雨後
突然の雨のせいで、体育祭は一旦中止となり、生徒たちは教室で待機となった。
「……」
そして、教室で待機している間は誰も何も話さないので、普段は騒がしくしているクラスとは思えないほど、静かだ。
それも、先生達が現在会議を開いているからだった。
体育祭を中止にするか?
雨が止み始めているので、このまま続けるか?
その答えが出るのを、ただひたすら待っていた。
ガララララ!
教室の扉が開き、先生が教室に入ってくるが、その表情は、普段と変わりないようにも見えるが、どこか思うところがあるようにも感じる。
だから、これから先生の口から出る言葉が、俺達Eクラスが望んでいる「体育祭の続行」なのか? 中止なのか?
その答えを聞くのが、とにかくこの時は怖くて仕方なかった。
「えー、それでは皆さん、お待たせしました。
先程職員会議で、このまま体育祭を続行するのか? そのことについて話し合って、決まったことをお伝えします」
いよいよ先生から、結果が発表されようとした時―――。
教室の誰もが、願うような目をして先生を見つめていた。
(神様、お願いします! どうか「続行」って先生が言ってくれますように!!)
俺も、心の中で必死にそう願った。
「今は一時的に雨は止んでいますが、天気予報によると一~二時間後に再び雨が降ると予測されていますので、体育祭は午後から中止とします」
「「「「「「えぇぇぇぇー!」」」」」」
先生の報告を聞くと、教室から落胆の声が上がる。
「そんなぁ~……」
「僕達……ビリなんだぁ」
(はぁ、やっぱりダメだったかぁ……というか、廊下からもガッカリする声が聞こえてくるってことは、他のクラスも皆残念がってるんだな……他のクラスの奴等も同じ気持ちだったら、なおさら最後までやってみたかったなぁ)
そう思うと、こんな不完全燃焼状態で体育祭が終わってしまうのは、本当に残念に思えた。
「皆さん、先生は体育祭は午後から中止と伝えましたが、まだ話の続きがありますから、ちゃんと最後まで聞いてください」
「……」
中止と聞いて、皆すっかり落胆していたので、先生の話の続きなんて誰もが心底どうでも良さそうな顔をしていた。
「確かに、体育祭は午後から中止と言いました。ですが―――」
すると先生は、意味深に言葉を切る。
「現在の天候が一時的に回復したのと、生徒たちの続行したいという要望を踏まえ、最後にクラス対抗リレーだけは開催します。
そして、その後はすぐに閉会式を行い、すみやかに下校となります。
ですから、皆さんの戦いはまだ終わってません」
先生の説明が終わった後、教室はまた静まり返った。
「……じゃ、じゃあ、まだ私達に優勝のチャンスはあるってことなんですか?」
フローレスさんが恐る恐る先生に尋ねると、
「そうですね。
リレーは最後かつ一番大掛かりな団体競技の一つですから、点数配分も高いです。
それに、他のクラスとの得点差もそこまで大きく開いていません。
つまり、この競技で君達が一着でゴール出来たら、優勝できる可能性はまだ十分あります」
先生は、ハッキリとそう言った。
「……じゃあ、リレー勝てれば?」
「まだ優勝が狙えるのね!」
「よっしゃぁぁ! やる気出てきたぞ!!」
先生から「まだ優勝の可能性がある」と聞けば、皆の闘志が再燃する。
「そういえば先生、ちゃんと俺達が優勝したら、ご褒美もらえるんだよね?」
「はい、約束通りちゃんと準備してます。
だから、是非優勝勝ち取ってくださいね!」
こうして、先生が約束を守ってくれていることを知った俺達は、さらなるやる気に満ちた。
「こうしちゃいられない」
そう言わんばかりに、俺たちは最後の競技に向けた作戦会議を始めた。
・・・
・・
・
「さぁーて、突然予想外の雨が降ってしまいましたが、なんとか雨が収まったのと、生徒たちの『続けたい』という熱い要望に応えて、これより最終種目『クラス対抗リレー』を開催しまーす」
ワァァァァァァ!!!!!!!!
雨でグラウンドがぐしょぐしょになっているなか、体育祭は再開されることになったけど、誰もそんなこと気にしていなかった。
(というより、むしろ皆再開が絶望的だと思っていた体育祭が再開されたから、テンションハイになってて、めちゃくちゃ盛り上がってるんだよな)
素直にそう思えるぐらい、生徒達が集まったグラウンドは、すさまじい熱気に包まれていた。
「さて、では最初に一年生の対決から始まりますが、いきなり面白い展開となっていますね」
「そうですね!
得点を見る限り、どのクラスにも優勝のチャンスがありますからね!
現在各クラスの点数は上位から、
Bクラス 750
Dクラス 742
Cクラス 735
Aクラス 729
Eクラス 722
となっており、得点の差は僅差であります」
「なるほど! 確かリレーの点数配分は、
一位 150
二位 120
三位 90
四位 60
五位 30
となっていますから、そう考えると、まだどのクラスにも優勝のチャンスは残っていますもんね」
実況解説の言う通り、今の所点差は接戦だ。
つまり、現在最下位の俺達Eクラスが、リレーで一位を取れれば合計872点。
そうすれば、現在一位のBクラスが二位を取ったとしても合計870点。
つまり―――
(俺たちが一位なら、間違いなく優勝できる!)
そう、最後の最後に逆転のチャンスが残っていたのだ。
「それでは、代表選手の皆様はグラウンド中央に集まってください」
「じゃあ皆、勝ってEクラスが優勝するわよ!」
「「「「「「おう!!!!!」」」」」」
こうしてフローレスさんを先頭に、俺を含めたEクラスの代表選手10名は、最後の戦いの場に向かった。
―――
「じゃあ、走る順番だけど、予定通りいくけどいい?」
「「「「オッケー」」」」
クラス対抗リレーは、十人でバトンをつないで走る形式だ。
そしてEクラスの走る順番は、先頭走者をフローレスさんが勤め、俺はアンカーという大役を務める。
そして俺の前の走者は、クリスなんだけど、相変わらず俺達の間には微妙な空気が漂っていた。
(リレー前にはこの空気を変えたかったんだけどなぁ……)
そう思うのは、リレーではバトンを渡すタイミングが非常に重要だ。
つまり、お互いに変にわだかまりが残ったままというのは、必要以上に相手をしてしまうだろうし、それがバトンミスに繋がる可能性だってある。
(そもそも、お互いこんな状況だと、チームプレイしたいとは思わないよな……よし)
間もなくリレーが開始されるのだが、クラス対抗リレーは、一人がトラックの半周を走り、次の走者にバトンを渡す形式だ。
だから、奇数走者と偶数走者に分かれ、それぞれ別々の場所で待機するようになっている。
なので、クリス達奇数走者は、俺の待機場所と反対の場所に移動しようとしていた。
「クリス!」
「……何?」
「お互い頑張ろうな!」
「……うん!」
ここ数日は、変に気を使ってしまって、挨拶ぐらいしかクリスに声を掛けていなかった。
だから今、思い切って声を掛けエールを送ってみたが、クリスの反応は今回もそっけなく、以前のような笑顔を見せてくれることはなかった。
(はぁ……チームメイトが見てる前でそんな微妙な返事するなよ。 皆が変に心配してるから!
ったく、こんな時ぐらい元気に返事返してくれたっていいじゃないか……)
結局、クリスとの間に流れる微妙な空気を換えることはできなかった。
こうして、俺達は不安な空気を……いや、俺とクリスはわだかまりを抱えたまま―――。
Eクラスの優勝を懸けた、戦いに挑むことになってしまった。
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