気まぐれ魔法使い
「ほら、ちゃっちゃっと歩け!」
「「はっはい!」」
「ったく、勝手に後を付けてきただけならまだしも、帰り道が分からなくなるとか…これだからガキは嫌いなんだよなぁ」
ぶつくさ文句を言いながらも、ガラの悪い魔法使いさんは俺とクリスを送り届けてくれてる。
「おい、ガキ共! そもそもお前らが来た場所がどんな場所か分かってんのか?」
そう言われて、俺もクリスも何も考えずに突っ走っていただけだから、二人で互いに顔を合わせ、表情を見れば
『分かんない』
という表情をしていたので、俺達は揃って首を横に振った。
「…そうだろうと思ったぜ。
いいか、あの場所は数年前まで【最下級地域】って呼ばれてたぐらい治安の悪かった場所の一角だ。
今はある人があの地域のために色々動いてくれたお陰で、昔よりは大分マシになった。
だからと言って、お前らみたいな”自分の身の守り方も分からない貴族のガキ”が、近づいて良い場所じゃねぇんだよ! 分かったか?」
「「はい」」
「だから二度と近づくんじゃねーぞ?」
「「はっはい!」」
この時の俺とクリスは、怪しい身なりでガラの悪い魔法使いさんが、とにかく「怒ってくる怖い人」だとしか思ってなかったので、とにかく言われた事に対して返事を返すのに一生懸命だった。
だけど口調は荒くても、俺がクリスの事を嘘吐きだと間違ったことを言えば、ソレが「間違いだ」と言うためだけに姿を現して俺に説教したり、文句を言いながら帰り道を案内してくれる。
だから、案外この魔法使いさんは「面倒見が良い人」だという事を、この時の俺達は何となくだけど分かっていたから、大人しく言うことに従ったんだと思う。
「ほら、後はこの道をまっすぐ行け! そしたらさっき騒動があった大通りに出る。
後はもう分かるよな?」
「「は、はい。 ありがとうございます」」
「ったく、もう二度とお前等ココに足踏み入れるんじゃねーぞ!」
魔法使いさんは相変わらずキツイ言い方で、俺達に”この場所にはもう来るな”と言った後、再び路地裏の奥に戻ろうとする。
「ま、まって! や、やっぱり僕、魔法使いさんに魔法教わりたい!」
「あぁん?」
なんとクリスが、魔法使いさんに対して再び魔法を教えて欲しいと願い出たのだ!
一方それを聞いた魔法使いさんは、もの凄く不機嫌そうな顔をしつつ
「おい、さっき俺言ったよな?
俺はお前らみたいな貴族のガキ共に、魔法を教える気なんざコレっっっぽっちも無い! ってな」
そう言いながら魔法使いさんは、俺とクリスに親指と人差し指の腹を合わせ、ほんの極僅かな隙間を見せてくる事で、俺達に魔法を教えるつもりは微塵もない事を示してきた。
それでもクリスは
「ぼ、ぼく、さっきの場所とは違うけど…最下級地域で暮らしてたの。
だっ、だから、本当は貴族の子じゃないし」
「…それで?」
「だ、だから、教わるなら貴族なんかより…魔法使いさんに魔法…教わりたい」
この時の俺は、クリスの生い立ちが養子だという事ぐらいはクリスから聞いていたから知っていた。
だけど、まさかさっき薄気味悪いと思った場所で、クリスが以前暮らしていたなんて思いもせず、その事に多少なり衝撃を受けていた。
それにまだこの頃付き合いは短いとはいえ、クリスが”誰かに一生懸命お願いする姿”なんて初めて見たので、クリスは本気で魔法使いさんに"魔法を教わりたい"と思っていることだけは分かった。
「僕からもお願い! どうかクリストファー君だけでもいいから、魔法を教えてください」
だから俺も、一緒になって魔法使いさんに、クリスに魔法を教えてもらえるようにお願いすると
「はぁぁぁ!? お前がクリストファーだと?? おい、銀髪のガキ! お前の姓は?」
俺がクリスの名前を出した途端、今まで全くクリスに関心を見せていなかった魔法使いさんの態度が、明らかに変わり、初めてクリス個人の事について尋ねた。
「え、エーレンブルグ」
「そうか…念の為聞いとく。 母親の名前は?」
「ま、マリア。 マリア・ブレンナーだよ」
「は、ハハは…嘘だろ…こんな事ってあるのかよ」
そう言った後、魔法使いさんは頭を抱えながらしばらく考え込む様子を見せる。 そして考え込むのをやめて「はぁ~」っと大きなため息をついた後。
「…いいだろう」
「え?」
「教えてやるよ。 魔法」
「え、ええ!」
「いいの?」
「ああ…気が変わった。 お前には特別に教えてやる。だから明日からココにこの時間に来い」
突然の魔法使いさんの承諾に、俺とクリスは驚く。
「良かったね。 クリストファー君!」
「う、うん!」
「良かったぁ…うぅぅ」
クリスが魔法使いさんに「魔法を教えてやる」と言われた事は、本気で嬉しかった。
だけど、あくまで教えてもらえるのは"クリスだけ"であって、俺は「自分は教えて貰えない」というのを受け入れきれない。
だから口ではクリスに賛辞を送れても、自分は魔法を教われないし、それどころか使えもしない。
それが悔しかったし、何よりこれから魔法を使えるようになるクリスの事が、羨ましくて仕方がなかった。
そしてその感情を隠すことが出来ないので、涙が自然と溢れ出てしまう。
「はぁ…おい、金髪のクソガキ」
「は、あ゛い」
「お前にも教えてやるよ、魔法。 だからなんだ……その、男ならもう泣くな! みっともねぇ!!」
「え? でっでも…僕魔法教えて貰っても、魔法…使えないんだよ?」
「んなぁ事どうでもいい! とにかくお前も明日からコイツと一緒に俺の所に来い!」
この時魔法使いさんは、悔し涙を流す俺を見て同情してくれたのか? それとも別の意図があったのか? 詳しい理由は教えてくれなかったから、真意は分からない。
だけど、何故か俺にも魔法を教えてやるっと言ってくれた。
「は、はい゛ ありがとうござまず!」
「やったね、ライト君!」
「う、う゛ん」
「ただ覚悟しとけよ?
俺の教え方は、腑抜けで貴族に媚びを売ってるような魔法使いみたいに、生ぬるい教え方はしねぇ!」
魔法使いさんにそう強く言われても、俺とクリスは涙を流しながら”コクリ”と頷く。
そんな俺とクリスの姿を見た魔法使いさんは「もう泣くなよ…」って言いたげな、心底うんざりしたような表情を浮かべていた。
だけどこの時の涙は「魔法を教えてくれる」って言ってくれた事に対する嬉し涙だった。
そして魔法使いさんも、その事は分かっていたからか、しばらく黙ってその様子を見守ってくれている。
「そろそろ家に帰れよ。 そもそも二人揃ってまだ泣く暇があんなら、さっさとお家に帰って明日にでも備えろ!」
「はい、魔法使いの先生!」
「先生だぁ? その呼び方は止めろ…ゼールだ」
「「え?」」
「俺の名前だよ。 そもそも俺は『先生』なんて呼ばれるような人間じゃねぇ。
だから呼ぶなら名前で呼べ! 分かったか?」
「「はい、ゼール先生」」
「だから"先生"を付けるなって、言ってんだろが〜!」
こうして俺達は自分達が「教わりたい」と思った人から、魔法を教えて貰えることになった。
そしてこの日を境に、俺達の学園生活は大きく変わり始める事になる。
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