勝つために
スタートの合図と共に、ランナーが一斉に走り出す。
1000m走は、一周200mのトラックの5周勝負。
よって5周のペース配分も大事だが、自分が先頭ではない場合、先頭走者に食らいついていけないと、一位を取るなんてまた夢の話だ。
そしてこのレースには、さっそくその夢をぶち壊しに来る奴がいる。
スッ
なんて擬音が聴こえてきそうな軽やかな動きで、一瞬にして首位に躍り出るのは、やはりジギスムントだった。
奴が一歩地面を蹴れば、その体はふわりと宙を歩くように舞っているように見えるのは、ジギスムントが一歩蹴るたびに風魔法を使って体を宙に浮かせるからだった。
「いいぞぉ~!」
「凄~い! ジギスムントく~ん!!」
「カッコイイよ~!!!」
奴がグラウンドを優雅に飛び回るように駆け抜ければ、ジギスムントのクラスから大声援が起こり、他のクラスのファンから黄色い声援が飛び交う。
(っていうか、Eクラスの女子もジギスムントに声援送ってんじゃねーよ!
ハハハ……華麗に動けるイケメンの人気っぷり恐るべし)
Eクラスの女子の一部が、同じクラスの俺じゃなくて、ジギスムントに声援を送るのは気に食わないけど、怒りに任せてペースを上げたってアイツには絶対勝てないのは分かっている。
だから俺は、ジギスムントに対して湧き上がる嫉妬……じゃなくて、対抗心を抑えつつ、一週目は自分があらかじめ決めておいたペースを守り、二位を維持する。
(しかしさぁ……アイツ、一歩で進みすぎなんだって!)
そう思うほど、ジギスムントが風に乗った時の跳躍力は凄まじかった。
そして俺と他のクラスがトラックを半周した所で、
「おっと、Cクラスのジギスムント君! もう一周走り終えたぞ!!」
実況も興奮するほどのスピードでトラックを駆け抜けるジギスムント。
この時俺とヤツの差は、一週目にして100m。
(……まぁ、これも想定内だけど)
ここまでは俺の予想通り、圧倒的スピードで俺達他のランナーに大差をつけ、ジギスムントが首位に躍り出た。
そしてこの後、
奴がこのペースを維持するか?
はたまた、さっさと決着をつけようと更にペースを上げるのか?
(後は、俺の予想通りになることを願ってる)
そして俺や他のランナーが二週に差し掛かった所で、ジギスムントは相変わらず100m先を走っていた。
(よし、予想通りの展開だ)
ジギスムントは、自分が圧倒的に速いのを自覚してしまっている。
だから「圧倒的な差をつけた後に、手を抜いてしまうし、勝つ時は派手に勝とうとする」
そんな悪癖がある。
(そこを突けば、俺にだって勝機はある!
あくまで、このままあいつの気が変わらなかったら……だけど)
そしてこのまま二週目に突入すると、俺は僅かにペースを上げた。
続いて三週目も僅かに速度を上げるが、まだまだジギスムントとの差は開いている。
おまけに、俺の後ろには他のランナーがべったり食らいついているので、前ばかり気にて走るわけにもいかない。
そして四週目。
ココで更にペースを上げると、ようやく後方ランナーとの差は開いた。
(ここまでは順調だな)
そして、俺が四週目の3/4を走り終えた所で、奴は最終周に差し掛かった。
(これで差は約50mか……)
俺は、あえて一気にジギスムントとの距離を一気に詰めず、時間をかけて詰めて行ったのは、一気に差を詰めて、ジギスムントを下手に警戒させない為だ。
こうすることで、
「まだ速度を上げる必要がない」
と思わせつつ、自分に迫ってくる期待は残せば、最後に花のある勝ち方をしたいジギスムントは、一気に勝負を決めようとはしない。
そんな絶妙な距離を取りつつ、俺が残り一周で逆転出来る距離まで詰めいく。
それが、俺の作戦だった。
そして、遂に俺も最終周に入った。
ここで温存していた体力を使い、更にペースを上げる。
そして残り150mの時点で、先頭との差は40mとなった。
そして、そのままゴールまで残り100mとなった時、奴との差は30m。
(よし、このままいけば!)
そして最終コーナーの半分、残り50mを過ぎた時点で、トップとの差は15mまで迫った。
「やっと追いついてきたね、ライト君!
君ならきっと、どこかで僕に迫ってくると信じていたよ!!」
ジギスムントは嬉しそうに俺が迫ってきたことを喜んでいたが、その表情はまだまだ余裕がある。
(ったく、こっちは後ろから抜かれるかもしれないプレッシャーに加えて、もう体力が限界一歩手前だってのに……そんな嬉しそうな顔してんじゃねぇよ!)
息を激しく切らし、切羽詰まった思いを抱えながら、更に足に力と魔力を込めて、最終コーナーを走り終えれば、いよいよ最後の直線勝負となる。
この時、俺はヤツの後方5メートルまで迫っていた。
そして、ジギスムントが直線の半分を過ぎた時、俺と奴の差は、もう1メートルを切っていた。
このままのペースでお互い走り続けるなら、俺が勝てる。
そして俺がヤツの真後ろに迫った時、
「よし、じゃあここで最後の見せ場といこう!
ついて来てよ、ライク君!!」
そう言いながら、ジギスムントは更に加速し、勝負を決めにかかったのだ。
だけど、俺はもうこれ以上走る速度を上げることはできない。
せっかく目前まで迫ったってのに、ここで無様にまたアイツに俺は負けるのか?
「……ハッ、今日だけは、そうも行かないんだよぉぉぉ!!」
奴が加速した直後、俺は足の裏に自分がコントロール出来る範囲を超えた魔力を集め、思いっ切り地面を蹴れば、
ボンッ
っという音を出しながら、地面を抉るような勢いで更に加速する。
(これゼール先生にバレたら、絶対めっちゃ怒られるよなぁ……)
いま俺がやってることは、初めて体内の魔力をコントールした時、先生から
「二度とやるな!」
と、釘を刺された【自分の肉体が制御出来る範囲を超えた魔力操作】だった。
だけど、今はこの後自分がどうなるかより、掴みたいものと、取り戻したものがあった。
だから、もう後先なんて一切考えていなかった。
こうして、禁じ手を使ったことで、ジギスムントに再び離されそうになった差は、再度縮まった。
軽やかに宙を駆けるジギスムントに対して、地面を荒々しく抉って走る俺。
全く正反対の走り方でのラストスパートとなったが、俺の荒々しい走りの方が、僅かに速い。
そして、俺が地面を激しく蹴る度に、ジギスムントとの差は縮み、遂に俺とジギスムントは並んだ。
「……なぁっ、う、嘘だ!」
ジギスムントは、真横に俺が並んだことで動揺する。
その瞬間、奴の動きに乱れが生じ、走るペースが落ちた。
俺はその瞬間を見逃さなかった。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
俺は今残るありったけの魔力を足に集めて、地面を蹴って最後の勝負を仕掛けた。
そしてそのまま、ゴールラインを飛び越える。
もっとも飛び越えた後のことなんて何も考えていなかったので、俺はそのまま地面に体を打ち付け、地面を転がり回る。
ようやく転がるのが止まった時、俺は大の字で空を見上げていた。
「……勝った……のか!?」
とにかく早くゴールすることしか考えてなかったので、俺とジギスムントのどちらが一位だったのかを確認しようにも、魔力を限界以上に行使したせいで、体が全く動かせない。
「な……な、なんと! 最後の最後に、まさかの大逆転です。
1000m走一位は……Eクラスのライト君が見事逆転勝利を収めました!!」
勝利のアナウンスがグラウンドに響き渡る。
そして、
【ワァァァァァァァ!!!!!!!!】
遅れてEクラスからの大歓声がグランドに響き渡ったことで、ようやく俺は自分が一位を勝ち取ったことを実感する。
「やった……やったぞぉぉぉぉ!」
俺は感極まっていたのもあって、この時叫ばずにいられなかった。
「スゲーよ、あいつ!」
「嘘でしょ……ホントに勝っちゃった!」
「いやぁ、やる時はやるタイプだとは思ってたけど、まさかホントに勝っちゃうとはねぇ~」
「わ、私は最初からライト君なら勝てるって信じてたわよ」
Eクラスの皆が、俺を褒めたたえながら俺に駆け寄ると、動けない俺の体を抱え上げ、そのまま胴上げが始まる。
その光景は、傍から見れば、
「なんでこいつ等、練習で勝ったぐらいでこんなに喜んでるんだ?」
そう思われても仕方がない光景なんだろうけど、俺達Eクラスにとっては、この勝利に重大な意味があったから、他のクラスの奴にそんな目で見られたって、なんとも思わなかった。
むしろ、この時俺が気になっていたのは――
(俺の元に駆け寄って、一緒に喜んでくれないんだな……)
まだクリスとの距離が遠いことだった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。




