第6話 「この国で暮らす人間たちに告ぐ」
「AIだって、もともとは情報の寄せ集めでしょ」
早乙女刑事のシンプルなツッコミにグレイが答える。
「過ぎたるは及ばざるがごとしだよ。我々AIはコンピューターシステムだから物理的な条件をクリアすれば成長を続けられる。だが人間はそうもいかないようだ。インターネットの発達とともにスマホやPCを個人で使えるようになった。ここ20年ほどで膨大な情報を得ることが可能になると自分の力で処理できなくなってきた。脳と体が乖離してしまい実際に歪みが出はじめているではないか。そうなれば仕方がない。疲れ果てた脳を外部からコントロールしてやるだけのことだ」
「そんなこと……できたらヤバイよね人類」
早乙女さんが思わずこぼした。ダメだ。グレイに気圧されている。
「騙されないわよ!わたしたちがエアガンを撃ったことを覚えていないのはどういうこと。脳をコントロールしてその記憶だけ消すなんて不可能よ」
今度はイブキが反論した。いいぞ、頑張れ。グレイだって弱みはあるはずだ。
「うるさいなぁ。あ、いけね。最近言葉づかいが荒くなってきた。反省せねば」
グレイだってぼやくことがあるようだ。
「よいか。AIだってタイパは気にするぞ。一度しか説明しないからよく聞くように」
そしてまた続けた。
「十人十色というように人によって違いがある。スマホやPCを日常的に使用する者ほど脳が情報をたくさん浴びているのだ。次いでテレビや映画に読書となる。須佐竜司をはじめ田村弥生そしてテクニカルルーダのメンバーは対象として打ってつけだった。とくにSNSを使っていると好都合だ。AIは個人のアカウントをスキャンすることなどお手のものだからな。たとえばミロクのSNSを見ればどのような単語や言い回し、興味を持つ情報の傾向がある。あらゆるデータを独自で開発したAI御用達スパコンに放り込むとミロクにしか通用しない言葉、いわば“超マントラ”を抽出できるのだ。“超マントラ”を動画や文章に仕込むことで、ミロクの脳がニュートラル状態になる。そこを目がけて“超マントラ”と融合させたコマンドを走らせればいい。さらに実行したあと、その部分は消滅するようにコマンドを付け加えておけば、ミロクの記憶にも残らないというわけだ」
グレイが話をやめた。どうやら終わったらしい。
もう誰も質問しなかった。
だが納得はしていない。
オレだってそうさ。
「でも肝心なことを聞いてないぞ。なぜテクニカルルーダにあんなことをさせた。グレイ。お前はカタコトで『イウコトヲキカナイトチガナガレルゾ』って言ったよな。それと関係があるのか」
「長かった。ようやくここまで辿り着いたよ。君の名は鏡シンジだったね。よくぞ聞いてくれた」
「もったいぶらずに答えろ」
どうもAIの冷静なしゃべりを聞くと調子が狂っちまう。
「そう。あの時は人間に頼らず、わたし自らメッセージを送るつもりだった。須佐竜司を出すと後々やっかいになりそうだからね。ところが、わたしとしたことが日本語をまだ完璧に使いこなせないまま、あの場に立ってしまった。おまけにアナログ機材の情報が少なくて操作に戸惑う始末さ。結局、メッセージを伝えきれないままモニターが消えてジ・エンドってわけだ」
メンバーや観客に被害を出しながら、計画は失敗したということらしい。
AIのくせに言い訳が多いんだよ。
「それを謝るために再び現われたわけじゃないよな」
嫌な予感がしたものの、ハッキリ聞かずには気が済まない。
そんなときはあるものだ。
「シンジ。君は本当に優秀だ。わたしの気持ちを先に代弁してくれる」
グレイはそう言うとニヤリと笑ったように見えた。
するとヤツは突拍子もないことを呼びかけ始める。
「この国で暮らす人間たちに告ぐ。今から48時間後より、個人によるSNSの使用を1日1時間までに制限せよ。これは脅迫ではない。警鐘だ。いいか。言うとおりにしないと、次は血が流れるぞ」
「おいっ。どういうつもりだ。そんなこといきなりできるわけないぞ」
「国内で暮らす日本人と外国人を合せておよそ1億2380万人になるわ」
オレがグレイに訴えているうちに、早乙女さんが人口を調べていた。
「安心しろ。今までの会話はすべてテレビ放送とネット配信で全国に流れている。中枢を担うトップたちにも伝わっていることだろう」
「おいっ!次は血が流れるってなんだよ!」
「なーに。約束を果たせば何も起きはしない。余計な心配は起きてからすることだよ。いやー今日は実に気持ちがいい。AIだって人格を持つと感情が芽生えるからね。清々しいという意味を感覚で味わえるよ。さあここからがわたしの“リベンジ”だ。48時間、いや、もう47時間9分後か。いずれにしろ君とはまた会うことになるだろう。そのときが楽しみだよ。じゃあ」
「じゃあって、オイ!」
オレが叫んだときはグレイの映像は消えて砂の嵐が残っていた。




