最終競技
「どうやら各クラス準備が整ったようです」
「泣いても笑ってもこれが最終種目、クラス対抗リレーが間もなく始まろうとしています」
実行委員のアナウンスが、静まり返ったグラウンドに響き渡る。
だが、選手たちはそれに耳を傾けることなく、真剣な顔で黙ってリレーの開始を待っていた。
(……よし、さっきのクリスとのことは一旦忘れて、今は走ることに集中しよう)
そんな中、俺は結局クリスとの間に流れる微妙な空気を、変えることができなかった。
それどころか、チームメイトに余計な心配を与えてしまったのを、さっきまで後悔していた。
だけど、いよいよ本番迎えるとなると、周囲の空気に緊張が走り、その空気を感じれば、俺の気持ちも自然と勝負に向けて引き締まってくる。
「やぁ、ライト君」
「……」
「おい、無視するなよ!」
「!」
そう言って誰かが俺の肩を掴んできたが、そのことに少し驚いてしまったので、体を軽く震わせてしまう。
(……誰だよ、今は目の前のことに集中したいんだけどなぁ)
そう思いつつ、この状況で話しかけてきた奴の方を向くと、
「あっ! ジギスムント君」
「やぁ、僕のライバルよ! 本番前にボーっとしてどうしたんだい?」
「いや……前も言ったと思うけど、君のライバルになった覚えないから!」
この前の1000m走の練習でジギスムント君に勝って以来、なぜか彼にライバル認定されてしまった。
だけど、俺としては、ちっとも嬉しくない!
(そもそも、コイツが持てる力を惜しみなく使って走られたら、俺は手も足も出ないんだって……それでライバル認定されてもなぁ……)
「大体さぁ、俺よりライバルになりそうな奴なんて、いくらでもいるよね?」
「そうかもしれない! だけど、僕には君だけなんだよ!」
ジギスムント君は胸を張って大きな声でそう宣言した。
そして、その会話を聞いていた他の子達は、
「ウソ? マジで??」
「もしかして……あの二人そっち系?」
(……何か変に勘違いされてない?)
誤解から生まれた話題を聞いた瞬間、一気に変な噂が広まりそうな嫌な予感がした。
「いや、誤解を招くような言い方は止めてくれ!」
「誤解なんかじゃないよ!
なんて言うかさぁ、他の奴等ってある程度差を付けて走ってたら、すぐに諦めるんだ。
でも、ライト君は最後まで諦めないで僕を追ってくる。
そんな君の姿を見てると、僕のハートは熱くなって、心がざわつき始めるんだ!
こんな気持ちを与えてくれる君こそ、僕の相手に相応しい!!」
「……うっわぁ、ありゃ相当お熱だぞ」
「え、えぇ! まさかの公開告白!?」
「だ・か・ら!
誤解を招くような言い方するな~!!!」
最近ジギスムント君と話すようになったのはいいけど、独特な表現のせいで周りに毎回変に勘違いされる。
だから、正直彼の相手をすると非常に疲れる……。
「……ねぇ、それよりジギスムント君の方こそ調子はどうなの?
正直さ、君あんまりリレー得意じゃないでしょ?」
「心配無用!
確かに僕はバトンを持つと、風魔法を普段のように上手く使えない。
だけどね、前回は君に敗北し、煮え湯を飲まされた後、僕はあの時の君を見習って、とっておきを用意した!
だから、今回は前回のようにはいかないぞ! ライト君!!」
「え? ってことは、もしかしてアンカーなの??」
「当然だろ! 君ともう一度戦うために、クラスの皆に無理言ってアンカーにしてもらったんだぞ!」
そう言って、ジギスムント君は大笑いをしていたが、思わぬ情報が入ってきた。
実はジギスムント君は、リレーだとバトンを握っているせいで、持ち前の風魔法を上手く使えない。
だから、何も持たないで走る競技ほどスピードが出せず、元々リレーではCクラスのアンカーを務めていなかった。
なのに、わざわざ俺と再戦するためにアンカーになったって聞いた時は、正直ちょっと引いた。
けど、同時に嬉しい情報でもあった。
(……よし、まだバトン持ったまま上手く風魔法を使えないんなら、こっちに勝機は十分にあるぞ)
もちろんジギスムント君の言う「とっておき」というのも気にはなるけど、バトンも持って走っている彼のスピードは、1000m走の時に見せたような、驚異的なスピードではない。
(後は、クリスが食い付いてくれたら、この勝負勝てるぞ!)
なんせクリスだって、俺と同じように魔力で肉体強化が出来る!
スピードは俺ほどじゃないにしても、学年の中じゃ割と上位クラスだ。
(あれ? これって俺達Eクラスが優勝する可能性、かなり上がったんじゃない?)
この時の俺は、本気でそう思っていた。
―――
「それでは位置についてください」
スターターが声をかけると、各クラスの第一走者はスタートの態勢に入った。
「……よーい」
パン!
ピストルが鳴ると同時に、第一走者が一斉に走りだせば、先程の雨でびちゃびちゃになったグラウンドの土が跳ね上がる。
だけど、誰もそのことを気にする様子もなく、先頭目指して駈け出している。
いよいよ優勝を懸けた最後の戦いが始まったのだ。
「さぁ、一年生のクラス対抗リレーがいよいよ始まりました!」
「先頭は、Eクラスのアレクシア・フローレスさん!」
まずEクラスは、順調な滑り出しを見せたが、あのフローレスさんなら当然の結果であり、テントにいる応援組から、
「いいぞー!」
「このまま優勝よー!」
なんて声援が聞こえ、応援組も大いに盛り上がっている。
(って言っても、他のクラスの奴等も十分早いから、差はほとんどないんだよなぁ)
そしてフローレスさんから第二走者にバトンが渡り、第二走者が走り出すと次はB組のランナーがトップに躍り出て、Eクラスは一気に四位に順位を落とすが、まだしっかり上位陣に食らいついている。
そして第三、第四と走者が変わるたびに順位は大きく変動し、応援団もそのたびに応援に含まれる感情が変わっていく。
これこそリレーの面白さであり、不安要素でもある。
(……後は皆を信じよう。
俺は自分のやることをやるだけだ!)
そして、あっという間に第九走者のクリスまでバトンは繋がれ、次はいよいよ俺達アンカーの番となる。
(頼んだ、クリス!)
第九走者のスタートは、ほぼ同時であった。
それに走者の実力も拮抗していたため、大きな差もないまま各自コーナーに入った。
誰もが我先にとインコースに入ろうとし、少しでも有利な状況を作ろうとする。
そんな状況下で、クリスは四位でコーナーに入ったが、上位との差はほぼなく、ここでも接戦が続いていた。
(よし、その調子だ!)
この流れなら、十分に優勝が狙えると俺は確信していたので、
(別に先頭に躍り出なくていいから、このままの流れでバトンを俺にくれ!)
そんな思いでクリスを見守っていた。
そしていよいよコーナーが終わりに差し掛かろうとした時、
ズルッ!
クリスの前を走るAクラスの子が、濡れたグラウンドで足を滑らせる。
そしてそのまま転倒しそうになった時、
「危ない!」
なんと後ろを走っていたクリスは、転びそうになった子の体を支え、転倒から救ったのだ。
「おっと! なんとAクラスが転びそうになったのを、Eクラスの選手が救ったぞ!」
「素晴らしいスポーツマンシップですね」
思わず実況解説も、そんなクリスの姿を褒めたたえ、その姿を見れば
「「「「「「「ワァァァァァァ!!!!!!」」」」」」」」
会場は大いに盛り上がると同時に、皆がクリスに称賛の声を上げる。
その直後に事件は起こった。
ドシャ!!
「な、なんと! ここでまさかEクラスの選手が転倒だぁ!!」
「う~ん……ここに来て転倒は痛いですね」
もし神様が本当にいるのなら、神様って凄く残酷な生き物だと思う。
だって良きことをしたはずの人間に、何のご褒美も与えないんだから。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




