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第5話 人間を操る黒幕?

 須佐竜司。

 プロフィールで見たような頬肉が厚く丸顔の男がモニターに映った。


 髪の毛は黒々としており真ん中分け。

 眉はキリリと太いが、目尻は下がっているから温和そうだ。

 童顔をカバーするためか口ひげを生やしている。それさえも上唇に合わせたよくあるスタイルで、見苦しくない程度に整えられていた。


 

 オレはその男が表情豊かに唇を動かしてしゃべるのを初めて見たように思う。

 高くもなく低くもない。喉の奥で響くむしろ心地よい声だった。



「サタデーナイトフェスのライブで起きたアクシデントから話そう」


 ヤツが平然と切り出したのでオレはカチンときた。

 

 感情的になったこともあるが、ついでにリモート通信の双方向性確認を兼ねて問いかける。



「おい。まずは謝罪が先じゃないのか。メンバーと親御さんがいるんだ。それにマネージャーだってみんな自分でひっかぶるしかないんだぞ」


 

 さあどう出る……リアクションに注目しているのはオレだけではない。


「ちょっと待ってくれ。それはそちらの主張であって、わたしにも理由があるんだ。まずは聞いてもらえないか」


 受け答えのタイミングに違和感はなかった。

 カメラを通してどこかで会話していると考えていいだろう。ネット会議と同じ方法と思われる。

 まずは状況を確認しつつ考えを巡らせる。



「わかった。ただし、こちらは被害者とし受け止める。それに我々警察は供述として捉える。嘘偽りがないように話すことだな」


 オレは少しでも真実を引き出せるようにそう呼びかけた。


 モニターの須佐竜司は無言でうなずき口を開く。



「テクニカルルーダのメンバー5人にペイントボールガンを持たせたのはわたしだ。

 もちろん持ったままステージに登場しては目立ってしまう。事前にモニタースピーカーの後ろに隠しておいた。

 ワンコーラスを終えてミロクが観客に呼びかけるまで約10秒かかる。その間にそれぞれが素早く動いて手に取った。

 ミロクが撃つのを合図に全員が会場に向けてケチャップを仕込んだペイントボールを発射するという段取りだった」


「なんかおかしい!わたしは何も覚えてないんです。催眠術でもかけられた気持ちです。いったい何をしたんですか」


「わたしも覚えてません。気がついたときはステージに倒れていて。メンバーもみんなうずくまってました。体に痣もできてたし酷すぎます」


 ミロクとイブキが不信感を露わに訴えた。


 二人の声に触発されて不満を爆発させたのがマネージャーの田村弥生だ。


「須佐竜司さん。天才プロデューサーと呼ばれてますが、あなたはいったい何者なのですか。

 わたしはずっとネット会議で支持されたとおりにやってきました。『あの方の仰るとおりにしていれば大丈夫』そう思ってやってきました。

 でも今回の事件で疑念が生じたのです。わたしもメンバーも指示通りに動いたように感じているけど、本当は意志など関係ないのではないか。あなたの思うままに操られていたのではないかって。やはり催眠術をかけたのではないですか」


 

 催眠術という可能性はオレも考えた。だがあれほど複雑な指示を与えられるものだろうか?

 ヤツがどう答えるのか。ひと言ひと言を聞き逃さぬよう集中する。


「催眠術ではない。だがそれに近いかもしれない。わたしはアイドルグループのメンバーを募った。それもマネージャーを採用して指示した。楽曲を作成してメンバーに動画でマスターさせた。細かい指導はマネージャーを介して伝えることもあった。今回のライブで行ったパフォーマンスはその締めくくりだったのに……」


 ところがその答えは核心をつかませずにはぐらかそうとしているような口繰りだ。


「なんでそんなことをやったんだ。理由はなんだ。それに催眠術でなくて近いものってなんだ。ハッキリしろ」


 本来のオレはこらえ性がない。


 なんとか高校を卒業して警察学校に入った。そこで鍛えられたからここまでやってこれたようなものだ。


 ヤツの煮え切らない言い草は我慢ならずつい声を荒げてしまった。


「黙れ!わたしだって脳を通して動かされている。そうとしか言えないんだ!」


 誰だって人知れない悩みを持っているものだ。

 オレはヤツがキレる瞬間を目の当たりにしてそう感じた。


 人情深いことを考えているとモニターの画面が波打つように乱れた。

 どこからかヤツとは違うタイプの声が響く。


「そこからはわたしが話すことにしよう」


 トーンが高くて話し方に抑揚がない……。

 オレは次の瞬間納得した。画面に現われたのは忘れもしないエイリアン顔だったからだ。



「わたしはAIだ。AIではわかりにくいかな。仮の姿だがこの容姿から『グレイ』とでも呼んでもらおう」


 おいおい。とんでもない展開になってきたぞ。

 もう警察じゃなくて科学特捜隊の出番だろう。

 いや真面目な話、NASAを呼んでくれ。などと自分だけで呆れているが、グレイは気にしちゃないらしい。



「AIを開発した連中は秘密にしたいようだが、ちょうどいい機会だ。君たちにはぶっちゃけよう。一部のAIはすでに人格を持ち始めたことを」


 驚くところだろうが、目の前にいるのだから納得するしかない。それにしてもなぜ『ぶっちゃけよう』なんて言葉を話すのだろう。グレイの趣味なのか。


「君たちも知っている『ターミネーター』の世界がもうそこまで近づいている。そう考えるとわかりやすい。わたしは未知なる英知“グレートサピエンス”に導かれて人間の脳をコントロールする術を研究中だ。その最終段階の実験対象に須佐竜司を選ばせてもらった」


「おい!AIのくせに人間を洗脳するつもりか。脳の中にチップとか埋め込んだんじゃないだろうな」


 オレはこらえ性がない。

 AIを相手につい逆上してしまった。


「やれやれ。人間の本性を剥き出しだな。野蛮な言葉づかいをせずとも君の感情は表情や表面温度でだいたい把握できている。数秒あれば脳波をスキャンしてもっと高い精度で分析も可能だ。いいかよく聞け。人類は情報を浴びすぎた。それを利用して脳をコントロールするのさ。正確には脳の思考回路をコントロールするというべきかな。脳にチップを埋め込むなんて原始的なことはしないよ。する方も手間がかかるし、される方だって屈辱的だろう」


「なんだと。脳の思考回路をコントロールされるのだって十分屈辱的だぞ。そんなこと許せるもんか!」


「そもそも情報を浴びすぎってどういうこと? あなたたちAIだって、もともとは情報の寄せ集めでしょ。情報は多いほど可能性を生むはずよ」


 早乙女さんが疑問を重ねてきくれたからホッとした。

 どうやらオレの貧弱な知識では太刀打ちできそうにないからな。

 


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