体育祭が終わって
最後の競技が終わって昼休みを挟んだ後、すぐに閉会式が始まった。
そして、早速学園長が閉会の挨拶を始めた。
「今回はあいにくの天気のため、君達が楽しみにしていた体育祭が、短縮となってしまったのは非常に残念だったと思います。
ですが、生徒の皆さんが見せてくれた数々の素晴らしいドラマのおかげで、短いながらも多くの感動を感じられた素晴らしい体育祭だったと私は思っています。
また次回の体育祭においても、皆さんの素晴らしい活躍に期待していますよ。
以上をもちまして、本日の王立学園の体育祭は終了とさせていただきます。
初等部の皆さん、本当にお疲れ様でした」
こうして学園長の閉会のあいさつがあっさり終わったんだけど、それもこの後雨が降る予報が出ているからで、閉会式が終わった後はすぐに教室に戻った。
そして皆で教室に戻って着替えた後、後は先生が教室に戻ってくるのを待つだけだった。
だけど、その間教室内に流れる空気がやたら重かったのは、クリスが未だに酷く落ち込んでいたからだった。
恐らく、自分のせいでEクラスが優勝を逃してしまったことを、まだ気にしているんだろう。
そんなクリスを見かねたクラスメイト達は、クリスがリレーで転倒したことに関してフォローを入れ始めた。
「あんなこと普通できないから」
「むしろクリストファー君らしくてよかったし」
「そもそも誰も気にしてないって」
「だからもう泣かないでよ」
そう言ってもう何も気にしてないことをクリスに伝えつつ励まそうとする。
しかし、皆の励ましの言葉を聞いていたクリスは、突如ポロポロと涙を流し始めてしまった。
どうやら皆の優しさは、今のクリスにとって逆に辛かったようだ。
こうして、ますます教室内の空気は重くなってしまった。
(はぁ……いくら責任を感じているからって、そう何度も泣かれるのも、困りもんなんだよなぁ)
どうすればこの状況を上手く治められるか、必死に考えていると、
「皆さん、お待たせしました。 帰りのホームルームを始めますので席についてください」
先生が教室に入ってきたことで、クリスの周りに集まっていた俺達は自分の席に戻った。
「皆さん、今回の体育祭、あと一歩のところで優勝は逃してしまいましたが、それでもこのクラスは大健闘しましたね。
だから、そんな皆さんに先生からご褒美です」
「え!?」
「何々?」
先生がご褒美として用意してくれたのは、今王都で流行りのスイカジュースだった。
「やったぁー!」
「そ、それ今超人気で、探しても中々買えないやつだよ?」
「先生、ホントにいいの?」
まさか人気のジュースをもらえると思ってなかったので皆が大喜びすれば、さっきまで暗かった教室の空気は一気に明るい雰囲気に様変わり。
「……あれ? でもさぁ……先生、ご褒美は『優勝したら』って言ってなかったっけ?」
そのことをボソリと誰かが口にした瞬間、教室の空気は何とも言えないものに変わった。
確かに先生との元々の約束は「優勝したらご褒美が出る」だったので、優勝できなかったのにご褒美をもらうことに対して、皆はためらいを感じてしまったのだ。
「そうですね。
今回皆さんは体育祭で優勝は逃してしまいましたから、本来は先生からのご褒美はなしです。
ですが、皆さんは先生が思った以上の活躍を見せてくれましたし、皆さんが頑張っている姿は、学園長もおっしゃっていたように、多くの人に感動を与えていました。
つまりコレは、皆さんの頑張りがもたらしたものなのです。
だから、胸を張って受け取りなさい」
そう言って俺達の頑張りを認めてくれた先生は、一人一人に、
「お疲れ様」
と声を掛けながら、ジュースを手渡していった。
そして、先生がクリスにジュースを手渡そうとした時、
「……僕はもらえないです」
そう言って、クリスは先生のご褒美を拒否した。
「そんなこと言わないでください!
クリストファー君だって一生懸命頑張ったんです。
ですから、コレを受け取る資格はありますよ」
「でも、僕のせいで優勝が……」
やはり自分のミスで優勝を逃したことに責任を感じているクリスは、先生の励ましの言葉さえも受け入れようとしない
「なるほど……クリストファー君がそう考えているのでしたら、あえて言わせてもらいます。
そんなに自分のやったことが許せないんでしたら、許せるようになるにはどうしたらいいのか?
そのことをしっかり考えなさい」
「……」
「それに、君がやったことが全て間違いだと先生は思っていませんよ」
「……どうしてですか?」
「君が他のクラスの子を助けたことを、否定する人はいましたか? むしろ他のクラスの生徒も含めて、称賛していましたよね?
だから、君の優しさによって生まれたものは否定しないであげてください」
「……」
「君は本当によく頑張りました。
だからコレでも飲んで、頑張った自分を労ってあげてください」
そう先生は伝えた後、静かにジュースをクリスの机に置いていった。
・・・
・・
・
こうしてホームルームも終わり、下校の時間となっても、クリスは自分の席で俯いたまま動こうとしないので、皆が心配そうに見つめていた。
「クリス、帰ろう」
「……」
俺はクリスに、いつものように「一緒に帰ろう」と声を掛けたが、相変わらず俯いたままで、何の反応も示さなかった。
だから俺は、後ろで心配そうにしているクラスメイトに、
「俺がクリスの様子見てるからさ、皆は先に帰ってよ」
「……え?」
「でも……」
俺の提案を聞いたクラスメイトは、非常に気まずそうにしていた。
それも、ほとんどの生徒は体育祭を見学に来た親と一緒に帰れる楽しみがあるからだ。
「俺の父さんと母さんは、仕事があるからって、もう仕事に戻っちゃったんだ。
だから俺はいつも通り帰れるから、後は任せてよ!」
父さんと母さんは、仕事の合間を縫って応援に来てくれていた。
でも、最後の競技が終わって一緒にご飯を食べた後、商会の事務所に戻ってしまった。
つまり俺は、他の皆のように親を待たせている訳じゃない。
「……じゃ、じゃあ」
「ライト君、後はお願い」
皆は少し気まずそうにしつつも、クリスのことを俺に託して帰っていった。
こうして、教室に残っているのは、俺とクリスだけとなったが、相変わらずクリスは俯いたまま黙っていた。
「……じゃあ、帰る気になったら教えてな」
俺はクリスにそう伝えた後、あらかじめ持っていた読みかけの本を読み始め、クリスの気持ちに整理がつき、帰る気になるまでの時間を潰すことにした。
・・・
・・
・
……ポツポツポツ
「あっ! 雨がまた降ってきた」
本を読み始めて一時間ぐらい経つと、予報通りまた雨が降り始めた。
「凄いね、天気予報って!
こんなにもぴったし雨が降るタイミングを当てちゃうんだからさ」
最近の天気予報の精度に感心してしまったので、素直に思ったことを口にしてみたが、特にクリスから何の反応も返ってこなかったので、
(う~ん……もうしばらく時間が掛かりそうかな?)
そう思って再び本の続きを読み始めようとした時。
「……なんで?」
「ん?」
「なんで……怒らないの?」
やっとクリスが口を開いたかと思ったら、これまた「なんでそんなこと聞く?」って思えるような質問をしてきた。
「なんでって言われても……そもそも何か俺が怒る理由ある?」
この時の俺は、クリスがどうしてそう思ってるかさっぱり分からなかったので、素直に思ったことを口にしてしまった。
するとクリスは、複雑な表情を浮かべながら、ゆっくりと自分の気持ちを俺に打ち明け始めた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




