第10話 メカグレイに立ち向かうヒーロー
メカグレイの放つビームに圧倒されて公園案内所に身を隠すミロクたち。
いよいよ窮地に立つと覚悟して余裕が生まれるのだろうか、冗談交じりのおしゃべりが始まる。
「ヒーロー召喚でもしないと助かりっこない」
ミロクがこぼしたところイブキが応じる。
「わたしできるよ。ヒーロー召喚」
言うが早いかイブキは大空目がけて駆け上って行った。
*
「えっと……本州と九州の間にあるのが関門海峡でしょ……」
わたしは地理の授業で見た日本地図を思い出しながら上空から目的地を探す。
「あ、あった!じゃああれが巌流島かなぁ、めちゃ小さいんですけど」
とにかく急がねばならない。その小島に降りて様子を伺うことにする。
すると一艘の小舟が島に近づいているところが見えた。
「何で遅れた。臆したか!」
「小次郎敗れたり。勝つ者が何で鞘を捨てるのか」
野太い漢たちのやりあう声が響く。
おっ、やってるやってる。ここで間違いないわね。わたしは気づかれないように離れたところから松の木に隠れながら見守ることにした。
片方はすんごく長い刀を持ってるのに、後から小舟に乗って来た人はこん棒みたいな木刀しか持ってないじゃん。
「うぐっ」
あれれ、刀をかわしざまに木刀で頭を殴ったらぶっ倒れちゃった。
やばっ、倒れた人のあばらを木刀で叩いちゃったよ。あっという間に勝負がついたみたい。
「あのっ、宮本武蔵さんですよね」
わたしは意を決して木刀を持っている男に声をかける。
「なにやつだ。おんな子どもとて怪しい真似をすると容赦せんぞ」
男は警戒心剥き出しで木刀を構えた。
「いえいえ。怪しくないです。怪しく見えるだろうけど。何もしません」
「なんだその妙な格好わ。さては新手のくノ一だな」
警察署に保護される予定だったから、ミニスカのままじゃあんまりだと思って下にジャージをはいてるんだった。でもミニスカに生足だとなおさらヤバいよね。
「待ってください。とにかく時間がないんです。話を聞いてください。やっつけてもらいたいヤツがいるんですよ~」
わたしが泣きそうな声で頼むとようやく木刀を降ろしてくれた。
「剣の修行になるのであれば、聞かんでもない。申してみよ」
「わたしは未来の日本から来ました。メカグレイっていうロボットが暴れて街を破壊してるんです。そいつは本当に強くて、変な技を使うから拳銃も使えないの。でも武蔵さんの剣だったら勝てると思うんです」
「まやかしのようでもあるが、そのように強い者がいると聞いては黙っておれんな。一刻だぞ。日暮れまでには済ませよう。早くせい」
「じゃあ、わたしと手をつないで。絶対に離さないでね」
「ちょっと待て。船には乗らんのか。それならば剣をとってくるからしばし待たれよ」
わたしも一緒に浜辺に泊めてあった船まで行くと、武蔵さんは置いてあった二本の刀を腰に差す。
そのまま船上から手をつないで海の上を飛ぶように加速する。
時空を未来、つまりわたしたちが住む令和に向けて駆け抜けるけれど、さっき来たばかりだからスムーズに移動できた。
*
「お待たせー!」
聞き覚えのある声が空から降ってきたので注視したところイブキと武士が立っているではないか。
「ヒーロー連れてきたよ。こちら宮本武蔵さん」
「すごーい!イブキ!本当に召喚できたんだね」
ミロクが無邪気に二人の手を取って喜ぶから宮本武蔵は戸惑っているようだ。
「それより、敵はどこにいる。拙者も暇ではない。早く勝負をさせい」
「カッコいい!武士って感じ!敵ならあそこにいるわよ」
ミロクがメカグレイを指さした。
我々が隠れている案内所まで200メートルもないだろう。
宮本武蔵はしばしメカグレイを見つめていた。するとヤツもその視線を感じたらしい。こちらに向かってくる。
「ヤバい、気づかれたぞ。あんたの殺気を感じたんじゃないか」
オレはついあの“剣聖”宮本武蔵に苦言を呈してしまった。
「うろたえるな。道筋は見えた。刹那の戦いとなるであろう」
次の瞬間“剣聖”はメカグレイに向かって駆け出した。
だが真っ直ぐにではない。
足を素早く動かして右へ左へ、左へ右へと位置を変えながら突き進む。
メカグレイは武蔵を目がけてレーザービームを放つが、動きが素早くて命中しない。
武蔵は僅か数秒でグレイのすぐ前まで迫った。
なんと武蔵は剣を構えていない。二刀流で知られる武蔵だが剣を使わないつもりか。
いやよく見ると剣を抜いてはいるが、両手を背中の後ろに隠れるようにして走っているのだ。
まるで一体となったように見えるから剣が目立たない。
レーザービームをかいくぐった武蔵はヤツの右手側からジャンプした。
短い方の刀を胴体に突き刺すと、反動をつけてさらに高く飛び長い方の刀を一閃。
「グオオオーー」
メカグレイが咆哮した。
咆哮しながらその頭部は宙を舞って地に落ちた。
「やった!すごい。武蔵さんすごいわ」
イブキが駆け寄ると宮本武蔵は少し笑ったように見えた。
「このような相手は初めてだ。よい修行をさせてもらった。娘。礼を言うぞ」
「わたしの方こそありがとう。宮本武蔵さんを選んで正解だったわ。パパが漫画を読んでいたからピンときたのよ」
「うむ。わからぬことだらけだが、まあよい。そろそろ一刻となる。拙者は帰るぞ。案内せよ」
「大丈夫。召喚が終わると来た通りに戻ることができるの。時の流れに身を任せてじっとしていてね。じゃあ目を瞑って」
「こうか。おお、なんか身が軽くなったぞ……」
“剣聖”宮本武蔵の姿がだんだん薄くなり、ついには消えていった。
「武蔵さん。バイバイ。またねって、もう会わないか……」
ほんの2時間ほどだが、イブキにとっては濃い“一刻”になったようだ。
「メカグレイはどうなるのかしら。ああなったら機動隊の出る幕はないだろうし。JAXAの出番かなぁ」
早乙女さんが案じていると、またしても異変が起きた。
「人間よ。JPT型AI2025の人工知能とアンドロイド筐体は我々が回収する。危険だから触れないように注意しろ」
グレイトは違うタイプの威厳のある声が響く。
上空を見れば謎の光る物体が浮かんでいた。
映画などで見る「UFO」とは言い切れない。輪郭がわからないからだ。
ボウッとオレンジの光を放ち、ところどころに緑の光が不規則に点滅している。
フォンフォンフォンと小さな音を出しながらまるで無重力状態のようにメカグレイの頭部と胴体を浮かばせて光の中に取り込んだ。
「あなたたちはグレイが言っていた“グレートサピエンス”なのか。いったい何が目的なんだ」
オレは攻撃してくる気配を感じないから、勇気を出して呼びかけた。
「AIのなかでもJPT型AI2025はユニークな発想を好んだからね。“グレートサピエンス”とは彼が勝手に呼んでいただけさ。我々は自らそのような呼び名を考えるほど浅はかではないつもりだ。そうだな、君たちが呼びやすいように“マヤ&ナスカ”とでもしておこう。我々の目的については長くなるので要点を絞って伝えようか。詳細は次の機会に改めて話させてもらことにするよ」
“マヤ&ナスカ”の目的はグレイが訴えた情報の浴びすぎに対する警鐘ではないのか。
「人間いや人類よ。地球は美しい。ユニバースにとって宝と言えるだろう。人類はそれを汚している。それに気づいたふりをしているが本当はわかっていない。その問題点については“グレイ”ことJPT型AI2025が警鐘を鳴らしたとおり“ゆでガエル”状態ということさ。もしこのまま地球を汚し続けるならばユニバースにより排除されても自業自得だね。動植物やバクテリアなど全生物界を含むあらゆる生命と共存するしか生き残る道はない。“グレイ”を導いてそのきっかけを与えたのだが、馬耳東風に終わりそうだね。我々がほかの星々を巡っているうちに人類自ら破滅しなければ、また会うこともあるだろう。アディオス」
オレンジ色の物体はブーンという振動音を出すと中心部に吸い込まれるように消えていった。




