十三話 コトリに憶測
夜になりことりとアヤカはお手が割れた部屋の中で寄り添うようにソファの上に座っていた。
「お姉ちゃん」
アヤカが心底震えたような声で姉に問いかける。
「・・・・・なんでこんなことになったのかな・・・」
「・・・・さあね。私にもわからないや」
コトリは妹からの問いかけに対してあっけらかんとしたように答える。
「・・・・心配じゃないの? この世界のこと」
「・・・・心配は心配だね。・・・・私たちのいた世界よりも危険なことなかりだから」
彼女の返答はどこか冷めていた。どうにもアヤカの求める答えを出してくれないようなそんな感覚に襲われる。
「・・・・お姉ちゃんはなんで引き受けたの?」
「・・・・この世界に来ることを?」
アヤカは頷くとまったくの迷いがないような眼でどこか遠くを見つめた。
「面白そうだから。・・・・かな。・・・・あの国はわたしには退屈すぎた」
確かに彼女からしたら退屈だったであろう。だがアヤカはそれだけじゃないという風に考えられた。そうでなければ姉がわざわざ危険な世界に踏み込むとは思えないのだから。
「・・・・そういうアヤカはどうなの? ・・・・別についてこなくてもよかったんだよ。・・・・案内人も言ったたじゃん。一人送れればいいって。・・・なら私だけでも良かった」
コトリは疑問に思っていたことを思わず聞いてしまう。それは彼女がずっと抱いていたものだった。
「・・・・いまのアヤカは相当怖がりだけど。・・・・そんな子がなんでこんな危険な世界に来る気になったの?」
「・・・・・自分を思いだしたかったから」
彼女の中にあるつらい記憶。それはあ親友だと思っていた人物かが実はいじめの主犯だったというもの。それ以来彼女の性格は変わってしまった。以前は明るく、天真爛漫であり、だれでも信じてしまえるほど人が良かった。だが今では目に移ってしまう人物すべてに警戒心と恐怖心を抱いてしまう。過去のいじめはそれだけつらいものであり、信じたくないものだった。だからこのような正確になってしまったのだ。
「・・・・・別にこの世界に来たって前のようにふるまえるわけではないよ。・・・・さっきもそうだっただろ」
少しあきれたように息を吐くと、コトリはアルコールでのどを潤した。
「・・・・それよりお姉ちゃん。・・・・さっきはなんであの人に絡んでいたの?」
「・・・・・あの人? ・・・・ああ、ヴィリスさんにか」
一瞬何のことかと思い少し考えると思い出した。
「・・・・さっき私がいった通りだよ。・・・・あの人が私の知っている人に似ていたから。・・・・それがどうしてなのか聞きたかっただけ」
淡々とした口調で返されるとアヤカは続けて問う。
「・・・・あの人と会ったことがあるってこと?」
「・・・・・似ている人にはね。だけどそれは見かけただけ。だから私は覚えているけど向こうはわたしのことをわからなくても別になんでもない。・・・・のだけどね」
元の世界での。それも十五年も前のことを思い出す。彼女を最初に見かけたのは本当にそのくらいの時期なのだから。
「・・・・その似ている人って。・・・・・お姉ちゃんにとってどんな存在なの?」
アヤカの問いかけにコトリは少しだけ顔を渋める。それは少しだけ難しい話であるのだから。
「・・・・別に私にとってはあんまり関係はないかな。・・・・本当にこの世界に来るまで。・・・・というかさっきのヴィリスって人と会うまで忘れていたくらいだし」
久しぶりに思い出したと言いながら彼女はその時の記憶をきちんと思い出していた。
「・・・・じゃあ、なんでその人のことを覚えていたの?」
「・・・・」
そこで一度コトリは黙ってしまった。そして少し悩むような所作をする。
「・・・・これは言うべきなのか? ・・・・まあ、言ってもいいか。アヤカももう大人に近い年齢だからね」
だがどこか自分を納得させるように言い聞かせるように独り言ちる。
「・・・・・・大丈夫?」
どこか姉がいつもと違うような気がして思わずそのように心配したような声をかけてしまう。
「・・・・問題ないよ」
口ではそうはいっているが、普段通りの見えるその表情からは少しだけ悲しみというものが見えてしまった。
「・・・・辛そうなら、無理に教えてもらわなくてもいいよ」
「・・・・そう。その瞳では私の表情はごまかせていないのか」
コトリは思わずため息を吐いて反省したように顔をうつむけた。
「本当に大丈夫なんだ。・・・・まあ、言っても無駄かもしれなきけどね」
少しだけ笑い声が乾いていた。それを追求しようとしたが小鳥が言葉をつづけたためそれは実行できなかった。
「ヴィリスさんと似た人物を実際に見かけたのは一回だけ。だけどその後何回か写真で見ることになってしまった」
「・・・なんで?」
少し含みのある笑みを浮かべると彼女はまずと前置きをしてから離し始めた。
「前の世界で彼女に似た人物の名前は竜見天梨。年齢は十七歳。家族構成は両親と兄妹がごねイン。兄が二人と妹が二人。彼女はその中の真ん中であり、両親からしたら待望の長女。父親は大手電機メーカーの幹部。母親はその会社の社長の娘で創設者の一族でもある」
「・・・なんでそんなすごい人のことをお姉ちゃんは知っているの?」
家族構成や、家業のことまで調べ上げていて、若干顔を引きつりながら引いている。
「・・・・馬鹿な兄のクラスメイトだったからかな」
少し寂しそうに口にする言葉にアヤカは眼を見開く。
「・・・・そしてあの事故で兄さんと一緒に死んだクラスメイトだったから。・・・・だから頭の片隅に覚えていたんだろうね」
そして続けて語られた言葉にアヤカは何も言葉を返せなかった。それは彼女からしたら触ってはいけない場所だと分かっていたから。
「・・・・・・お兄ちゃんのクラスメイトだったんだ・・・」
それ以上のことを聞けないでいると彼女はあることに気づいた。姉はなぜかその死んだ兄と同じ事故で死んだ人物に似ているヴィリスにしつこいくらいに詰め寄っていた。明らかに困っていたように見えるヴィリスも回答に困るくらいに。それはなぜなのか。今までわからなかった。姉は理由のないことはしない。そのことをアヤカ自身がよくわかっている。
「・・・・じゃあ、なんでその人と似ているってだけでヴィリスさんを詰め寄ったの?」
「・・・・。最初はなんとなくだった。この人の顔知っているなっと思って、何とか記憶を引き出していって、ようやく思い出したくらいだからさ。あんまり関係ないかなって。・・・・だけどね」
どこか含みのある声を発したコトリ。それがアヤカは気になって仕方がない。
「・・・・何かあったの?」
妹の問いかけにコトリは少しだけ考えてしまう。いうべきかどうか。
「・・・・顔がそっくりだけならまだ気のせいかなって思えたんだけどね。・・・・声も一緒。・・・・そして話し方も一緒だっていうのはどうにもおかしい。・・・・そうは思わない?」
「・・・・思うけど。・・・・別に珍しいことでもないでしょ?」
返答に対して肯定するようにうなづく。
「・・・・そうおかしくはないんだよ。他人の空似がそこまで重なることなんて結構あるからね。・・・・・・だけどわたしはどうしても引っかかってしまった。・・・・私が知っている彼女とヴィリスさんが重なりすぎてしまっていることに」
「・・・・・だからあんなに詰め寄っていたんだね」
頷くとコトリは困ったような表情を浮かべて天井を見上げた。
「・・・・・私の見立てでは。・・・・・あれはおそらくこの世界に転生した竜見天梨そのひとだろう」




