本当にカッコいい人
あいつ等に”魔法の練習”と称したリンチにあった俺とクリスは、徹底的に痛めつけられた体を起こす事が出来ないまま、一時間ほど地面に寝転がったままでいた。
「……大丈夫? クリストファー君」
「うん、何とか。 ライト君は?」
「僕も大丈夫」
お互いの無事を確認し終わった後、ゆっくりと体を起こす。
「…帰ろう」
「…うん」
この場にいても何かが変わる訳でもないので、二人トボトボと家路に向かって歩き始める。
俺とクリスの学園からの帰り道は、ほとんど同じなので一緒に帰っているけど、この日の帰り道は初めてお互い話す事のない無言の時間が続く。 だけどそんな空気に、いよいよ耐えれなくなってきた俺は
「…あいつ等酷いよな! 僕達が魔法を使えないからって、魔法で攻撃してくるなんてさ」
「……」
「だっだからさ、僕達も魔法を使えるようになって、あいつ等に自慢してやろうぜ」
何とかこのお通夜みたいな空気を変えようと、この時の俺は俺なりに今日リンチしてきたあいつ等を、ぎゃふんと言わせる為の案を出してみたのだが
「…どうやって?」
「え?」
「どうやって魔法覚えるの?」
「えっと…魔法を教えてくれる人を探して…それから…その人に魔法教えてもらおうよ!」
「…僕に…僕に魔法を教えてくれる人なんていないよ」
「そ…そんな事分かんないだろ?」
「分かるよ……だって僕は『要らない子』なんだ。 だから誰も僕に何も教えてくれない。
それに教えてくれる人を見つけたって、ライト君は魔法使えないよね」
「そ、そうかもだけどさ…」
この時クリスは、さっきあいつ等に騙された事に思った以上にショックを受けていた。
なんせ出会てしばらくの間、クリスは何かある度に卑屈になる事が多かったし、立ち直るにそれなりに時間が必要だった時期なので、とにかく前向きに物事を考えようとしないし、言う時はズバッと現実を突き付けてくるので、正直俺にこの頃一番精神的にキツイ事を言ってたのは、クリスだと思う気がするぐらいクリスが俺に現実を突き付けて来る時があった。
そしてクリスに言われた通り、俺は魔法の使えるようになる見込みが、既にゼロだと魔法適性の結果で出てしまっている。
だから俺が幾ら「魔法を使いたいから、先生を雇って」と、父さんや母さんにお願した所で、クリスの言う通り魔法を使えないのだ。 だから俺は魔法で、あいつ等を見返す事なんてそもそも【不可能】だと言われ、俺は何も言えなくなってしまう。
こうして、また俺とクリスの間には無言の気まずい空気が漂う事となり、再び家路を無言でノロノロと重い空気を二人して纏って歩き、家に向かって進んでいると
「誰かー! あの子を! あの子を助けてぇぇぇ!!」
大声で女性が叫んでいるので、何事かと思って女性が叫んだ方を見ると、普段は穏やかな河川敷が、最近頻発していた大雨で水量が増した事で、普段と違う荒れた河川敷に様変わりしていた。
そんな危険な状態の河川敷に向かって叫ぶ女性の視線の先には、俺達より大きい体格だけど、明らかに子供だと分かる子が、必死にこれ以上流されないように岩にしがみ付いている。
「あっあれヤバイよ! 急いで、急いで誰か助けを呼ぼう、クリストファー君」
「う、うん、でっでも……誰を読ぶの?」
そう言われて周囲を見渡すと、その状況を見ていたのは俺達意外に多くの人達がいて、その中には多くの大人がいたし、何なら街の治安警備隊も既に駆けつけていた。
だけど誰もその状況を見守っているだけで誰も動こうと、いや、誰もあの増水した河川に迂闊に入るのは危険だと分かっていたから、助けに行きたくても動けないでいたんだ。
そんな皆がハラハラしながら、子供を見守っている状況の中で、更に事態は悪化する。
「おい! 上からデカい木が流れて来てるぞ!!」
一人がそう叫んだので上流に目をやれば、大きな木が流れて来るのが目に入ると同時に、その木が流れるコースは、その場にいる誰もが見て分かる最悪のコースで、間違いなく岩にしがみ付いている子供の元に流れるコースだった。
「いやぁぁぁぁ!」
その状況を見た母親は、悲痛な叫びを上げながら我が子を助ける為に川に飛び込もうとするけど
「止めろ、アンタまで死にたいのか!」
「でも、でもこのままだとあの子がー!!」
明らかに無謀な行為なので、母親は周囲の人間に取り押さえられる。
そしてそんな母の悲痛な叫びなど無視するかのように、木は川で必死に岩にしがみ付いている子供の元に、勢いを一切殺すことなくどんどん迫る!
そして木が子供の目と鼻の先に迫り、誰もが『もうダメだ』と思ったその時
”ふわり”
と子供の体は宙に浮いた。
そして子供は宙に浮いたまま母親の元に進んで来たので、母親を取り押さえていた人達が、大急ぎで宙に浮いている子をキャッチする。
「レオ!」
「お母さん!」
無事に戻ってきた子供を、母親は手を広げて抱き抱えた。
そんなドラマチックな場面が目の前で起きれば、その場にいる誰もが感動で湧き上がり、皆が子供の無事を称える。 そして皆がその次に称えようとするのは
「誰なんですか? この子を助けてくれた魔導使い様は?」
流されそうになっていた子供を助けたのは、誰が見ても”魔法”だと分かった。 しかも離れた場所にいる子供を浮かせて、母親の元に送り届けるなんて相当高位の魔法だ。
だから誰もが周囲を見渡して、子供を救ったヒーローたる魔法使いを探すのだけど、それらしい人は何処にも見当たらず、結局誰が子供を救ってくれたヒーローなのかは分からなかった。
只一人を覗いて!
「…ねぇ、ライト君」
「えっ、何何?」
「さっき川からあの子を助けた人なんだけど…」
「うん、凄いカッコいいよね! 父さんが言ってたけど『本当にカッコイイ人は、自分が良い事をしてもその事を自慢したりしない』って言ってたんだけど、父さんの言う通りめっちゃカッコイイと思わない? あの子を助けた魔導士さんって?」
「う、うん」
「もし魔法教えてもらえるんなら、あの子を助けてくれた魔法使いみたいな本当にカッコイイ人から教わりたいよな!」
「そ、そうだね」
俺は、父さんが教えてくれた”本当にカッコイイ人”がどんな人なのかこの目で見れた事で、大いに感動し、興奮していた。
だからこの時の俺は、俺なりに必死に今の感動と興奮を友達と分かち合いたかったので、クリスが何かを俺に伝えようとしていた事に気が付く事もなく、クリスに「きっとあの子を助けた魔法使いさんはきっと凄く良い人」だの、あーだとこーだと勝手な理想の熱弁を振舞う。
そして俺の興奮が漸く収まり、熱弁を振るうのが収まったタイミングで、クリスが口にしたのは
「実は…僕分かったんだよ。 誰があの子を助けたのか!」
最後まで読んで頂きありがとうございます。




