英雄を追って
「本当にこっち?」
「うん!」
クリスに先導され、ついさっき子供を助けた魔導士が居ると思われる場所目指して、俺達は走っていた。
ちなみに、あれだけ大勢の人が集まる中、誰も気付けなかった魔法使いに、クリスだけが何故気が付けたのか?
それ関してクリスは
「何か不思議な感じがしたから、どこから感じるのか見てたら、魔法を使ってる人がなんか分かったんだ」
と言っていたけど、あの場にいた誰もが気が付けなかった魔法使いの存在に、気が付けるという事がどれだけ凄い事なのか。 その事をこの時の俺とクリスは良く分かってなかったので、大して気にしないで、とにかくこの時は
【人を助けても名乗り上げる事無く、無言で立ち去るカッコイイ人】
そんな理想のヒーロー像のような人を見つける事に夢中だった。
とにかくクリスの勘を頼りに、ひたすらクリスが指差す方向に進んで行くと。
そしていつの間にか街並みが、普段見慣れた物とは”全く違う物”になっている事に気付かないまま、俺とクリスがいつもと違う街並みの中を走り回って行きついた先は、路地裏の行き止まりだった。
「…誰もいないじゃん」
「で、でも、確かにあの人から感じたのと同じ感じが、ココでするんだよ」
「そう言っても、誰もいないよ? もしかして…嘘?」
「う、嘘じゃないよ! ホントだもん!!」
「でも、誰も居ないじゃん」
「居ないけど、居る感じがするの!」
「だったら何処にいるか教えてよ?」
「えっと…」
「…もう良いよ、さっさとお家に帰ろう!」
珍しく普段はオドオドして主張をしないクリスが、この時は主張を曲げようとしなかった。
でも実際の所本当に誰もいない路地裏の行き止まりで、オマケに俺達が何時も通り町通りに比べたら、明らかに薄汚れた場所だった事もあり、この時の俺は「こんな所に人なんている訳ない」と思っていた。
だからクリスの言う事を信じる気にもなれず、クリスが友達に平気で嘘を付いくだと思って、不機嫌になりながら、来た道を戻ろうとした。
「…ねぇ、どうやって僕達ココに来たんだっけ?」
「…分かんない」
「えっ、冗談だよね?」
「…ホントに分かんない」
ひたすらクリスが感じる”何か”を信じて突っ走ってきたのはいいが、俺達は帰り道が全く分からないことに気が付いてしまったので、さっきまでは希望や期待と言ったプラスに満ちていた感情が、一気逆転して不安と恐怖というマイナスの感情が俺達に走った。
「ど、どうするの? クリストファー君が分かるって言うから来たのに」
「…だって、本当にココにさっきの魔法使いさんが”居る感じ”がするんだもん」
「でも誰も居ないんじゃん! クリストファー君の嘘吐き!! 嘘吐きなんて嫌いだ」
「えっ…ごっごめん、ライト君!」
「ごめんって言うなら、嘘つくなよ!」
「ちっ違うの…嘘じゃ…グス…ないの」
俺はこの時クリスに騙されたと思っていたので、本気でクリスに怒りを向けると、クリスはその事がショックだったから泣き出すが、自分の言う事は嘘じゃないと言っていた。
この時俺はクリスの事を”嘘吐き”だとしか思っていなかったので、嘘を付いているのにまだ嘘を付き続けるクリスに、更なる苛立ちを感じた。
「だったら何処にいるのさ? 魔法使いは!」
「うぇぇん…分かんないよー」
「ほら、やっぱりクリストファー君は嘘吐き」
「うるせぇんだよ! クソガキが!!」
「「!!」」
突然言い争っている俺達の後ろから、怒りの籠った声が聞こえたので、俺とクリスは驚きながら後ろを振り向くと、そこには髪と髭が伸び放題、なおかつ着てる服に纏ってるローブまでボロボロ。 誰が見ても怪しいと思える風貌の男が、いつの間にかソコに立っていた。
そしてその男は俺をきつく睨んでいるので、俺は恐怖を感じてその場で固まってしまう。
「一個だけ教えてやる。 そこの泣きじゃくってるガキの言ってる事は本当だぞ。 クソガキ!」
「えっ?」
「お前が嘘吐き呼ばわりしたガキの言った事は『本当だ』って言ってんだよ!
ったく、これだから目に映るもんしか信じない奴は嫌いなんだ」
当然現れた男は、俺に低く鋭さを感じる声で「クリスの言う事は本当だ」と言ってきた。
「じゃ、じゃあ、お、おじさんは何処にいたんだよ?」
「あぁ!? 誰がおじさんだぁ!?」
「ひ、ひぃっ!」
「俺はまだ30だぞ! ”オジサン”呼ばわりされるような歳じゃねぇ」
「…」
「おい」
「…」
「『おい』 つってんだから返事しろや! クソガキが!!」
「はっ、はい!」
「詫びろ」
「え?」
「まずは隣のガキを嘘吐き呼ばりしたのを詫びろ! 後俺の事を『オジサン』呼ばわりした事もだ!!」
「う…え」
「謝れつってんだろクソガキが! なんだぁ? 最近の貴族のガキは人に悪い事したら『ごめんなさい』って謝る事も知らねーのかよ?」
「うぅ…グスン……えっ…ごっごめんね゛グリストファー君…そ、ぞぉれとぉ、オジザンも…ごめんなさい!」
「だからオジサンじゃねぇ!っって言ってんだろうが!!」
「ご、ごめんざぁーい」
この時の俺は、見知らぬ怪しいオジサ…じゃなくて魔法使いさんに、こっちとしては訳の分からない詫びを入れるように強く言われた事が怖かった俺は、隣で泣きじゃくっているクリスよりワンワン泣き叫びながら、クリスと魔法使いさんに謝った。
その様子を見て魔法使いさんは、頭を抱えて困った様子を見せるが、そんな様子を見せられても、俺はとにかく目の前の怖い魔法使いさんにまた怒られるかもしれない恐怖で、本当はもっと盛大に泣き叫びたいのを必死に我慢し、魔法使いさんが何か言うのを只ひたすら待った。
「はぁー、ったく、これだからクソガキは嫌いなんだよ…それよりそこのお前」
「はっはい」
「お前ガキのクセに大したもんだ。 姿は完全に魔法で消して、魔力も可能な限り感知されないように抑えてたってのに、俺の魔力を感知するなんてよ。
正直ウェザークラスの魔法使いだろうが、本気で身を隠した俺の魔力の残滓なんざ、感じ取れねぇもんなのによ」
「…そうなの?」
「自覚なしかよ! ったく、コレだから才能あるガキは……それで? お前ら何で俺を追いかけて来た?」
「えっと…その、さっき川から子供を助けた魔法使いさんに、魔法を教えてもらおうと思って」
「はぁぁ、その為だけに俺を追ってきたのかよ? …だったら変に警戒してた俺がバカみてぇだろがよぉ」
クリスから俺達が魔法使いさんを追いかけて来た理由を聞くと、魔法使いさんはガックリと項垂れていた。
「はぁ~、変に警戒して損したわ。 オマケに俺に魔法を教わりたい? 馬鹿も馬鹿も休み休み言え! なんで俺がお前らに魔法を教えないと、い・け・な・い・ん・だ・よ!」
「グス…だって、父さんが何かを教わるなら、尊敬できる人から教われって」
「はぁ、お前それ本気で言ってんのか? お前に説教する俺の何処が尊敬できるんだよ?」
「子供を助けた」
「あ”?」
「さっき子供を助けても、その事を誰にも言わなかったのがカッコいいと思った。 父さんが言ってたんだ。 本当にカッコいい人は『良い事したって自慢いしない人』だって」
「だから俺から魔法を教わりたい。ってか?」
「「うん」」
「そうか、だったら見当違いも良い所だぞ、ガキ共! 俺は帰り道を塞ぐ奴らが邪魔だから、あのガキを川から拾い上げただけで、別にあのガキを助けようと思って助けた訳じゃねぇ。
更に言うなら、俺があの場で『自分が助けた』って名乗り出なかったのは、俺は『俺の存在』を誰かに知られたくないからだ。
だから俺は、クソガキの父さんが言うような人間じゃねぇんだよ。
悪いが魔法を覚えたきゃ、他を当たれ! そしてさっさと帰れ!!」
そう言って俺達は魔法使いさんから邪険に扱われ、さっさとこの場から立ち去る様に促されるが、そう言われても俺達は、この場から引き下がれない理由があった。
「ねっねぇ、魔法使いさん!」
「はぁ? まだ何かあんのかよ! ガキ共」
「ひっ、ごっごめんなさい。 でっでも、ぼっ僕達分かんないです…どうやったらお家に……帰れるか」
最後まで読んで頂きありがとうございます。




