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『黒衣の電撃と「無血の制圧」』

そこへ、第一皇子を討ち果たした第3皇子と大将軍の五千が、威圧するように帝都の目と鼻の先へ進軍してきた。

『第3皇子、逆賊を討伐せり。治安維持のため入城せん』

その報に皇太子と皇后は恐怖で顔を蒼白にした。防衛力を失った帝都に第3皇子が入れば、皇太子は完全な傀儡となる。

まさにその時、南門にたどり着いたのは、漆黒の甲冑を纏った第5皇子イリアード率いる、わずか一〇〇騎の騎兵集団であった。

「セレスティア親王、第5皇子イリアードである! 帝都の動乱を聞きつけ、皇帝陛下の御遺体をお守りし、皇太子殿下をお支えするために馳せ参じた!」

凛としたイリアードの声と威風堂々たる姿に、混乱していた門衛は思わず門を開いた。

イリアードの後方、馬上で目を閉じるリゼリアとセシリアの異能が閃く。

『(イリアード様、第3皇子軍は今夜半にも皇宮を制圧する構えです)』 『(帝都内の兵たちへ念話を通じ、イリアード様の純粋な忠義を伝えました。動揺は収まりつつあります)』

「よくやった、二人とも」

イリアードは兵士たちの信望を一瞬で掌握し、壊滅状態の親衛隊と近衛軍の残党を自らの傘下に収めると、勢いそのままに皇宮の謁見の間へ乗り込んだ。

震える皇太子の前で甲冑を響かせて膝を突くイリアード。

「ご安心ください、皇太子殿下。私イリアードは殿下の盾となりましょう。……ただちに第3皇子兄上に対し、『治安はイリアードが掌握したため、軍を収めて撤退せよ』と宣旨をお出しください」

皇后が「五千の大軍が素直に聞くはずが……」と狼狽するが、イリアードは不敵に微笑んだ。

「聞かざるを得ません。帝都の残存勢力を即座に再編して城壁を固めました。これを力ずくで破ろうとすれば、今度は第3皇子ご自身が『第二の逆賊』となります」

妻たちの念話が相次いで届く。

『(第3皇子陣営、電撃的な掌握に激しいショックを受けています)』 『(大将軍が「強行突破は朝敵となる」と第3皇子様を説得し始めました)』

果たして数時間後、名分を失った第3皇子軍は恭順を示し、帝都への強行入城を断念して撤退していった。

わずか一〇〇騎で帝都の危機を無血で制し、皇太子の最大の功臣となった第5皇子イリアード。冬の終わりの風が吹き抜ける宮廷で、玉座の傍らに立つイリアードと密かに微笑む妻たちの姿があった。


登場人物一覧表

* イリアード(第5皇子 / セレスティア親王)

* 18歳。母は身分の低い元宮女だが、己の剣と智謀で北方辺境の反乱を鎮圧してきた叩き上げの将。わずか100騎の親衛隊を率いて帝都の混乱を制し、新皇帝の「帝都元帥」就任要請を辞退して領地セレスティアへ帰還する。

* リゼリア

* 17歳。イリアードの正妻。古代の血脈を引き、広範囲の状況を見通す異能「千里眼(念視)」の能力を持つ。

* セシリア

* 16歳。イリアードの側室。古代の血脈を引き、心で言葉を交わす異能「精神感応(念話)」の能力を持つ。

* 新皇帝(第二皇子 / 元皇太子)アラリック

* 23歳。ヴィンセント皇帝の崩御に伴い即位。正妃(皇后)の出で血統の優位を持つが性格は頼りなく、弟イリアードに強く依存する。

* ヴァルハルト(第一皇子)

* 25歳。西南の豊かな領地を治める。誇り高く自尊心が極めて強い。弟の即位に激怒して私兵5,000を率いて挙兵するが、第3皇子軍の討伐を受けて戦死(あるいは捕縛)し落命する。

* 第三皇子イザーク

* 21歳。帝都郊外に精鋭5,000の正規軍を駐屯させる。叔父の大将軍とともに日和見を決め込み、暴走した第一皇子を討伐して手柄と貸しを作ろうと画策する。

* 第四皇子ロデリック

* 20歳。文官名門の出身だが本人には取り柄がなく、動乱中も後宮の奥深くに潜んで怯えていた。

* 第6皇子

* 15歳。武家出身の母を持つ幼い皇子。自陣営の館で固まって静観していた。

* ヴィンセント

* 大帝国の先代皇帝。絶対の権威として君臨していたが、二月の早朝に突如崩御した。

* 皇后(現・皇太后)

* 新皇帝(第二皇子)の母。同族の有力貴族・文官たちとともに宮廷の権力を握ろうと画策する。

* 大将軍

* 第3皇子の叔父にあたる重鎮。第3皇子とともに精鋭正規軍を率い、第一皇子軍を壊滅させた。

* 帝都近衛軍の将軍

* 八千の近衛軍を率いる野心家。第一皇子に内応して城門を開けようとしたが、第一皇子壊滅の報を受けた自軍の兵士たちの暴動により殺害された。

* 皇帝親衛隊の隊長

* 二千の親衛隊を率い、亡き皇帝への義と皇太子への忠義を貫いて反乱軍(近衛軍)と激闘を繰り広げた。

用語集一覧表

* 帝都ラーナ

* 大帝国の首都。赤瓦の街並みや巨大な城壁、紫宸殿・皇宮を擁する政治の中心地。

* セレスティア領

* 帝都から南東に850キロメートル離れた要衝で、第5皇子イリアードが治める寒風吹き荒ぶ城砦都市。

* 紫宸殿(ししんでん)

* 皇帝の遺体が安置され、また新皇帝の盛大な即位の礼が執り行われた皇宮内の大広間。

* 精神感応(念話)

* セシリアらが使用する古代の血脈の異能。声を出さずに特定の人物や広範囲の兵士の脳内へ直接言葉や意志を届ける能力。

* 千里眼(念視)

* リゼリアらが使用する古代の血脈の異能。遠く離れた場所や帝都周辺・敵陣営の情勢を遠隔で視察する能力。

* 帝都元帥

* 帝都防衛の全権(近衛軍および親衛隊)を統括する実質的な軍事最高幹部の役職。新皇帝からイリアードへ打診されたが辞退された。

* 帝都近衛軍

* 帝都に常駐する8,000人の治安維持部隊。将軍の裏切りや内紛により混乱したが、後にイリアードによって再編・掌握された。

* 皇帝親衛隊

* 皇帝の身辺を守護する2,000人の精鋭部隊。予備兵1,000人を加えて反乱を起こした近衛軍と皇宮内で激戦を繰り広げた。

* 皇太子近衛隊

* 皇太子(新皇帝)を直接護衛する1,000人の直属部隊。

* 二月の動乱

* 皇帝ヴィンセントの崩御を皮切りに、第一皇子の蜂起、近衛軍の内紛、第3皇子の介入、イリアードの100騎での電撃入城を経て収束した一連の覇権争い。


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