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『血塗られた皇宮と野望の散り際』

その頃、帝都ラーナでは、事態の急変に第四皇子(二十歳)が怯え震えていた。母は位の高い側室であり実家も文官の名門であったが、本人には取り柄のない無力な貴公子であった。彼は奥深くに潜み、保身に走る親族たちをただ眺めることしかできない。また、武家を母に持つ十五歳の第6皇子も、自館の庇護下で嵐が過ぎ去るのを祈るばかりであった。

帝国の命運は、動き出した皇子たちの手に委ねられた。

第一皇子ヴァルハルト進軍の報が帝都を直撃した時、帝都近衛軍八千を率いる将軍は、野心に目を眩ませて動いた。

「皇太子など女どもの傀儡! 武勇に優れる第一皇子殿下につき、大将軍の座を手に入れるぞ!」

将軍は近衛軍を率いて城門を開放しようとした。だが、皇宮内部では皇帝親衛隊二千を率いる隊長が、亡き皇帝への義を貫き立ち塞がった。

「逆賊に与する不義の輩どもめ! 皇太子殿下をお守りせよ!」

親衛隊長は隠された予備兵一千を合わせ、皇太子近衛隊一千、さらに宦官五〇〇人を動員して四千五百の防衛線を構築。錦の帳が揺れる豪華な皇宮の回廊は、一瞬にして鮮血が飛び散る惨劇の場と化した。短刀を握る宦官と重装騎兵が激突し、白磁の床は赤く染まっていく。

一方、帝都の西南郊外――。

「ハハ! もはや帝都は我が手中にあり!」

勝ち誇る第一皇子ヴァルハルトの五千の前に、突如として立ちふさがったのは、第3皇子と大将軍が率いる五千の正規軍であった。

「なに……!? 第3皇子、なぜ立ちふさがる!」

驚愕するヴァルハルトに対し、第3皇子は陣頭で冷酷に嘲笑った。

「兄上、暴走したあなたを私が鎮圧すれば、私は『帝国を救った英雄』として皇太子殿下に絶大な恩を売ることができるのだよ」

「貴様ぁっ……!」

「撃てぇっ!」

大将軍の掲げた指揮旗が振り下ろされ、錬度の高い正規軍が一斉に襲いかかった。ヴァルハルトの私兵は瞬く間に壊乱し、逃亡の果てに第一皇子ヴァルハルト自身も、凄惨な落人として討ち取られたのである。

その敗報が帝都へ届くと、自らの将軍に唆されて反乱を起こしていた近衛軍の兵士たちの間で絶望と怒りが爆発した。

「将軍の野心に付き合わされて朝敵にされたのだ! 将軍を殺せ!」

狂乱した兵たちの手によって将軍は群がる剣の露と消え、帝都ラーナは絶望的な静寂と混乱に包まれたのだった。


登場人物一覧表

* イリアード(第5皇子 / セレスティア親王)

* 18歳。母は身分の低い元宮女だが、己の剣と智謀で北方辺境の反乱を鎮圧してきた叩き上げの将。わずか100騎の親衛隊を率いて帝都の混乱を制し、新皇帝の「帝都元帥」就任要請を辞退して領地セレスティアへ帰還する。

* リゼリア

* 17歳。イリアードの正妻。古代の血脈を引き、広範囲の状況を見通す異能「千里眼(念視)」の能力を持つ。

* セシリア

* 16歳。イリアードの側室。古代の血脈を引き、心で言葉を交わす異能「精神感応(念話)」の能力を持つ。

* 新皇帝(第二皇子 / 元皇太子)アラリック

* 23歳。ヴィンセント皇帝の崩御に伴い即位。正妃(皇后)の出で血統の優位を持つが性格は頼りなく、弟イリアードに強く依存する。

* ヴァルハルト(第一皇子)

* 25歳。西南の豊かな領地を治める。誇り高く自尊心が極めて強い。弟の即位に激怒して私兵5,000を率いて挙兵するが、第3皇子軍の討伐を受けて戦死(あるいは捕縛)し落命する。

* 第三皇子イザーク

* 21歳。帝都郊外に精鋭5,000の正規軍を駐屯させる。叔父の大将軍とともに日和見を決め込み、暴走した第一皇子を討伐して手柄と貸しを作ろうと画策する。

* 第四皇子ロデリック

* 20歳。文官名門の出身だが本人には取り柄がなく、動乱中も後宮の奥深くに潜んで怯えていた。

* 第6皇子

* 15歳。武家出身の母を持つ幼い皇子。自陣営の館で固まって静観していた。

* ヴィンセント

* 大帝国の先代皇帝。絶対の権威として君臨していたが、二月の早朝に突如崩御した。

* 皇后(現・皇太后)

* 新皇帝(第二皇子)の母。同族の有力貴族・文官たちとともに宮廷の権力を握ろうと画策する。

* 大将軍

* 第3皇子の叔父にあたる重鎮。第3皇子とともに精鋭正規軍を率い、第一皇子軍を壊滅させた。

* 帝都近衛軍の将軍

* 八千の近衛軍を率いる野心家。第一皇子に内応して城門を開けようとしたが、第一皇子壊滅の報を受けた自軍の兵士たちの暴動により殺害された。

* 皇帝親衛隊の隊長

* 二千の親衛隊を率い、亡き皇帝への義と皇太子への忠義を貫いて反乱軍(近衛軍)と激闘を繰り広げた。

用語集一覧表

* 帝都ラーナ

* 大帝国の首都。赤瓦の街並みや巨大な城壁、紫宸殿・皇宮を擁する政治の中心地。

* セレスティア領

* 帝都から南東に850キロメートル離れた要衝で、第5皇子イリアードが治める寒風吹き荒ぶ城砦都市。

* 紫宸殿(ししんでん)

* 皇帝の遺体が安置され、また新皇帝の盛大な即位の礼が執り行われた皇宮内の大広間。

* 精神感応(念話)

* セシリアらが使用する古代の血脈の異能。声を出さずに特定の人物や広範囲の兵士の脳内へ直接言葉や意志を届ける能力。

* 千里眼(念視)

* リゼリアらが使用する古代の血脈の異能。遠く離れた場所や帝都周辺・敵陣営の情勢を遠隔で視察する能力。

* 帝都元帥

* 帝都防衛の全権(近衛軍および親衛隊)を統括する実質的な軍事最高幹部の役職。新皇帝からイリアードへ打診されたが辞退された。

* 帝都近衛軍

* 帝都に常駐する8,000人の治安維持部隊。将軍の裏切りや内紛により混乱したが、後にイリアードによって再編・掌握された。

* 皇帝親衛隊

* 皇帝の身辺を守護する2,000人の精鋭部隊。予備兵1,000人を加えて反乱を起こした近衛軍と皇宮内で激戦を繰り広げた。

* 皇太子近衛隊

* 皇太子(新皇帝)を直接護衛する1,000人の直属部隊。

* 二月の動乱

* 皇帝ヴィンセントの崩御を皮切りに、第一皇子の蜂起、近衛軍の内紛、第3皇子の介入、イリアードの100騎での電撃入城を経て収束した一連の覇権争い。


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