、知っているのはおそらくこのため。
「・・・・・会ったことはないと思いますが・・・・」
「・・・・・そうでしたっけ。・・・・・・ああ、そうだ。会ったことはなかったですね。・・・・私が一方的に知っているだけだったかもしれません」
なんとも少し粘り気のあるような返答をされて、少しだけ恐怖を感じてしまう。そしてそのことをすぐに後悔したアダルの顔が脳裏に浮かんだからだ。
「いったい何をおっしゃりたいのか、わかりませんが。おそらく聖女様が思い描いている方と私は別人だと思います」
「・・・・・・そうですか。・・・・残念です。・・・・もしそうだったら面白いと思ったのですが、現実はそううまくいきませんよね」
彼女はわざとらしく息を吐いた後に続きも口からこぼした。
「・・・・もしあなたが転生者ならば。・・・・兄も転生しているかもしれないと思ってしまいました。・・・ですがそんなことはあり得ませんよね」
一気に心臓を握りつぶされるくらいの感覚に襲われる。なんで転生のことを知っているのか。思わず母の方に横目で見るとほほえみを浮かべるだけ。だが目を見ればわかる。おそらく言っていない。ならばなぜその結論に至ることができたのか。前世との顔が似ていたから? それだけでここまで結論を出してしまえるものなのだろうか。
「・・・すいません。変なことを聞いてしまいました」
「い、いえ。こちらこそ力になれずに申し訳ないくらいです」
明らかに今の動揺は観察されていた。それがどのような結果をもたらすかはわからないが、おそらくそれも彼女の判断基準になってしまう。そう思うと先ほどの動揺は明らかに失敗だったということを思い知らされる。
「ヴィリスへの確認はそれだけでよろしかったでしょうか」
「・・・・ええ。今の大体のことはわかりました。・・・・・・・どうやら私の勘違いだったみたいです」
少し含みのありそうな笑みを浮かべながらの返答である。ヴィリスは少しだけ青ざめていたが、もちろんそのこともコトリは把握していただがあえてそこに触れることはしなかった。
「・・・・・・ヴィリス? 大丈夫?」
青ざめているヴィリスに気づいたミリヴァが心配したように声を開けると彼女は少し力がこもっていないようだが、うなづいた。
「大丈夫。問題ないから・・・」
声も少し元気がなかったのは気になったが、おそらくそれ以上は触れてほしくないと察したミリヴァは少し悔しそうにしながらも彼女の意思を尊重して触れなかった。
「・・・・それではこれからのことについて説明いたしますね」
「ええ。よろしくお願いします。召喚された理由や私たちの役目というのは理解していますが、どのように。どの時期に行っていくのかは聞くように言われていたので」
誰に聞いたのかという疑問はだれも口にしない。それくらい周知の事実であるから。
「その説明はわたくしの方で行っていきます」
ゆっくりと手を上げるミリヴァは手元の資料をコトリとアヤカの前にそれぞれ一枚ずつ置いた。
「まずは一週間ほどこの城内にて休養していただきたいのです」
「・・・・・へえ。・・・いいですよ。もてなす気があるだけで十分です」
彼女としてはいきなり力の使い方も分からずに放りだされるかもという可能性も考えていいた。その環境に比べたらずいぶんといい環境に呼ばれたようだ。
「その一週間のうちにいろいろと教えてくれるってことでいいんですかね?」
「いいえ。この先一週間はこの世界に馴染んでもらうべくも受けられる期間です。ですので全力で御もてなしをさせていただきます。・・・・城下の訓練やその他の作法の指導などはこの一週間のうちには設けておりません」
そこでようやくコトリは初めて驚いたような表情を見せた。
「・・・・・・そんなにゆっくりしてていいのかな?」
「いいです。・・・・もちろん状況に応じては多少の前倒しは必要になるかもしれませんが。・・・・・今はまだゆっくりしていてもいい期間ですので」
少しの不安を言いつつも安心させるようなことをいう。
「・・・・全然安心はできないけどね」
「そうですね。そのくらいこの先はどうなるかわからないということを申し上げたかったのです」
頭を下げつつ謝罪の言葉を送る大母竜。それを目にしてコトリは何かをあきらめたように息を吐いた。
「・・・・・わかりました。・・・・十分にその期間は生かしていきますよ。・・・・・アヤカもそれでいいね」
「・・・・うん」
少しだけこの空気管と目の前の者たちに慣れた様子のアヤカは徐々に隠れるのをやめだした。
「その後のことは今教えてくれるんですか? それとも後で?」
「後ほど。正確には休養期間の終わり日の夜にお伝えしたいと思っておりますが。・・・・いかがでしょうか」
「・・・・・それでいいです。・・・・それともう一つ質問してもいいですか?」
「かまいません」
「その期間中はどのように過ごしてもいいんですか? 例えばこの城内の見物や資料を読むなんてことはできるんでしょうか・・・」
質問の内容にミリヴァは少ししかめたような表情をする。どのように答えるのか難しいところであるためだ。だがその悩みは思いのほかあっさりと解決した。
「かまいません」
「母様!」
大母竜があっさりとそれを了承してしまったためである。それを耳にしたミリヴァは思わず声を上げる。
「いいではありませんか。・・・・自由にしていいといったのはこちらなのですから」
「・・・・・それはそうですが・・・」
「知られて困ることなんて存在しません。ですから自由にお調べしてもらっても構いませんよ」
しっかりとした口調でそういうと隣のミリヴァは少しだけ呆れたような表情を見せた。
「・・・・・それでは資料図書室を解放するための許可を取っておきますね」
それでも大母竜の決めたことなのだから反論できないため、しぶしぶといった様子ながらに受け入れた。
「ですが、念のためにミリヴァを護衛としてつけることにします。・・・・いいですね」
「ご安心ください。聖女様方の身の周りのことすべてを補佐することになった時点で護衛もするつもりでいましたので」
間を開けずにミリヴァが返答すると大母竜は何度か頷いた。
「先を見て行動することが出来る。いいことですね」
素直に称賛するとミリヴァも軽く頭を下げた。
「ですのでご安心ください。あらゆる危険があろうともわたくしがお守りいたしますので」
「・・・・・どのくらいの実力なのかは私の方からはわからないですが。・・・・あなたは相当強そうなのはわかりました。そんな方に護衛を頼めるなんてなんて心強いんでしょう」
コトリはミリヴァに対して笑みを浮かべながら感謝の言葉を送る。その笑みを見てヴィリスだけが少しだけ警戒したように観察していた。本心で言っているのか。はたまた計算で言っているのかを図ろうとした。




